つらなりやまのせきらい

すっかり更新するのを忘れててあばばっばとなってるd2catです。
忘れると誰も見に来なくなるとはいえ、いつもPixivで公開してるしなぁ……と思う次第。
気長にやっていくというか、レビューもガンガン書いていきたいなと思うところ(最近DLsiteで購入していない)
という訳で今回はPixivに上げたオリジナル作品をば。そことなく伝承風にしてみました。
一人称小説なのか『読みにくい』と言われたりもしたので、そのうち3人称視点で書き直す可能性も……?
でも、すぐやらないとなぁこういうのは。

 せきらい
つらなりやまのまんなかほこらに『つらなりさま』がいる
つらなりやしきはきてれつたくさん
つらなりさまがひとたびなけば
かみなりたくさんふってくる
このさきのぶんはとぎれてみえない
おねがいせんぱいおしえてちょ

「という訳で、真知子先輩続き知りませんか!?」
「というかノックも無しに押しかけてくるな!」
「いだだだいだいいだい”い”!!」
来て早々、助教授にこめかみをグリグリされました。ひどい。
津屋崎峰子
私は津屋崎・峰子(つやざき・みねこ)、考古学を専攻する大学1年!
ちびっこいしツインテ。しかもこんなしゃべりだからか小学1年とよくからかわれています。
でもれっきとした大人です。……ですよ!
そして、さっきこめかみをグリグリしていた暴力助教授は室住・真知子(むろずみ・まちこ)――。
室住真知子
「暴力助教授とか言わなかった?」
ひぃ、えらい助教授さんです。
この人の専攻は民間伝承学。なんか難しい伝承などもよく読み解いてるし、変わり種を沢山知っている人です。
あと高校時代のOBさんでもあります。
「それでまぁ、この訳文について聞きに来たということか」
「はい! 古本屋で売られてた短篇集に載ってました! つらなりやまについては解ったのですが――」
「ノックもなし、先輩呼ばわり、挙句の果てに暴力助教授と」
「ごめんなさいごめんなさい、とにかくこれについて知りたいのです」
私の懇願が通じたのか、真知子先輩はため息を大きく一回つき、ボサボサな長髪を掻きます。
そして、おもむろに本棚から古い書籍を取り出しました。
こういう本って沢山あると絵になりますよね。
「どこで手に入れたかしらないけど、連山(つらなりやま)わらべ唄だよねそれ」
「知ってるのからいで――あだだだごめんなさぁい!」
「『つらなりさま』の祠には金銀財宝が眠っている。だけど近づくと妨害を受ける。
どうも童話とかの域を抜け出せないんだよね。だから私もあんまり興味ないのよ」
どうも真知子先輩、もとい真知子助教授は乗り気じゃない様子です。どうもどうも。
「言っておくけど、不用心に近づかないようにしなさいよ。あの辺がミステリースポットなのは間違いないのだから」
「はい、だからミステリースポット同好会の人と行く約束しちゃいました」
そういった瞬間、真知子先輩が物凄い勢いでこけました。
ジーンズだったのでセーフ、セーフです。
「お前、順番が逆だろ!」
「だって知ってるって言ってましたし」
「相手は誰だ、多々良野・花蓮(たたらの・かれん)か?」

