吸血音×しろくろにっき 吸血鬼を強める少女

更新を忘れてた。
なすのゆきはさんとのコラボネタを2つも書いてしまった。特に反省は無い。
コラボ元である『吸血音』は現代を舞台に吸血鬼が女の子を固めたり吸血鬼に変えたり血を吸ったりするそんなお話です。
あまりに雑な説明なので、読んでみよう,いいものです。

(リンク切れ)


「……弱った」
駅に腰を下ろしたボサ髪の少女、六宮翠(りくみや・すい)は降りた駅のプラットホームで足を伸ばし、ぼんやりしていた。
確かきらりと一緒に電車に乗ってたはずだった。途中の駅でいったん降りてラーメン食べに行こうと、そんな話をしつつもすごく眠かった覚えがある。
そして、目が覚めたらきらりは居なかった。そして駅名を見て愕然とした。
『八王子』
よくわからない地名だが、スマホで調べてみるとどうやら途中で降りるはずが終点まで乗ってしまったようだ。
『とにかくまずは乗り直さないと』、そう考えプラットホームから階段を上る翠。あと5分もすれば次の電車が来るはず。それに乗っていこう。
そう考えていた手前、目の前で『わっ』と声が響いた。
「えっ」
気づいた瞬間、目の前には女の子。しかも階段の途中だから避けようにも避けられない。
『ぶつかる』。思わず目をつむる翠。それを対面の少女は――身体で受け止めた。
「っ、ん……? ぶつかって、ない?」
「何とかね、歩きスマホとは感心しないね」
深々とかぶったフードにから青い髪がちらと見える。全身のコーディネートをねずみを模した着ぐるみパジャマにゆだねた少女は、不思議と妙な気配を感じてしまう。
「ごめんなさい。……あの」
「なに?」
少女は翠を抱いたまま素っ気なく訪ねる。受け止めた少女も黒だが、翠もまたグレイや黒をベースにした服やスカートなため、少女の髪や赤い目がどこか輝いて見える。
「歩きスマホは悪いとは思うけど、この抱き方はちょっと、止めて欲しいかなって」
そう、抱いたまま。左手を背に回し、右手を翠のやや膨らんだ片胸に手を当てた状態で抱きついたままでいた。一見しなくても怪しい光景だが、怪しいぐらいに誰も声をかけない。
「……もうちょっとだけ」
『やっぱり不審者だ』。少女の言葉に対しにらみつける翠。すると、彼女の輝くような赤い瞳が、獣のように変わった。
目をそらすと辺りの喧噪も次々と止み、視線が2人を向く。何か悪いことをしたのだろうか?
そして、再度少女に向けたその時、少女のとがった牙が翠の首筋に食らいついた。
「な、何を、して……吸わな、むぐっ」
無言で翠を抱きすくめ言葉をふさぐ少女。思わずスマホを落とさないよう固く握りしめる翠。
全身がこわばっていき、意識が遠のいていく、力を奪われているのではない。これはきっと――。
その結論を出すこと無く、翠は少女の胸の中で石になってしまった。
灯麻の腕が解かれると、その下には惚けたように、呆然としたまま固まっている翠の石像があった。
「それで切り上げて帰ってきたと。灯麻も吸血鬼らしい趣味が出始めたのかしら?」
「違う。……これには色々と訳がある」
八王子のとある一軒家。翠の石像を壁に掛けた状態で2人の少女が談笑する。
翠を石像に仕立てた張本人『河本灯麻(かわもと・とうま)』はフードをあげ、もう一方の少女『ネカル』に弁明する。
ゲーセンの大会に出場するために秋葉原まで出かけるつもりだった灯麻だったが、彼女もまた目の前の石像少女のせいで諦めざるを得なかったのだ。
そんな事情をネカルに説明すると、彼女はいぶかしげな顔で作って間もない石像を見た。
「確かにこの子、魔法のような力を持ってるみたい。ちょっと良い?」
そういうと、ネカルは金の十字架を翠の石像にかざす。十字架は蛍光灯に当たって白く光らず、黒く光った。
この十字架はリトマス試験紙のように、対象の持つ魔力に反応するように作られている。もちろん人間には反応しない。
しかし翠の場合、吸血鬼とは異なる反応だが、黒く光った。
