6話 たたかう色と2人の迷い

6話、ここからバトルパート。
年末までちまちま更新してきますよ。
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「なら良し。諦めても諦めなくても、”コト”は進むのだからな」
 そんな怒りをも受け流し、パーカー姿に長ズボンの少年が1度足を踏む。
 近くに転げた巻物には、戦いの始まりを示すかのようにイロクイの出現を示すサインがいくつも出ては渦を巻いていた。
「気をつけて。この子……操られてる」
 紫亜が少年の額についた印を見る。人を操り、意のままに操る邪法の印があることは知っていたが、実際に見たのは始めてだ。
「まさかエロケンとここでバッタリとはね」
「エロケン?」
 紫亜が訪ねる。
「うん、クラスメイト。健児っていうけど、エロなことばっかするからエロケン」
「エロケン……違うな。私は『アカネ』橙乱鬼様の忠実なる肉人形だ!」
 その言葉とともにアカネの手から緑の”色”がいくつも放たれ、翠を狙う。
「すーちゃん!?」
「させない、『蒼の身映し!』」
 紫亜の手から青の”色”がお椀型に広がり、翠を守るようにアカネの色を捉えて打ち消した。
「この姿じゃ柄に合わないけど、きらりちゃん」
「はいっ」
「このままエロケン君が”色”を使い続けるのは危険よ。だから、止めるのにあなたの”色”が必要なの。一緒に戦ってくれる?」
 巫女服姿の紫亜があかりに耳打ちする。
「良いよ。でも、すーちゃんや真畔ちゃん達は?」
「城奈達はイロクイをとめるーよ!」
 巻物をこっそり奪取し、抱える城奈。渦巻いている場所は大きく分けて2カ所、十分に対処できる。
「サンと真畔ちゃんは中央公園、城奈と翠ちゃんは一緒に市街地についてくるーの」
 城奈の迅速な指揮にサンと真畔が急いで外に飛び出す。
「逃がすか、色使い!」
「行っちゃダメ!」
 背後から色を撃つアカネに白色を背中に引っかけるきらり。イロクイと違って服が汚れるだけだが、忌々しそうに少年が振り向く。
「女の子を放るとモテないわよ、エロケン君! 今のうちに翠ちゃん達も」
 挟み込むように取り囲み、アカネの色を放出するのを食い止めるべく動きを合わせる。
「ここは任せたのーね!」
「いたっ、きらり、ケガとかなしだから!」
 城奈に引っ張られるように翠もその場を後にする。荒れた部屋を抜けると、緑色に染まった人たちが苦しそうにうめいている様子が見える。
 だが、それ以上に紫亜とともに戦うきらりの後ろ姿が、ひどく不安だった。
 布津之神社(ふつのじんじゃ)から中央公園に向かっていたサンと真畔。彼らの道行きはひどいものだった。
 道端には色を吸われて真っ白になった人々が倒れ、でっぷりとしたまだら色のイロクイが鈍重な身体をくゆらせていた。
「すでに暴れ回ってるデス!」
「見たことがないイロクイも居るわね。サン、”白化”について知ってるわよね」
「は、はい。応急手当ぐらいなら頑張れますデス」
「OK、できるだけ早くケリを付ける!」
 真畔は神社から持ち出した長平の棒を構え、イロクイに飛びかかる。イロクイの反応は――遅い!
「まず一発!」
 横凪ぎに振り抜き、イロクイの腹に棒を当てる。しかし効いていないのか、全く動じない。ならばと2発目、軸足を使って踏ん張り、さらに下段から回るように振り上げる。
「色つきの一撃、受けてみなさい!」
 その軌跡は紫を引き、真畔の色に染まった棒はイロクイの腹を打ち上げた。
「!!!」
 もんどり打ち、黄色の液体を吐き出す巨大イロクイ。吐いた”色”はすぐに霧となり、白化した本来の持ち主へと戻っていく。真っ白だった身体や服は元の色を見る間に取り戻し、色を奪われていた学生は意識を取り戻した。
「う、ううん……あ、あわわ。怪物!?」
「すぐ山の方に逃げてくださいデス。そっちなら安全です!」
 少なくとも神社や市街地に当てはまらない方向であれば安心だろう。サンはもんどり打つように逃げる青年を一目見送り、他の人たちにオレンジ色を少量ずつ注ぎ込んでいく。多量に注いでは色が合わなくなり、戻ったときに具合を悪くしてしまうからだ。
「(この色は、僕の色。やることをやるまでデス!)」
「これでどう!?」
 紫の軌跡を引き、とどめとばかりに突きを加える真畔。最後の色を吐き出し、代わりに濃い紫色を叩き込まれた白イロクイはバランスを崩し、後ろ向きに倒れて動かなくなった。「ナイスです真畔さん、この人で最後デス!」
「ここでは、ね。気になるけど先に本命行くわよ!」
