イロクイ人間と夏休みの計画

今回は状態変化なし。
ちなみにダイナマイトイロクイは対象に芯をつけて色爆弾に仕上げ、炸裂させる恐ろしいイロクイでした。

「うぼあぁぁぁっ!」
 色合わせを受けて爆発四散するダイナマイトイロクイ。その爆発のあとには男子生徒が転がっていた。
 
「やったね、すーちゃん!」
「ま、こんなものかな」
 翠ときらりがハイタッチして喜び合っている中、影で苛立っているのは美奈子だった。
 
「ちっ、やっぱりただ強くするだけじゃ弱いイロクイにならないのかな」
 美奈子が作り出したイロクイはことごとく敗戦を強いられていた。追い込めこそしたものの、結局は翠やきらり、時には城奈の手によって翻弄され、倒される。まさに屈辱だった。なによりまだ『城奈を奴隷にする』という作戦のキーパーツすら見いだせてなく、ただただ時間を無駄に使っているだけだった。
 
「とにかく、今度は野心あふれる奴にターゲットを絞って、いや、別にクラスメイトでなくても……」「大人でもいいのでは?」
 木の上から声がし、驚く美奈子。
「ひゃっ、何よいきなり! 話すのなら降りてきなさいよ」
「失礼。直接お会いしたのは初めてですな。私、こういうものです」
 そう言い、『秘密結社『レインボー』参謀 燐光』と書かれた名刺を渡す。
「りん、ひかり……?」
「りんこうです。以後お見知りおきを」
「あっそう。それで?」
 美奈子はスカートのポケットにねじ込む。
「先日は行動の許可をいただきまして、ありがとうございますミス時任。つきましてはあなたの家の庭に施設を作りましてね」
「ちょっと、施設って何よ! あと美奈子様と呼びなさい」
「なに、たいしたものではありませんよ。それに、あなたの計画の一助となるでしょう。美奈子様」
 計画の一助となる。その言葉に美奈子はしばし考える。
「……良いから見せなさい。目立つものじゃないよね?」
 
 美奈子と燐光が家に戻り、庭に入る。何の変哲もない荒れ果てた庭だが、燐光が荷物をのかして地面を叩くと、階段が現れる。
「確かに目立たないわね。次」
「えぇ、中に行きましょう」
 階段を降りてセキュリティを解除すると、そこには手術台や改造カプセル。培養カプセルといったものがたくさん並んでいた。中には不定形の生物だけでなく、人間も入っていて、美奈子のトラウマを若干刺激していく。
「……」
「顔色が優れませんね。無理もありません。イロクイにひどい仕打ちをされたのでしょう。我々は何でも知っています」
「そう。それで、私に有益なものっていうのは?」
 美奈子は話を切り上げるように、燐光の話に食いつく。すると燐光は1つのカプセルを指差し、操作盤を弄る。カプセルから培養液が流れ出し、白い身体に赤い目を持った男が現れる。
「これです。我々はシロクイ人間と呼んでいます。まだ実験体ですが――」
 周りを嗅ぎ回るように周囲を見るシロクイ人間は、美奈子に飛びかかった。
「おっと失礼」
 燐光は仕込み杖を取り出し、シロクイ人間をはたき倒す。倒れたシロクイ人間は倒れ込み、そのまま動かなくなった。
 
「しつけがなってなくてですね。しかし有用な戦力と言えましょう」
「死んだの? そいつ」
「いえ、まだ死んでいません。エサとなる生命力――”色”に飢えているだけですよ」
「……そいつはどうやって作るの? イロクイとも融合できるの?」
 美奈子は燐光の言葉から何かを察する。人間の手で作られた不完全な怪物。しかしわざわざ色鬼の力を持つ自分を頼るとなると、何かあるに違いない。その合点が行きそうだった。
「察しが良い。簡単に言いますと、シロクイと人間をあのカプセルに入れて、遺伝子レベルで合体させるのです。そうすれば新人類の出来上がりというわけですよ」
 調子良く話す燐光は、目深帽をかぶっていて表情がよく読み取れない。だが、上機嫌だと美奈子は悟った。自分のせいかを披露できたのが嬉しいのだろうか。
 
「良いわ、そのシロクイ人間――いえ、イロクイ人間を作るのに協力するわ。そんなあなたの目的は、他にあるんじゃない?」
 美奈子は燐光が提案を切り出す前に快諾し、逆に切り出す。
「えぇ、我々の目的は一つ。『生命力の武力化』それだけですよ」
 美奈子は燐光の言葉に、興味なさげに『ふぅん』とだけ返した。
 
 
 一方、布津乃神社では零無が妙な気を感じていた。最近発生している色食いの大量発生。そして奇妙な人間の動乱には何かしらの接点があるのではないかと感じてならなかったのだ。
「いくらなんでもおかしい。色を使いこなせるのは帆布の子ぐらいと私は思っていた。だが違う。何かがおかしい」
「おかしいおかしいといっても、現実に会っているんだから」
「そうそう、すーちゃんなんて……きゃーっ」
「きらり」
 