「やっぱり何かあるよこの子。悪魔か、それとも何か闇のような力をもってる」
いずれにしてもこの少女――翠はこの近辺では見かけない子だ。持っていたバッグもおつきのヴァンパイアハンターに運ばせたが、中身からして旅人で間違いないだろう。
こうなると、あまり石像にしておくと厄介な問題が起こってしまう。捜索願でも出されれば一大事だ。
ちなみにここ、東京八王子は東京から外れた立地にある、東京の中でも田舎に近い場所だ。
しかし、その実態は吸血鬼の町でもある。街中には人に交じって吸血鬼が横行し、日々の生活を送っている。灯麻もその一人であり、彼女こそ(訳あって)この八王子を統べる吸血鬼の長であった。
だからこそ蛮行に対し、周囲が手を出せなかったのもある。
「それにしても……可愛い。もっさりしているけど惚けたような世間知らずの表情。胸もとで握りしめたポーズ」
灯麻の足が翠に向かい、再び牙を突き立てようとする。
「ストップ! なんか今日の灯麻いつもとおかしいわよ。今すぐ石化を解いて解放した方が――」
その時だった。奥の部屋からガラスの割れる音が響き、何者かの足音が近づいてくる。
「吸血鬼?」
「ヴァンパイアハンターが居るところに、ずいぶんとなめられたものね!」
進入してきたのは翠と同じか、少し上の吸血鬼はそれぞれスカートやセーラー服とばらつきがある。人間相手なら分が悪いが、彼女は吸血鬼を狩るヴァンパイアハンターだ。すかさず銀銃を取り出し、抜き打つ。
「ヒャうぅっ! やだ、凍りたく……」
銃弾が当たった箇所から氷が広がり、見る間に少女の氷像が2体出来上がる。ヴァンパイアハンターの非殺傷兵器『凍結弾』なら殺さずに動きを封じることができる。
もっとも当たらなければ意味は無いし、全身固めてしまうので復活までに時間がかかってしまうのが難点だ。
「これでおしまい……ではないか」
突っ込んでくるゴスロリ吸血鬼の頭と胸を手慣れたように抑え、念を送る灯麻。すると一瞬にして白ゴスの映える石像が出来上がる。この力も吸血鬼の持つ能力の一つだ。
「おかしい、今日は一瞬で固まってしまった」
瞬き一つしないうちに石になってしまった少女は表情をそのままに石像となってたたずむ。何故か力が強まっているのだ。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、外見てご覧なさいよ。何、あんた何をやらかしたのよ!?」
ネカルが外を見ると、そこにはまだ幾人もの吸血鬼が家を囲んでいた。八王子の吸血鬼の全体数は灯麻を含め10人足らずとそうそう居ないので、数を考えると八王子中の吸血鬼大集合と言って差し支えない数だ。
吸血鬼は次々と庭に入り込み、我先に灯麻の家に入ろうと争い始める。中には全裸姿の少女も居て、貴種従属入り乱れたとっくみあいはB級映画さながらの光景でもあった。
その喧噪を突破するかのように、1人の吸血鬼が別の入り口からネカルに飛びかかった。
「あんた、また――」
握られている剣は一瞬にしてネカルの構えた銃を弾く。
「お前に付き合っている暇はない! 灯麻、今日こそ石にしてやる!」
「カフィエール、また倒されに来たの?」
滑り込むようにおいてあった剣を手に取り、灯麻は金髪の男装吸血鬼『カフィエール』と刃を合わせる。
「腕が上がった。いいや、先に喰ったな灯麻! 僕にもよこせ!!」
『力って何のこと?』と訪ねる問いに、なおも興奮するカフィエールは身体から白煙をあげたまま剣を振るう。
何度か打ち合っていくうちにさらに身体が軽く感じ、彼女の太刀筋が遅く感じる。日光を浴びたせいでは決してない。
まるで吸血鬼の力がメキメキと急成長していく。そんなイメージだった。
「決まっている、闇の力だ。その像には闇の力が詰まってる! 僕の力をさらに引き上げてくれる力、テスラを打ち倒せるほどの力!!」
目をぎらつかせたカフィエールが指をさしたのは、つい数時間前に石化したばかりの少女の石像。
「それを奪うためにこんなに?」