 そう、イロクイは人の多く集まる中央公園で大量発生している。新種のイロクイに時間をかけすぎてしまった以上、遅れを取り戻さなければ。
 2人が中央公園に向かうと、すでに大人や子供達の姿は無く、異様なオブジェと樹木によって占拠されていた。
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 逃げ遅れた大人や子供はイロクイによって樹木に、そして外側だけ残したような金属フレームのオブジェが公園のあちこちに乱立していた
「私だって、ヒーローなんだから! こ、こわくなんて無いんだから」
 その中でも子供達の中にはイロクイに立ち向かう少女や少年も居る。正確には逃げ遅れた子供だが、その意思は抵抗する気満々。それでもイロクイに一矢報いることができず、ドームの中に立てこもっていた。
『オレの、イロ!』
『ヒトツニなろう!』
 樹木のイロクイや多彩な色をしたジャングルジムのイロクイは容赦なく子供を脅すかのように木の枝を、鉄パイプを穴から伸ばしては引っ込める。
「や、やっぱ逃げる!」
「1人で行っちゃダメ!」
 その脅しに乗せられるように少年がドームから飛び出す。それを見越したように樹木のイロクイは少年の頭に葉の付いた枝をかぶせ、押さえつけた。
「むぐっ、むーっ!?」
 がさがさと抵抗するも、上から力強く押さえつける樹木イロクイ。
 抑えられ、染められ、少年の全身が幹のような焦げ褐色に変わっていく。次第に足が土にめり込み、少年の身体が動かなくなると、そこには青々と葉の茂った、人間の身体を幹にした背の低い木が1本できあがった。
 そして、時を同じくしてしびれを切らしたジャングルジムのイロクイは連結した鉄パイプを突っ込み、残った少女を絡め取ってしまう。
『ニゲレバ良かったのにねぇ、でもイイ感じに仕上がるヨ』
「放せ、はなして!」
 コンクリートのドームから引っ張り出され、宙づりの状態の少女はジャングルジムのイロクイの付属品にされるかのように、光沢を帯びた黄色と青に染められていく。
「た、たすけて。誰か……」
『フフフ、2人もくぐられるオブジェになろうネエ』
 キンキンと甲高い声を鳴らし、楽しそうに染めていくイロクイ。2人の身体は見る間に黄色と青のペンキで塗られたかのように染まり、まるでペンキを塗ったばかりの彫像のようにツヤを帯び始めた。
『モウ僕の物だ。コノママ歪めちゃおうネェ』
 そういい、腕を模した鉄パイプの色が一層濃くなり、2体のフレームオブジェを作り上げようと色を込めていく。
 その瞬間、何かが空から降ってきて、腕代わりの鉄パイプがVの字に曲がった。
「マクロさんあそこです、あそ……マクロさん!?」
 サンがふと目の前を見ると、そこにはドームの頂上へ駆け上がる真畔の姿があった。
 そして、そのまま跳躍。棒を振るうと激しい金属音が鳴り響く。
 まるで阿修羅か鬼神を思わせるスイングは、パイプをVの字に曲げ、局所が紫色に染まったパイプは黄色く染まった少女を砂場へと落とした。
『ナ、ナンダネ君は!』
「私は、この町を守る戦士だ!」
 五木・真畔はスポーツに長け、親からは剣道を学ぶ、成績もそこそこな文武両道な少女だった。
 しかし、真畔は親の言われるままに動いているだけに過ぎなかった。何かしたい訳でも無く、年不相応なぐらいに冷め、”色”と言うものを呪いとも感じていた少女だった。
 そんな中、立ち寄った公園で見たものが――変装した紫亜の姿だった。
 テレビでやっている、男子が見ているようなヒーローのコスプレかと思ったが、それにあこがれを抱いたのも事実。
 そのあこがれが、鍛えた力が、守るべきもの――同じ色使いである七瀬・きらりがが見つかったとき、彼女は”色使い”としてやりたいことがようやく見つかったのだ。
『ヨクモ! お前もジャングルジムにナッテ、くぐってもらうとイイ!』
「よくも子供達をこんな目にあわせてぇーっ!」
 真畔が下から振りあげた棒がパイプとぶつかり、大きくへし曲がる。怒りのままに棒の向きを返し、上から圧力を加えられたパイプは耐えられずに折れ、もう一人の少女も砂場に着地した。
『ボクのイロ! ユ、許さねぇーッ!!』
 だが、ジャングルジムのイロクイも食いつく。入り組んだ身体を棒に引っかけ、力任せに振る。棒がへし折れ、そのまま真畔の身体はイロクイの中に投げこまれた。
『トジコメタ! 紫を思いっきりボクノイロになってシマエ!』