「あれ、なんで知ってるのですか?」
あ、教授がまた溜息ついた。
「……いいか、いくなよ。絶対行くなよ」
「なんでです?」
「あいつは危険なんだ、あとレズのケもある」
「先輩だって可愛い後輩に暴力振るうくせに」
「あ”?」
ひぃすごい目で睨まれました。あれは間違いなく射殺す目ですよ。
「ななななんでもないです、それでは失礼しますです!」
機嫌を損ねるとまたこめかみをグリグリされるかもしれません。
先輩の言葉も気になるけど、私は私。『つらなりさま』の謎を解く、解くことにしました!
……天気もいいし、きっと雷には打たれないはずです!
「――どうも嫌な予感しかしないな。嵐の前触れってやつ?」
第二連山(つらなりやま)の中腹。
入山前まで天候に恵まれていたのに、今はすっかり曇り空。
コンパスも使えなければ、スマートフォンはおろか携帯電話すら使えない。まさに陸の孤島って感じです。
そんな山々を、私はミステリー同好会の先輩と一緒に登ってました。
「まだまだいい天気ねぇ」
ハイキング気分できた私とは正反対に、その人もとい花蓮さんははすごく重装備っぽいリュックを担いでいました。
一方私はちょっと物が入る程度のバッグだけ。道自体は険しくないのに、変な先輩です。
「ところで、本当に人が石になる雷ってあるのですか?」
「科学的にはありえないわね、あったとしても石に程近い物質になってしまうわ。炭化という形でね」
「う、真っ黒な炭になるのはやですね」
スラっとした体系に黒髪の女の人――花蓮さんが言うには、石っぽくなる条件は炭化とやけどのごく中間まで均等に焼けること。
それも人の形を残しつつ、石のようになる。それは焼け具合が完全に均一なミディアムステーキを作るのと同じぐらい無茶だといってました。
花蓮さんの専攻はよく知りませんが、多分話し口から理系だと思います。
ミステリークラブ同好会に所属している人はこういうおかしなことに興味のある人が多く、
真知子先輩の民間伝承学を受ける人も結構たくさん居ると聞いています。
……それにしても胸も大きいし、ちんちくりんな私と比べるとなんとも羨ましい体格をしてます。
「ところであなたって――処女?」
突然の質問に、私は酷く狼狽しました。
「あーえーと、えー……」
どう答えればいいのやらとあたふたしてる間に、花蓮先輩がゆっくりと近づいて来ます。
頭のなかでは『レズのケがある』という真知子先輩の言葉がグルグルと回っては消えていくのを感じました。
「どうなの? 私に教えてほしいな」
どんどん近づいて、キスでもされるんじゃないかってぐらいに迫ってくる花蓮さん。でも私は、意を決して口を開きました。
「ご、ごめんなさい私、処女じゃないです!」
……こんな話したくはないですけど、実は新歓コンパの時にお酒の勢いで――気づいたら男の先輩と一緒にベッドで寝ていました、それも裸で。
お腹は痛かったし妊娠してないかでもう、本当に大変でした! だから男の人とはそれ以来あまり近づいてません。
「あー、でもこれは内緒ですよ! そのまぁ、心の準備というかそんなものが出来てませんし」
「そう、なら安心した」
「へ?」
予想外の答えに、私は思わず気の抜けた顔になってしまいました。
てっきり、処女じゃないとダメーって人かと思ってました。
もしかしたら花蓮先輩ってそういうのでもOKなのかなって……そう思っていた時でした。
「これでいい避雷針ができたわ」
そう告げると、花蓮さんは私を突き飛ばし、私から数メートル距離を取りました。
「あうっ、花蓮先輩!?」
手にはサバイバルナイフ。そして私の手には……なにも持ってきてませんでした。
「汚(けが)れた夫婦(めおと)は動けなくして、滓のように散っていく。こんな続き、知らない?」
そんな文章知るわけもありません。当然首を横に振ります。
「実はこの山、前から気にしててね。ちょうどあなたのような人を探していたの」
『あなたのような向こう見ずだけど子供っぽい非処女を』と、花蓮さんは底冷えするかのような笑みを浮かべて言い放ちました。
「そ、それじゃぁ……」
「えぇ、あなたはここで石になって、少しづつ風化していくの。
ボロボロと崩れていくのは見てても悲惨だけど、私はそういうのも大好き。だって自業自得な女が無様に死んでくのって最高じゃない!」
私の中で、花蓮先輩に対する怒りだけじゃなく、怖さもにじみ出てきました。最初からこの人は、私をハメるつもりだったのです。
早く立ち上がらないと。そう思って腰を上げようとすると、山全体を揺るがすような轟音が辺り一帯に響き渡りました。
「か、雷ですか?」
「ウフフ、そろそろ来るわねぇ」
揺れに翻弄されて立ち上がれない私を尻目に、花蓮さんは荷物を担いだまま先へ先へと走っていきました。
「あなたはそこでぼんやりしてなさい。宝は私一人のものよ!」
「待ってください、置いてかないで先輩!」
先輩は走っていく。周囲では雷が鳴り響いで、こっちに近づいてくる。
このまま先輩の言うとおり石に変えられてしまうのか。そして風化して跡も残らないのか
まだちゃんと恋もしてないし、真知子先輩に色々聞きたいこともあるのに……。
やだ、やだ! このまま帰れないなんて、嫌だ!
立てないまま去っていく花蓮先輩をぼんやりと見守っていると、先輩の荷物の中から巻物のようなものが転がり落ちました。
「せ、先輩何か落ち――ひゃああああぁぁぁぁ!!?」
声をかけた瞬間、耳をつんざく音とともに目の前に雷が落ちました。
真っ赤な雷、それが私の眼の前を赤く染めました。
思わず目を伏せても真っ赤なまま、音は大きすぎて鼓膜がやられてしまったのか聞こえない。
数秒、数分、いくら経ったかもわかりません。
ただ、少しずつ視界が戻っていくのは感じました。
「う、うぅぅ……」
私はなんとか目をこすると、私の眼前には妙な光景が広がっていました。
目の前は灰色。ただただ灰色で、木や草まで同じ色になっていました。
木の幾つかは炭が燃え尽きたあとに出来る灰のようにボロボロと崩れ、土に混じっていました。
「あ、あぁぁ……か、花蓮先輩!?」
慌てて見回すと、目の前に変な塊。もしかしたら――私はゆっくりと近づくと、それは確かに多々良先輩っぽい何かでした。
あちこちの服や荷物ごと真っ白な石のように固まっていて、まるで生きている石像のようにも見えました。
だけど服や荷物が体のあちこちに食い込んだり、混じりあっていて、ちょっとだけ裸な部分もあるのに、どこか人間っぽく見えませんでした。
まるで生きている彫刻というよりも、人の形に手を加えた近代美術のようでした。
「……先輩?」
恐る恐る先輩のような像を触ると、手に白っぽい粉がつきました。
サラサラとしていて、それはまるで灰のよう。
このまま触り続けたら先輩が崩れちゃうんじゃないかって、嫌な予感すら湧いて来ました。
そんな先輩のような物体に見とれていると、足元に何かがぶつかりました。
「これって、写し? でもちょっと違う?」
巻物を広げてみると、私の読んだ本よりも言い回しが古いものの、同じ意味だと気づきました。
まだ遠くで雷が鳴っているのに、不思議と目が巻物に釘付けになって読むのが止まりません。
同じような文を読み解いていき、最後の二文。花蓮先輩だけが知っていただろう二文を読んでみると、何か違和感を感じました。
「これって……やっぱりちょっとだけ違う」
いくら読んでも取れない違和感。
そして、私の頭のなかで『得意な分野でもここまでスンナリでない』ってぐらいの速さで、その違和感を見つけてしまいました。
『汚(けが)れた夫婦(めおと)は動けなくして、滓のように散っていく』
この間違いは2つ。
1つは返し点の間違い。『めおと』と花蓮さんは言ってましたけど、これは『おとめ』のまちがい。
そしてもう一つは読み間違い。たぶん要約して読んだのだと思いますけど、1つ目の間違いに気づけばすぐに気づく間違いでした。
そうして理解した文を、私は思わず口に出して読みあげました。