「いいや、この八王子中の吸血鬼が狙ってる。もちろん僕もこの石像の力を吸った後、灯麻、お前を飼い犬にしてやる!」
どんどん酷くなっていくカフィの言葉に、何となく察する灯麻。
「ネカル、この像ってやっぱり」
「そう、この像の持つ力に惹かれて吸血鬼が集まってるの! 灯麻がうっかりするぐらいには我を失っちゃう代物って相当な物よ」
『だから言ったでしょ』とばかりに怒るネカルは、銃を拾い直して凍結弾を詰め直す。
従属種の灯麻でも我を忘れるほどの魅力、吸血鬼の力を強める力を秘めているのであれば、領土を狙う貴種吸血鬼にとっては値千金。
カフィエール一度灯麻に敗れている。友好関係を保ってはいるものの、自分の力を超強化できるマクガフィンがあるとなれば話は変わる。
占拠とまでは行かないが、リベンジし、灯麻に圧倒的優位を得たい。そんな彼女の欲望をくすぐってしまったのだろう。
すでに部屋の至る所に服の有無、年齢問わず吸血鬼の氷柱が陳座していた。ネカルもすでに疲れ果て、さらに押し寄せられれば物量で押し負ける。
カフィエールに関してはもはや『闇の力』と呼称する力に当てられて刃を合わせている。そろそろ止めないと占拠されるか持ち運ばれてしまうだろう。
「どうするの、先にカフィエールを2人で片付ける?」
「いや、ネカルは従属種の相手をしていて。すぐに決める」
一か八か。灯麻は打ち合った剣を後に引き、身体ごと前に出た。受けるものはない、まさに自殺行為だ。
「首無し吸血鬼ニナァレェ!!!」
そしてカフィエールの刃が灯麻の首を捉え、食い込む。そして両断するかのように切り払われた首は泣き別れ――なかった。
「やっぱり――灰から戻る速度も段違いに速くなっている」
確かに切断された、しかし灯麻の首は少量の灰を散らしてすぐに再生してしまった。棺桶に死に戻ることも無い。明らかにパワーアップしていた。
灯麻の突き出した手が、驚くカフィエールの顔と胸を強く捉える。
「ふぐぅっ!?」
「しばらく……石になれ」
灯麻が強く念じた瞬間、彼女は石に変わりゆく”音”を、堅さを捉えた。そのまま灰になって棺に戻っていれば、石像は間違いなくカフィエールに渡っていた。いつもの自殺以上に厳しい賭けだった。
そのままバキ、パキと鳴り響くと、カフィエールの手に握られていた剣が転がり落ち、吸血鬼の石像が完成した。下から顔をつかんだため鼻が持ち上がり、半ばブタ鼻のまま石化しているのが高貴な男装に身を包む彼女を無様に仕立て上げていた。
しばらくして辺りから悲鳴も混じり始める。カフィエールの配下吸血鬼が正気を取り戻したのだろう。
乱入してくる吸血鬼も少しずつ単調になっていき、最後の1人を石にすると、荒れた家中に石像や氷像が並ぶだけとなった。
「……吸血鬼、だよね」
「そうだね、吸血鬼。元人間だけどね」
石化から解かれ、人間に戻った翠は首筋を押さえながら、そして灯麻はネカルに抑えられながら話を進める。
戦いの後でゴチャついた部屋を元に戻した吸血鬼達に掃除させ、揃って出て行かせた。
なし崩しに翠も片付けの光景をみることになったが、そのおかげで互いの名前を知ることができたのは良かったことだろう。
そして、今はこたつで3人、翠の持つ力について話を進めていた。
「その力って、まぁ……”色”だね。あまり話したくなかったけど、そうだと思う」
「色?」
翠はネカルに事情を話し、そして石像になった後に起こった話も聞いた。
“色”とは、翠の持つ魔法のような力である。彼女の持つ生命エネルギーを色に変換・放出するというものだが、殺傷力はほぼ無く、代わりに相手は受けた色に応じて様々な異常を引き起こす魔法のような力だ。
翠の持つ黒色は対象の持つ”色”そのものを塗りつぶす力を持っているため、相手を弱らせることができる――のだが、どうやら吸血鬼相手には逆にパワーアップさせてしまったようだ。
