妙な色と見えぬ真相

 

それは零無が「今日ぐらいはのんびりしたいものだ」とぐったりしている、暑い夏の午後のことだった。
 縁側でごろりとしていると、どこからかドスドスゴロゴロという音とともに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「うわーん!」
「……」
「零無さんどうしようこれー!?」
「……なんじゃこれは」

 そこに現れたのは、引き戸を蹴散らし、転がっったり跳ねたりしてくるきらり――のような球体だった。

「どうしようどうしよう。なんか水風船投げつけられて、当たったらこんな風になって――」
「ええい暴れるな落ち着け! さもないと」
「うわーん!」
「だーかーらー!!」

「――と言うわけで色を少し抜いて落ち着かせたわけだ」
「落ち着かせたと言うよりしぼませたと言うべきか……ともあれどうしたんですかこれ」「全く解らない。喰った感じはいろんな色が混ざり合って、新しい色になっている」

 紫亜がしぼんだきらりをみて心配そうに零無に訪ねる。白の色の効果ですぐに治るとはいえ、変わり果てた姿はやはり気になるものだ。

「うぅー……」
 などと言っている間にポン、ときらりの姿が戻る。巨大な球体だった彼女も今では四肢のそろった人間だ。
「あ、戻った。そういえば心当たりが1つだけあるかも」

 そんな姿を確認した翠の言うことには、あちこちで水風船を当てるいたずらがはやっているらしい。

「なんつーいたずらを……その中に妙な色を混ぜているものがいる訳か」
「そうなるかな。警察の人に話をしたら、追いかけてるとか」
「まぁそうなるよね。でも被害がこれ以上増えないなんてことは――」

「大変なのね!藍がぺっちゃんこになっちゃったのね」
「大変です! ケンが石ブロックみたいな姿に!」
「…………」

 巻紙状に丸められた藍に、石化した上に四角状に固められている健児。その姿に零無は、あまりの面倒くささもあってうなだれた。
「ご迷惑かけます……」

 こうして帆布市に新たな驚異「妙な色」が登場した。幸い個人差があるものの元に戻ることと、水風船を投げていた面々が警察に捕まったため、当分は被害も出ないと思われる。

 だが、一番頭を抱えていた零無は不安でならなかった。
「(こんな面倒ごとが増えてみろ、維持できなくなるぞ)」

 ざっと見ただけでも彫刻やマネキンにされたもの、平面化や物品にされたものなど数多くいる――これらは時間の経過とともに戻ったが、そのうち自力での復活ができない色も出てくるだろう。

 そうなったとき、零無がサポートしなければならないが……。それを考えたくもない。今は、ただ、うなだれるばかりだった。

「氷水用意しましょうか?」
「たのむ」

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