2話 鬼の子退治と昔のお話

更新できるときにいっぺんに更新する、するんだ!
といっても今回もPixivの加筆修正です。思った以上にボロが出る。推敲してるけど気に入らないとか出てくる。
『とにかく書こうぜ』で書いてるとあとが恥ずかしいね。でもやるんだ。

書いてる当初は付けてませんでしたが、構成上キャラ分けが色淵が丘とか筆咲とか2つ分かれてるのが厄介かなと思い、『帆布市(はんぷし)』としてまとめました。
早い話が、街の中にある2つの校区の伝承という当たりで、もうミクロ感がすごい。

そんなわけで2話です。状態変化が一切なしのバトルになってしまった、チクショウ。

・2014/11/04追記
あああああああああああああああああああああ画像間違えてああああああああああああ
さしかえましたああああ

「本当にやるつもり?」
夜の帳に包まれる公園で、2人の少女が言葉を交わす。

かたや赤茶髪の直毛に制服姿の少女。
そしてもう一方は黒のゴスロリドレスにレースのベールをまとった、少女と言うには少々年を得た少女。
「決まってるわ、あの鬼の子を倒してきらりを取り戻す。紫亜さんにも言ったはずでしょ?」
紫亜と呼ばれた女性はしばし黙り込む。体格差では紫亜のほうがすらりと背が伸びている。
黙り込んだまま、何か期待するかのように少女をちらちらと見る。
「分かった、分かったわよ。呼べばいいんでしょ! ……紫亜姉さま」
「はい、よくできました」
おっとりとした声がベールの下から響く。
「でもね、真畔(まくろ)。あなたはもう少し私の話を真摯に受け止めるべきなの。この真実の書に記されている内容を受け止め――」
「またそれ、そう言うのって中二病って言うの知ってる?」
「うぅ……」
顔も夜の帳とベールによってハッキリとは見えないが、紫亜と真畔もまた『色』を持ち、そして少々変わった趣を持っているに違いない。
「私は決めたの。あの翠って子が鬼の色を持っている以上、きらりに近づかれると危険だわ。それぐらい分かってるでしょ……紫亜姉さま」
最後だけ嫌々ながら付け加える真畔。
「だったらいいけど、あまり激しいことはしないでね。あの子は確かに黒だけど、私にはそう悪い子には見えないの」
「紫亜……姉さまがそういうのなら構わないけどね。私は私で動くわ。それじゃね」
「あ、まって真畔」
「なに?」
呼び止められ、足を止める真畔。
「あの色喰いの話、誰から教わったの?」
「内緒!」
「……そう、変な人に気をつけてね。月の祝福あれ」

家路につく真畔を公園から見送り、ベールを外す紫亜。街灯に照らされた顔には憂いが浮かんでいた。
「しばらく見守っておかないと、ですわね……へくしっ、この格好、今日は少し冷えますわね」

そして翌朝、市立筆咲小学校ではいつも通り生徒が通い、和気藹々とした話に浸る。
「おはようきらりちゃん」
「おはよう真畔ちゃん! ねぇねぇ、昨日はすごかったよ」
同じクラスであるきらりと真畔もイスを傾けながら話に浸る。先生が来るまでのおしゃべりはきらりにとって当たり前の行動だ。
「あの大木の話、本当だったの?」
「うんうん、こうわさわさーって襲いかかってきて大変だったけど、すーちゃんが助けてくれたんだ!」
「……そう。そのすーちゃんって子と仲良いんだ」

少しだけ声が曇る真畔。彼女のもう一つの懸念がこれだ。
実は真畔もきらりや翠と同じく『色』を持っている。
彼女が持つ色は『紫』、対象を覆うことでプレッシャーを与え、自分を覆うことで地位の高い印象を持たせることが出来る色だが、色喰い相手には足止め程度にしか役に立たない色だ。
それでも害が及ばないよう、イロクイに追い回されるきらりにいつも付いてきた――そんな所に現れた部外者、それが翠だった。
きらりが翠と一緒に遊ぶようになってからと言うもの、真畔は心のどこかに孤立感を抱えていく。そんな最中に図書館で知った鬼の話と鬼の持つ『黒い色』。