「……けがらわしおとめはうごけなくし、かすのごとくちりぢりる」
花蓮先輩の言い回しを真似れば『汚らわしい乙女は動けなくして、滓のように散っていく』
そう、花蓮さんのように人を利用するような女性に対し、罰を与えるという戒めのこもった文章だったのです。
私の声は森の中に消え、帰ってきません。ただ、雷の音だけが少しづつ、こっちに近づいている気がしました。
しばらく立ち尽くしていた私は、その意味を理解して転がるように山から逃げました。
これはきっと『つらなりさま』が怒っているんだ。そして童話の出来事は本当だった。
花蓮先輩がどうなったかよりも、全部理解した自分の命がとられるのが怖かったのです。
逃げて、とにかく逃げて、足元が湿っても走り続けて――。
ようやく麓にたどり着いた時には、おまわりさんが沢山と、真知子先輩が待っていました。
「ごめんなさい”い”!」
「あぁ、まぁうん。無事でよかったよかった」
助かったという安堵感と知った人の顔を見て、もう見せるのが恥ずかしいぐらいに私は真知子先輩に抱きついて泣きじゃくりました。
そんな私を、真知子先輩は怒ることもなく、ただただ頭をなでてくれました。
これはあとから聞いた話ですが、先輩は私たちが心配になって警察に捜索願を出したそうです。
連山は磁場が異常に強くて天候の変動が激しくて、落雷の危険もあるので熟練の登山家でも危ない山。
私たちが登ったあとに急に天気が崩れたことで、警察の人も大慌てで探しに来たみたいです。
軽装なんてもってのほか。そんなことも、全く知りませんでした……。
「ところで、多々良はどうした」
「それが……」
そう言われて、私はありのままを話しました。
雷のことや花蓮先輩の持ってた原本の巻物も、すべて話しました。
「いいか、このことは私とお前の秘密だ」
話し終えて、真知子先輩はこのように切り返しました。
「……もし話したら?」
「その時は――お前が漏らしたことを大々的にバラす」
そう言われてハッとし、私は初めて自分の足元に気づきました。
ズボンとパンツがぐっしょり濡れて冷たくなっていて、その源流が私の下腹部から来ているとすぐわかりました。
「語り草にする。民間伝承学の助教授の語り草だ、たちまちこの大学だけでなく全国全世界に尾ひれ背びれついて広まる。
あるいはとある地域において四半世紀に渡って煩雑化された伝承として――」
「言いません! ぜっったいにいいませんから!!」
そう言われて、私はもう首を縦に振るしかありませんでした。
先輩は暴力助教授なんかよりも、もっと怖い人でした。
結局多々良先輩は行方不明扱いされ、天候の悪化から捜査は打ち切られました。
あの雨にあの姿。多々良先輩はボロボロに崩れてしまうでしょう。そう思うと、ちょっとだけかわいそうにも思えてきました。
そして、私が持って帰った花蓮先輩の巻物は今、真知子先輩もとい、室住助教授の研究室の何処かにしまわれています。
でも、これでいいのです。私もきっとこれからは危ないことに首を突っ込むのは――。
「先輩先輩! この道化人形物語って実在するのですか!?」
「だーかーら先輩言うな!!」
「ひいぃぃぃん!!」
前言撤回。私は凝りもせず、同じ事を繰り返すのだと思います。
でもいつか、人に自慢できるようなすごい発見をしてみせます!

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