#6 見し聞きし歴史の色

「で、この神社が今回の目的地……と?」
「うんうん、今日はここの巫女さんがお話しするから翠ちゃんもどうかなって」
「いやどうとか言われても……きらりが案内したところだしなぁ」
翠ときらりが今来ているのは布津之ふつの神社。帆布市が「色淵」と「筆咲ふでさき」の2つに分かれていたころ、筆咲の人が良く集まっていた神社だ。今も町内の人がたびたびお参りしに来ているが、それだけあってかなり大きい。神社も大きければ石造りの鳥居。手水舎はもちろん神樹も大きい。
ただしきらりのことだからと思うと油断ならない。きらりが率先して連れてこうとする場は何かしらのトラブルが起きやすいからだ。
例えばこの前は近道といって中央公園の森の中――イロクイがひしめき合ってる所を行こうとしたり、人の家の中をこっそり通ろうとしたこともある。

「紫亜さーん!お話聞きに来たよ!」
きらりがさっと境内へ駆け出し、横の社務所に向かうと、巫女服姿の女性が部屋から顔をのぞかせた。
「ようこそきらりちゃん、そちらがお友達の?」
「うん、すーちゃんっていうの」
「六宮翠です、よろしくおねがいします」
「布津之紫亜です。こちらこそよろしくね」
たがいにお辞儀し、社務所の中へと招く紫亜。社務所は紫亜の家とつながっており、和室に案内される。そこには
「あっ」
「?」
「いや何でもない。初めまして、私は五木真琴。よろしく」
「……よろしく」
翠は怪訝けげんな顔をし、あいさつする。何か知ってるのだろうか。そう思いつつ真琴の隣に座る。
「……」
「……」
「2人ともどうしたの?」
「いや、なんというか……」
気まずい、なかなか話を切り出せない。
向こうは向こうで何か知ってそうだし、こっちも色使いであることを感づかれたくもない。
「色のことなら、言っても大丈夫だよ?」
「ちょっと、いいの?」
「えぇ、私も真琴も色使いだからね」
声の主は――大量の資料を運んできた紫亜だった。
となりの真琴は渋い顔をしている。
逆サイドのきらりはわくわくしている。
「よいしょ、今日は色使いの話でもしましょうか」
もうすでに嫌な予感がしてきた。


この街が帆布になるずっと前、この町は村々が集まる1つの土地だった。
人々が営みを過ごし、日々を過ごす。その中で化生――人ならざる者もまた共に生活していた。人ならざる者は人と変わらない姿を持つものもいれば、持たないものもいた。だけど等しくこの地で生活していた。あの日が来るまでは――。

それは飢饉ききん。雨は降らず、日はすべてを焼き、人々は飢えに苦しみ、多くの死者を出した。それは人も、人ならざる者も例外ではなかった。

そんなある日のこと、1人の子供が姿を消した。人々は子供を探し、神に所在を嘆願たんがんした。そして、見つけた先にあったものは、倒れた子供と、飢えを満たした命を食らう人ならざる者……色鬼。

人々は怒った。飢えに苦しむ中、子供の命を食らった者に対する怒りはあまりに大きなものだった。その怒りは人々に生命力をふるい立たせ、力とした。人々はその生命力の力――『色』で悪なる鬼を追い払い、そして子供の命を救った。

人々は飢えにこそ苦しんだが、色の力を絶やさぬために必死に生きた。そして恵みの雨が降る頃、色を使う者たちは『色使い』と呼ばれ、村を守る者として頼られる存在とされたそうな。

「ということだけど、どうだった?」
「あー、んー……」
渋い顔をする翠と真琴。実を言うとこれまでの内容は私――翠が要約したものだ。実際は資料に寄り道しつつ当時の状況やよくわからない与太話などがおり混ざり、聞くだけで疲れた――とはとてもいいにくい。
「相変わらずだけど……もうちょっと短くしてくれるとありがたいんだけど」
隣にいる真琴も同じだったようだが、紫亜は特に気にせず『あらそう?』と返す。
「おもしろかったー!色使いって頼れる存在だったんだね」
隣のきらりがこんな様子だから、無理もない。
「うんうん、じゃあ次は色神様の話でも――」
「えっと、質問いいかな?」
また別の話が始まる前に止めよう。翠は手をあげて[[rb:尋 > たず]]ねる。
「もしかしてだけどさ……私が色使いだって知ってて呼んだ?」
「まっさかー、そんなはずが――」
「……まぁ、そんなところかしら」
きらりが能天気に返すのを横におき、翠が[[rb:眉間 > みけん]]に指をあて、返事を返した。


「やっぱり。きらりのことだからなんかあるなとちょっと思ってた」
「むーっ、すーちゃんひどいよぉ」
不審そうに周囲を見る翠。当然だ、きらりを利用して連れてこられたとみてしまっている以上、なぜ連れてこられたのか聞かないと気が済まない。
「そうね、知り合いを増やしたかった――というのが素直なところだわ。私たち色使いは子供しかいないと言われているし、素質を持っててもしゃべりたがらない子も多いの」
「そうだね、きらりから聞いたの?」
首を縦に傾ける。きらりのことだからどこかで話したのだろう。きらりはよくわかっていない顔をしている。
「たぶん知っての通り、この街にはイロクイという怪物があちこちにいるの。私たち色使いの持つ力が彼らに対する切り札でもあるけど、肝心の色使いはバラバラ……このままだと倒せない敵も出てくるかもしれない」
「そこで色使いを集めて、仲良くなろうと」
「そういうこと。私も紫亜も、そしてきらりも」
ここまで聞くと紫亜の言ってることもわからなくはない。しかし、どこかで引っかかるものを感じる。
「……私、そういうのあんまり好きじゃないから。きらりと一緒ならともかく、チームワークとかそういうのあんまり得意じゃないし」
そういい、帰ろうとする翠。多分、2人は自分を仲間に入れたがってる。しかも割と無理やりだ。それが何であろうと自分の嫌なことをするつもりはない。
「そう、それなら無理にとは言えないわね」
「ちょっと待ってよ」
話が軟着陸しようとしたところに真琴が入り込む。
「私たちにはあなたの力が必要なの! でないと――」
「真琴!」
あぁ、やっぱり。おそらく戦力が目的なのだろう。それだけ知れたら十分だ。
「嫌なものは嫌だから、きらり、帰るから送って」
「うーん、まぁすーちゃんがいやだって言ってるもんね」
「きらりも止めてよ! 焦ってるの知ってるでしょ?」
きらりも翠を連れて帰ろうとしたところ、青年が慌てて和室に入ってきた。
「紫亜さん! それに色使いの皆さん?」
「まぁ一応ね。それでどうしたの?」
「鎮守の森をさまよってる変なイロクイが見つかりました。早めに退治しておくべきかと」
「そうね……ちょっといい?」
「なに?」
翠が紫亜の問いに声を返す。それは他の色使いがどんなものか気になったからだろうか。
「あなたにとってイロクイを放置するのは良しとしないはず。そいつを倒してからでもいいんじゃない? 考えるのは」

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