そう、五木真畔(いつき・まくろ)はただ、鬼の色を持っているという理由だけで翠を目の敵にしている訳ではなかった。
翠に対する嫉妬心と、きらりを守ろうとする使命感に苛まれていたのだ。

「そうだよ? あっ、もしかして真畔ちゃん――」
「はーい朝の会始めるぞ。席に戻れー」
先生が教室に入ると、これまで話に興じていた生徒があわただしく席に着く。
「あとで、あとでね!」
きらりと真畔も席に戻り、つつがなく朝の会は幕を上げたのであった。

場所と時間は変わる。
時間は昼休み、場所は筆咲小学校の隣に当たる、市立色淵が丘小学校。
翠が通っている小学校でもあるが、彼女を取り巻くような子はいない。どこか孤立感すら感じられるも翠は特に気にすることもなく、図書室から借りてきた本を戻そうと準備をしていた。
そんな時、スマートフォンが激しく震え、メールを知らせる。相手はいつも通りきらりからのメール。
『今日の放課後、いつもの公園でね!』
キラキラマークをたくさん付けたメール。それに『わかった』と素っ気なく返す翠。
また何か見つけたのだろうか。だとしたら今度はどんな怪異が出てくるのだろうか。翠はあまり表情を出さずとも、気になってしょうがなかった。
スマホを直して教室を出ようとしたその時。

「ひゃっ!」

「あうっ、ごめんなさい」
談笑していた少女の背にぶつかり、翠は思わず謝る。
「ちょっと、四谷さんにケガでもあったらどうするの!?」
「いやいや気にしないで。でもよそ見しちゃダメだ~よ?」
にいっと笑顔を見せる少女。
「ごめん、急いでるから」
翠に文句を付ける少女を節目に図書室へ急ぐ。その場にいる空気が居たたまれなくなったからだ。
「六宮さんって無愛想だよね、なんかムカつく」
「うーん、六ちゃんって恥ずかしがり屋なのかなぁ。まぁまぁあまり責めないで、ね?」
クラスメイトが怒るのをなだめながらも、ツインテールとアホ毛の四ツ髪少女はちらと、図書室へ急ぐ翠をみるのだった。

放課後、翠は家に帰らず、きらりと待ち合わせをしている公園へと向かう。
きらりのことだからもう来ている頃だろう。そう思い、彼女がいつも座っている遊具の近くを見る。
すると、そこにいたのはきらりだけではなく他の子もいた。なにやら話をしていて、その姿はどこか仲良くも見える。
「(もしかして、小学校の友達かな)」
一抹の不安を抱えつつも、翠が姿を見せるといつもの
ようにきらりが手を振ってくれる。
「いたいた、今日は紹介したい子がいるんだ!」
「紹介したい子って、その子?」
隣に座る翠。
「うん、五木真畔ちゃん。同じクラスメイトなんだ」
「初めまして、五木です」
「六宮、翠です」
ぺこりと挨拶し、座る翠。
「ねぇ、六宮さんは『鬼の子』って知ってる?」
「なにそれ」
話を切り出す真畔に対し、翠は始めて聞く言葉に首をかしげる。
「鬼の子はね、この町の昔話に出てくる鬼で、子供から色を奪っちゃうの」
「どうやって奪うの?」
「わからない。でもね、鬼の子は他の色使いにやっつけられちゃうの」
「倒されちゃうんだ」
何を話しているのか分からない顔で真畔を見る翠。どこか顔も険しくなっていく。
「ええと、真畔ちゃん?」
「ごめんきらりちゃん。だけどね、鬼の子はまた悪さをして皆を奪ってしまうの。私の大切な人も」
尋常ならざる真畔に気配にきらりも焦り、場に緊張が走る。翠もまた『嫌な予感』を覚えながら、真畔の様子をうかがう。だが、展開は思った以上に早かった。
「だから、あなたをここで倒す!」
手をかざす真畔に対し、翠は持っていたサブバッグを投げつけて逃げる。
「いたっ! 待ちなさい!」
「ちょっと2人ともどうしたの!?」
翠の思わぬ攻撃に色を吹き付けるのを止め、真畔も間髪入れずに追いかける。
あとに残されたきらりは、ぼんやりとするばかりだった。
「真畔ちゃんも、色が使えたんだ……」