 そのままイロクイが素っ頓狂な声を上げ色を染め始める。しかし、染まっている様子は無く、逆に染められている。
『ア、アレ?』
「今の私はね、あんたよりすごい色が出せるんだから!」
 真畔は両手に色を集中し、逆にジャングルジムを染めていく。自分の色が強くわき上がる、そんな感情に身をゆだねて真畔は力一杯イロクイに送り込んだ。
「変わった色した遊具に、なってなさい!」
『コンナノッテェー!?』
 ジャングルジムのイロクイは全身を紫色に塗りつぶされ、色の飛沫とともに紫色のジャングルジムは動かなくなった。
「ねぇ、やっぱり何かおかしいと思わない?」
「何がデス?」
 染め上げられた子供達に治癒の色を送り込むサンに対し、真畔はジャングルジムから抜け出しながら会話を続ける。
「”色”のこと! 名前と色が一致していないし、ダブりもあるし、それに白いイロクイ。何かあるって、絶対!」
「何かと言われても……マクロさん前!」
「おっと!」
 身を引っ込め、がむしゃらに樹木のイロクイに棒をぶつける。すると樹木イロクイは悲鳴をあげながら森へと逃げていった。
 真畔からわき出す紫色は、今やあらゆる人に畏怖を与え、遠ざける忌避剤のような役割を果たしていた。そうでなければ2人を染めようとしつこく襲いかかっていただろう。
「ふぅ、冷や冷やしましたデス。……抑えられないですか?」
「うん、ちょっと我慢して欲しいかな」
 周囲の怪しい樹木やオブジェに色を注ぎ終わり、疲れ気味のサン。イロクイにやられた人々は少しずつ自分の色を取り戻しつつあった。
 すでに形まで歪められた人は時間がかかるかもしれないが、それでも無事だ。
「”色”のおかしさ、確かにおかしいとは思ってましたデスけど……偶然かもしれません」
「それを調べたいのよ、ただまぁ……ね。紫亜とか怒りそうかなって、思うの」
 色の伝承はこの地域にとって、ましてや筆咲にとってはごく当たり前だけど、風化しつつある伝承だ。それを疑うというのには真畔も抵抗がある。
 ましてや進言する相手は”色”について何よりも知っている紫亜――つまり『布津之の巫女』だ。および足にもなる。
「だったら、紫亜サンに内緒じゃダメですか?」
「良いの? それで」
「ハイ。でないと僕にこんなシークレットな話、できませんよね?」
 図星を突かれたように気まずい顔をする真畔。確かに色の権威ともいえる青葉教授の息子に声をかけたのは、そんな甘えた想いがあったからだ。
「い、言い圧せば手伝ってくれるかなーって、ちょっと思っただけ。でも、見抜かれちゃったね」
「そんなことをしなくても、僕も気になったことはどんどん調べたいデス。よかったら一緒してくださいデス」
 ぺこりと頭を下げるサンに、慌てて真畔も『こちらこそ』と頭を下げ、2人は笑った。
「あれ、ジャングルジムの化け物」
「お姉さんがやっつけてくれたの?」
 2体のイロクイに染められた少年少女が意識を取り戻す。顔や靴が砂まみれなせいか、しきりに砂を叩き落としている。
「まぁ、ね。よければ使って」
 そういいハンカチを差し出す真畔。こう言うのも悪くないなと想いながら、まだ乱れている呼吸を整えていく。
「ありがとう、なんかこう、すっこくかっこよかったような……なんかヒーローみたいな人が助けてくれたから」
「えっ、あー……とにかくここは危ないから色淵山の方に行きなさい。そっちなら怪物もいないから」
 ヒーローみたいな人。そういわれて慌てる真畔。やったことはきっと、間違っていないはずだ。
「……ねぇ」
「なに? おねえちゃん」
「私、怖くないかな?」
 その問いに少女はよくわからない顔をし、答えた。
「ちょっと怖い。でもお姉ちゃんが助けてくれたのなら、きっと大丈夫だと思う」
「じゃぁね!」
「ありがとう!」
 助けられた子供達はそれぞれお礼を言い、家に帰っていく。
 その後ろ姿を見送る真畔の顔もどこか満足そうな表情をしていた。これまで見せたことのない、柔らかで自信に満ちあふれた笑みだ。
「よし、じゃぁ……」
 真畔は公園に隣接する森を見る、この中にイロクイが密集しているに違いない。
 サンもまた、真畔と同じことを考えていた。イロクイを打ち払う力は無いが、倒れないよう精一杯支えなければ。
「全部片付けて、それからどうするか考えようか」
 いつもは陽の差し込む閑静な森が、2人の色使いの視線を感じ取ったかのように奇妙なざわめく。
 公園の戦いは、まだ始まったばかり。

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