 きらりが顔を赤らめて零無の方を向く。あの晩のことは、色使いの位置を把握できる零無以外には内緒にする約束をしているが、それでも勢い余ってきらりを姦淫したのは間違いなく、翠野心にはもやもやしたものが募っていた。
「……はぁ」
「翠、私はぬしが情事に及ぼうと知ったことではない。興味もない」
「あっそう」
「けども、もし何かの拍子に、勢い余って力を爆発させた場合は話が違う。その時は全力で止めさせてもらう。白化ですまないかもしれん」
「……脅しのつもり? そんなことになること自体、検討もつかないけど」
「それでも、だ。何が起こるか解らないからの」
 
 零無と翠の間に沈黙が走る
。まだ打ち解けられないし『何かあるに違いない』という疑念は翠の黒色をより強めていく。色鬼だから――ではない。底知れない闇のようなものを感じてしまう。それは果たして、自分とどこか似ているからだろうか。
 
「まーまー、考えたって仕方ないじゃん。それより紫亜さんがお茶持ってきてくれたよ」
「おう、すまないの。話は一旦区切りじゃ」
 冷たい緑茶をすすりつつ、縁側でくつろぐ4人。セミはまだ鳴いていないが、梅雨も明け始め、夏の始まりをかすかに感じつつあった。
「それより、海どうする?」
「うーん、電車乗って海まで行くか、プールかな」
「どうせなら地元が良いんじゃないかの」
「帆布湾は行くには遠いからなぁ」
「だったら刑部さんに車を出してもらうとかどうかしら」
「あっ、そういう手もあったか」
「そのかわり宿題を終わらせてからね」
「うえぇ」
 
 思い思いの言葉を綴りつつ、夏休みの計画を立てる一同。その時だった。
 
「キャーッ!?」
「藍さん?」
「どうしたの!?」
「い、イロクイが……」
 
 その言葉に庭から飛び出す一同。そこに居たのは先日人間を解放したばかりの巨木のイロクイだった。
「なんじゃ、そいつは人を食わないと誓ったはずだぞ」
「そ、そうなのです?」
 こくり、と幹を倒して応答するイロクイ。
「それじゃぁ、なんでこっちにきたの?」
 
「ナカマじゃない、ナカマがでた コワイ。オソロシイ」
「仲間じゃない仲間? イロクイとは別の――」
「まさか、この前みたいなおかしな奴らがでたとか?」
 
「いや、私も感じたぞ。妙じゃ、人間とイロクイが混じっている。そのせいか詳しい場所もつかめん」
「人間とイロクイが、合体?」
「なんだか改造人間とか、そういうのかな?」
「かもしれないわね。ヒーロー物じみてきたわ」
「そうワクワクしてられんぞ。また集まって作戦を練らないといけないかもしれん」
 
 零無が警戒しつつ、紫亜たちに告げる。しかし紫亜は何かをひらめいたように告げ返す。
「だったら早いほうが良いわね。終業式が終わったら全員集まって、宿題会と行きましょうか」
「げ」
「考え直さない? 紫亜さん」
 翠ときらりが苦い顔をする。こうなるとは薄々思っていたが、思い切りの速さが恐ろしい。
「いいえ、宿題は早く終わらせたほうが夏休みを楽しく過ごせるわ。ね、藍?」
「え? そ、そこで私に振る……? それは確かに、そうだけど……」
 巫女服姿の藍はまだ腰を抜かしたまま、たもとのほうきを握っている。
「決まりじゃな。2人とも残念じゃが、覚悟するのじゃ」
 
 かくして、夏休みの始まりとともに宿題会と集会が決まった色使いたち。
 回ってきた連絡が悲鳴で埋まるのは、言うまでもなかった。
 
 
 そして――。
「完成したわ! まさかこんなにあっさりとは思ってなかったけど、やっぱり私ね」
「えぇ、色鬼の力を持つ美奈子様なら、易いはずと思っていました」
 ナシの力で誘引されてきた植物状のイロクイと、女性戦闘員が入ったカプセルが煙を上げる。その中には、緑の体色をし、牙の生えた胸を持ち、両手が人喰い植物のようになった怪人が入っていた。
 
「イロクイ人間マンイーターってところね。どうするの?」
「初戦で色使いにぶつけるのは得策ではありません。まずは傭兵らと共に行動させ、戦闘員や素体、そして色を集めましょう」
「傭兵なんているんだ」
「えぇ、少々奇抜ですが集団戦の実力はありますからね。では、号令を」
 
「えぇ、行きなさい。マンイーター。実力を見せてきなさい!」
「ご命令どおりに、美奈子様、燐光様!」
 
 地下を抜け、戦闘員らと合流するマンイーター。果たしてどれだけの実力を持つのだろうか。

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