逃げる翠、追う真畔。
2人は公園にある林の奥へと入っていく。辺りには真畔が飛ばした紫色の霧が立ちこめ、夕暮れの時間と相まってどこか息苦しさを感じる。
「私、鬼の子なんかじゃない」
「ならなんで逃げるのよ!」
当たり前だと返したいが、真畔の様子は明らかにおかしい。まるで私を親の敵のように追い回しているようにも見えるが、心当たりが全くない。
「鬼は色を吹きかけられるのをすごく嫌うの。だからにげてるんでしょ!
「違う、ちがう!」
「昨日だってそう、きらりちゃんと一緒に、イロクイの所まで行ったくせに!」
真畔から告げられた瞬間、何かに気づきムッとする翠。だが、その拍子につまづいてしまい、地面に身を投げる。
「つかまえた、これで!」
マウントポジションを取る真畔の手を覆う紫の霧がふくれあがる。
「使いたくないけど、そっちがその気なら」
翠は押し返す手を黒く染め、真畔の制服に黒を染みこませようとする。
色と色がぶつかり合い、周囲が混沌とした色に変わろうとしていた、まさにその時だった。


「ブルー・エクストレイション!」
闘争を遮るかのように声が、そして『青色』が飛んだ。
驚く2人を分けるように青色の線が地面にVの字に引かれ――2人の目の前に現れたのは黒のゴスロリドレスを纏ったウェーブ髪の少女だった。
「この戦い、そこまでです!」

数分後、乱入者により収められた追いかけっこは、いつしかお説教の場に変わっていた。
林の中で座る3人。汚れないようにハンカチを下に敷き、翠は話のタイミングを伺っていた。
「言ったはずよ、激しいことはしないって」
「だって……」
青い色を顔にかけられた真畔は、ハンカチで拭きながら弱々しく答える。色の持つ感情を鎮める力が、激昂していた真畔の感情を強制的に鎮めたからだ。
「だっても何もありません。色の力を使って同じ力を持つ『色子』を苦しめるなんて言語道断、真畔ちゃんのお母様にも伝えないと」
「止めて! それだけは絶対やめて!」
よほど母親が怖いのか、涙目になり出す真畔。さっきまでの勢いとは正反対の弱腰っぷりだ。
「あの」
「いいえ、今回ばかりは――はい?」
「あなた誰?」
「……」
お説教をするのですっかり忘れ去られていた翠が、真畔へのお説教を止めた格好となった。