これも心当たりがある。”色”を行使する友人が怪物に惹かれるように、不意に胸をタッチされたことで黒い色が走り、それが解除されないまま吸血鬼を多く引き寄せたのだろう。
何はともあれ今は力を制御できているが、既に知られた以上狙われる可能性は十分にある。
その不安を灯麻にぶつけると、彼女は平然と言葉を投げ返した。
「それなら大丈夫。今はもう私の所有となっているから、吸血鬼も手も出せないよ」
「待って」
「ごめん。正確には従属吸血鬼にしたってことね」
「待って灯麻、吸血鬼にしたって」
灯麻の言葉にツッコむ翠。吸血鬼にしたと言うことは、太陽に当たれば灰になるし、流れる水にも近づけない。十字架もニンニクもダメ。そんな状態になってしまったというのか。
「と言ってもたぶん大丈夫。私も従属種だし、翠の力にエキスが負けることを考えると1日足らずで元に戻るはず」
『たぶん』と最後に付け加える辺り、翠は灯麻に対し、何とも不安な気持ちになった。
「それでも八王子を離れるまでは吸血鬼でいたほうがいいよ。でないと、また大騒ぎになってしまうからね」
ネカルが絆創膏を差し出すが、翠は絆創膏についていた十字架を見るなり不快な物を見たかのような感情に襲われる。
あわててネカルが裏面にひっくり返すと収まる辺り、やはり吸血鬼になってしまったのだろう。そう、今だけは。
“色”さえ制御できれば問題ないが、万が一バレると町中で戦うことになる。なにより今度は強奪されてどこかに持ち去られだってする。そうなれば合流だって危うい。
「今午後4時だから、1時間もすればフードなしでも出られるかな」
外を見ると日も暮れ始める。従属とはいえ日光に身をさらすのは気分の良い物ではない。それにこの2人と居るよりも、やはり見知った友人と一緒に居たかった。
そう、友人。
「しまった、電話」
急いでこたつの上に置きっぱなしだったスマホのロックを外して確認する。そこには既に何件もの呼び出しが友人である七瀬きらり(ななせ・きらり)から入っていた。
その通知を見て、翠の顔から血の気が引いていった。
「どうしようどうしよう、あと何分で外出られそう? 日焼けしない?」
涙目になりながらも大慌ての翠。嫌われないだろうか、それとももう嫌られてしまったのだろうか。そう考えただけでパニック状態だ。
「落ち着いて翠。慌てなくても今から準備すれば間に合うから!」
「とりあえず、これ飲む?」
灯麻に渡された献血パックを手に取り、かぶりつく。口の中に血の味があふれるが、気分は悪くない。むしろ美味しささえ感じる。
「……血だよね、これ。でも悪くはない、かも」
落ち着きは取り戻したが、否が応にも吸血鬼になっていることを身につまされるのだった。
「荷物はこれで全部よね」
結局2人に見送られ、荷物を持って電車に乗る翠。幸い数が少なかったのと、灯麻が恐ろしく強くなっているという噂から翠に襲いかかる吸血鬼は居なかった。
「うん、ありがとうネカル ……灯麻もまぁ、うん。ごめん」
散々だった日だが、悪くは無かった日だった。結果オーライと言ったところだが、今度来るときは一報入れておいた方が良いかもしれないと感じた。
そんなことを想いながら、翠を載せた電は八王子を離れていく。5時だというのに外はもう暗く、その暗さが何故か心地よかった。
少しずつ気分も戻り、口の中に残る鉄の苦みにしかめる頃。電車は目的地、新横浜に着いた。
「すーちゃん!!」
改札口で待っていたのは親友の姿。幸い怒ってなかったものの、電話口で泣きべそかいているのをなだめるので精一杯だった。
きらりはしばらく泣き続け、泣き止むと2人は分かれた時の出来事を重ねつつ、目的地であるラーメン博物館へ向かった。
ちなみに灯麻のチートじみた能力は翌日には元に戻っていた。
定期的に翠の持つ”黒の色”を吸わなければ力を維持できない辺り、独占されていれば八王子のパワーバランスを一変する事態になっていただろう。

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