「ごめんなさい、名乗るのを忘れてました。私は布津之 紫亜(ふつの・しあ)、青の色子――つまり、あなたと同じ色の力を持っています」
「六宮・翠、色淵が丘小学校の小学4年生です」
「そんなにかしこまらなくて良いのよ。ちなみに私は筆咲中学校の2年生よ」
ちらちらと真畔を見る紫亜。真畔は逃げずに正座したまま縮こまっている。
「まずは『ごめんなさい』よ。真畔ちゃん」
「……」
「色をケンカに使うことが、どれだけ悪いことかは教えたよね?」
「……ごめんなさい」
「私からも謝るわね、ごめんなさい。この子、あなたのことを前から気に掛けてたの」
共に謝る紫亜。2人の関係は翠からしてみても姉妹か、あるいは保護者と言ったところか。
「それにしても、何で場所が分かったの?」
険しい顔でしかる紫亜を尻目に、翠がおそるおそる問う。
「私と真畔は縁の糸でつながってるの。だから」
「私のスマホに何かしたんでしょ」
真畔の突っ込みにしばらく沈黙した後、『え、えぇ、うん、その通り』と返し、声が小さくなっていく紫亜。まるでネタをばらされた手品師のような狼狽っぷりだ。
「あれだけ勝手に触らないでって言ったでしょ!? もうあとからパスワード変えないと」
「まぁそれは置いておき、さすがに今回は耳に入れておかないとダメね。それともう一人、色子がいるよね?」
「きらりちゃん? 今呼んでみる」
後ろで懇願する真畔を尻目にスマホを操作し、翠はめったに送らない呼び出しメールをきらりに送る。
『森の中で変な人が止めてくれた。もうケンカしてないから来ていいよ』
しばらくすると返信が帰ってくる。
『大丈夫!? まくろちゃんすっごいおこってたけどケガとかない!? いまぬかうよ!』
誤字まじりのメールからしばらくし、遠くからきらりが呼ぶ声が聞こえてくる。
「おーい! すーちゃーん! 真畔ちゃーん!!」
思わず立ち上がって手を振ると、きらりははっとした顔で集まっている場所へと向かってくる。
「うぇ!? なんで布津の巫女さんがいるの?」
ゴス姿の少女を見るや、突拍子もない声を上げるきらり。
「ふつの巫女?」
「私のことです、もう一人の色子は七隈さんでしたのね。ではまとめて一つ、お話しをしましょう」
そう告げ、鞄から持っていた本を取り出し、ページをめくる。
「……聞かなきゃダメ?」
「ダメ、だよね」
「はい。色淵の子もいるから、ちょっと張り切っちゃいますね」
翠は聞くべきか迷ったが、話の内容にも興味がある。今は何も言わずにただ、聞き入る姿勢を保っていた。
その横できらりが苦々しく笑い、真畔がげんなりしたのを翠は気づいていなかった。

昔々、この一帯は一つの村だった頃、村には鬼が現れ、人間に悪さをしていていました。
そんなある日、鬼がキラキラとした石を見つけた子供に話しかけました。
「そのキラキラしたものが欲しい」
子供はすごく驚き、逃げようとしましたが先に回り込まれてしまいます。
「キラキラしたものがダメなら、おまえの色が欲しい」
そう言うと、鬼は子供から色を抜き取って、真っ白にしてしまいました。色を抜かれた子供は動かなくなってしまい、鬼はその子供をほらあなの中に隠してしまいました。

色を奪って元気になった鬼は、たくさん悪さをしはじめました。村人は困り果て、神社でお願いをします。
「神さま、鬼を何とかこらしめてください」
すると、神社の中から神様があらわれ、こう答えました。
「七人の子供に虹の色をそれぞれ与えた。その力をまとめて鬼を倒しなさい」
そして神様はもう一つ「鬼をこらしめるよりひどいことをしてはなりません」といい、消えていきました。
さっそく村人は七人の子供を集めました。どの子供も手に色が付いていて、えいと力を込めると虹の色を出すことができました。
子供達は『鬼を倒してくれ』といわれ、さっそく鬼の居るほらあなへ向かいました。
「お前をここでやっつけてやる!」
これまで鬼のせいでひどい目にあった大人を見てきた子供は、七人がかりで色を鬼に吹き付けます。
「ひーっ、いたい、いたい」
これにはたまらず鬼は苦しみますが、子供はとめません。
そしてついに行き止まりまでやってきます。その奥には、真っ白になった子どもが転がっていました。
「やい鬼、村のこどもを返せ!」
そう言いながら色を吹き付けます。
「ひーっ、いたい、いたい。許してください」
「だめだ、ここでもう悪さ出来ないようにしてやる」
鬼はさらに苦しみ、涙をながしますが、子供たちは色を吹き付け続けます。このままでは鬼は死んでしまうでしょう。
すると、真っ白になったこどもが立ち上がり、ふらふらと鬼の足元に寄ったではありませんか。
「鬼をいじめないで!」
真っ白なこどもは子供たちに叫ぶと、こども達はびっくり。聞いた鬼もびっくりしました。
そして、色を吹き付けるのをやめると、光がどうくつにあふれ出しました。
「子供達よ、それで良いのです。やり過ぎてはいけないのです」
神様の声です。しかし、その声はどこか悲しい声でした。
「真っ白なこどもよ、あなたは、おにをどうしますか?」
こどもは少し考え、そして『仲良くなりたい』と答えます。
「仲良くなって、一緒に遊びたい。そうして悪さをしないようになればいい」
神様は、鬼と真っ白なこどもの頭に手をかざしました。
「あなた達2人にも色を与えましょう。この力を悪いことに使わず、大切に使うのです」
こうして村には9つの色を持つこどもと鬼は、色を使わずに村を大きくしていきました。
そのなかでも鬼は真っ白なこどもと一緒に、村のためにたくさん良いことをしましたとさ。

「めでたしめでたし」
一息つき、紫亜が本を閉じる。
「と、この土地一体にはこんな昔話がありますの。分かりました?」
「長い」
「この話ってすごく退屈だし、何度も聞かされてるの」
「くぅ、くぅ」
3人ともぐったりとした表情で紫亜を見つめていた。
げんなりしている翠、やつれ顔の真畔、そしてきらりは寝息を立てている有様だ。
「真畔ちゃんはきらりちゃんを起こしてね。さて、ここからが本題――」
「短くおねがいします」
「……じゃぁ手短に」
2人から頼まれ、紫亜はすごく残念そうな顔を見せつつ話を続ける。
「この話はケンカを戒める話でもあるけど、こどもにもわかりやすいように書き換えられたものでもあるの。その証拠に、最後も結構濁されてるでしょ?」
「残酷なグリム童話みたいなの?」
「うーん、そんな感じですわね。そして、こっちを見てみて」
3人がのぞき込むと、そこには難しい漢字でびっしりと書かれた『何か』。
「これは街の前身である『彩野村』に伝わる物語をまとめた本。いわゆる伝承本ね。そこにはこう書かれてるの」

『その後、鬼は村の人に許されて沢山の子供を作り、そしてこの町の発展につながった』
と言うことなの。そして鬼の子孫には戒めとして、苗字に数字が入っている」
「数字……まさか」
動揺する真畔。
「ようやく分かったわね。六宮の6、七隈の7、そして五木の5。あと私だと布津之で2。みんな鬼の子なのよ」
「そんな、でも、何かの間違いじゃ」
「間違いじゃないのはあなたがよく知ってるでしょ。私もあなたも、この街で生まれて育ったのだから」
「その本が間違っているのは?」
「これを監修したのがお父様。この土地をよく知る人じゃなければ私も紹介しませんわ」
始めて知った翠はもちろん、真畔も呆然としている。翠もこの街で生まれ、育った子供だ。恐らく遙か遠い祖先もそうだったのだろう。それでも紫亜の話した物語と照らし合わせると、確かに色といい、鬼と言われる因縁を感じさせるものがある。真畔が勘違いをするほどに。
「いくら黒の色子でも真の鬼とは限らない。仲間同士で傷つけあうなんて、土地神様がみたら悲しむわ」
紫亜が戒めるように真畔に伝える。全ては真畔の独断を許した紫亜にも責任がある。それだけに彼女も心を鬼にするしかなかった。
黙り込み、震える真畔。
「……私、言われたの。怖い子だって。だからきらりちゃん見てると、うらやましかった」

真畔がぽつぽつと話を始める。翠の横できらりがうとうととしているが、度々真畔の方に顔を向ける。
彼女、真畔がこうして力を行使するのは珍しいことではない。彼女は色の力を度々使っては人の目を驚かし、尊敬されることで自慢の種にしていた。
無論、その力は時として恐れも呼び、真畔は次第に恐れられていった。それを知っていても、簡単に止められるものではなかった。紫亜が戒めてくれなければ、人々を色濃く染めて『服従させる』ことも出来た。
「そんな時に、翠ちゃんの話されて、本当に取られると思ったの、きらりちゃんを。やだったの、そんなの!」
ボロボロと泣き出し、堰を切るかのように告白する真畔。それは単なる伝承の続きなどではなく、秘めていたきらりに対する独占欲の発露でもあった。
「私、きらりちゃんと友達だ
けど、取ったりなんてしないのに」
「それでもこわかった。だから本とか見て、鬼の子だってわかったらすごく『倒さなきゃ』って思えたの」
話に黙り込む紫亜と翠。辺りに沈黙が覆う。
「だから、もう私は、もう……」
「良いんじゃないかなぁ? 色々あっても同じ力を持つ友達なんだから」
沈黙の中、口火を切ったのはきらりだった
「友達」
「そう、友達。だよね、真畔ちゃん、すーちゃん。あと……巫女さん?」
「紫亜でいいわ」
「紫亜さんも! だってその方がおもしろいこと一杯出来るじゃない」
「……本当に?」
「本当」
笑顔を見せるきらり。
「……うん」
その笑顔に、泣き腫らした真畔の表情に笑みが戻る。これまでのような苦しげで思い詰めたものが取れたような、そんな顔だった。
「だったら仲直りの握手、しようか」
「しよっか、すーちゃん」
きらりに、そして紫亜に手を取られながらも、真畔と手を握らせようとする翠。
だが、不服そうな顔をし、一度拒む。
「どうしたのすーちゃん?」
「一言だけ言わせて、真畔」
「なに?」
「ワガママで振り回すのはもうやめて」
「……言い返せないわね」
少し苦々しく笑う真畔だったが、新しい友人が出来たことに安堵と、喜びの表情を浮かべる。
それに翠は満足したのか、2人は仲直りの握手する。

公園の大型遊具に戻る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

「今日も色々楽しかったよね。真畔ちゃんの知らなかったことも分かっちゃったし」
「うぐぐ、本当に心配してたんだからね。きらりちゃん!」
「へっへぇ、毎日会ってるのに見捨てたりしないよ」
「仲良いんだね、2人とも」
「そりゃぁ同じクラスメイトだしね!」
そんな2人を見て、翠は『良いな』と心の中で思う。その風景に、自分も誰かと仲間を作りたいと心のどこかで願い、思う気持ちがふくらんでいった。
「せっかく何か別のあだ名でも考える? まーちゃんとか!」
「ぐろちゃん?」
「まっ、真畔で良いわよ。まーちゃんでもまぁ良いけど。それにまぐろじゃなくて、ま・く・ろ!」
「じゃぁまーちゃんで! すーちゃんに、まーちゃん! 今日は暗くなっちゃったけど今度の土曜とか遊ばない?」
そんなことを余所に、笑顔で仕切るきらり。彼女を見てると、やっぱり何故か笑顔になっていく気がした。
「うん、呼んでくれれば来るよ」
「えー?呼ばなくても来て欲しいな」
「それじゃぁ待ち合わせ時間が分からないわよ」

和気藹々と談笑する3人を見て、紫亜は遠くから一安心する。
「3人の色子、私を含めてあと3人。早めに見つけておかないと」
それにしても何かを忘れているような――そんな気がしたが、うまくは思い出せない。
紫亜はこのまま3人に同伴し、それぞれ見送るのであった。

「あーあ、真畔ちゃんもダメだったかぁ。なら、そろそろ仕掛けちゃおうかな。ね?」
三つ編みの少女が笑い、目のハイライトが消えたボーイッシュな風貌の少年が少女を凝視する。
ここがどこかは分からない。確かなのは、まだ闇は暗く、元凶がいると言うことにちがいない。

・今回のおさらい
布津之・紫亜(ふつのしあ)
筆咲中学校2年
ダウナーゴシック最年長、中二病
布津之神社の巫女でもあるが、少し羽目を外してみたい性分でもある。
懇切丁寧な説明に定評がある。
青に染める力を持っている。 ブルー・エクストレイション()

五木・真畔(いつきまくろ)
筆咲小学校の4年生
考えるよりも行動に移す実践派、黙っていれば凜々しい委員長タイプ。
翠を敵視していたが、鬼の子としてよりもきらりを取られたくない独占欲が主な原因だった。
紫亜とは昔からのつきあいで、昔は姉のように慕っていた。
紫に染める力を持っている。
思った以上に感情の起伏が激しい。

四谷さん
翠のクラスメイトで取り巻きが多い。
イントネーションが独特。

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