しろくろにっき×吸血音 見知らぬ色と吸血鬼シスター

連日更新と言いつつPixivに既に挙げたネタを出す暴挙。
時間軸としては前回アップした話と同時間帯。離ればなれになってしまったきらりはどうしていたのか という話です。
こっちはこっちで色々あれなことになってます。無知シチュって良いもの


改札口の外で少女がぼんやりと座っている。
その目は途方に暮れているようで、次の電車を待っているかのようだった。
彼女は数分前まで電車の中にいた。飛行機で東京に着き、そこから友人と一緒に電車で新横浜まで目指すつもりだったのだ。
しかし、途中で入った人混みによって友人とはぐれ、流されるように降りた先は新横浜の1つ前『小机』という駅だった。
再度乗り直しても良いが電車賃がもったいない。だけど降りてしまったものは仕方が無い。
青髪サイドテールの少女『七瀬きらり(ななせ・きらり)』は窓辺に腰掛け、足を伸ばして何度も着信を入れる。
寝ているのか、それとも電話が取れないのか。いくら待っても応答はかえってこなかった。
「むー、すーちゃんどうしたんだろう」
むくれるきらり。そんな彼女の視界に入ったのは、シスターを思わせる女性だ。
「少し良いかしら?」
「何ですか?」
黒いベールに覆われて顔は見えないものの、修道着に身を包んだ女性は豊満な胸を下げて視線をきらりに向けた。
「見慣れない子だけど、旅行中かしら」
「はい、でもはぐれちゃって……」
「あら、お友達とかしら。ちゃんと会えるようにお祈りしないとね」
シスターの顔はベール越しにかすかに見える程度だが、垂れ目でどこか底が知れない優しげな瞳をきらりに向ける。
翠であれば怪しんでいたかもしれないが、きらりはごく自然にシスターを受け入れ、会話をしていった。
「お祈りって、こんな感じ?」
「ううん、手はこうして、もうちょっと首は下げた方が良いわね」
両方の手のひらを合わせるきらりに、シスターは手の握りを変え、首を下に向けさせる。
西洋式の祈りだが、首筋がむき出しでよく見えるポーズでもあった。
「こう?」
「そうそう」
素っ気なく返すシスター。だが彼女はそっと口元のベールをあげ、彼女の首元に近づく。
その口に生える歯は牙のようで、まるで吸血鬼そのもの。その牙が、きらりの首元に優しく突き立てた。
「(やっぱり柔らかい子供の首筋は素敵……このまま吸っちゃいましょう)」
従属のエキスを流し込んだシスターはそのままきらりの血を吸おうとのどを動かす。
――が、その血が構内に入った瞬間、彼女の隠された目は見開き、身体がこわばった。
「ッ、グエ、アッ!?」
口内に広がる焼けるような灼熱感。まるで石炭を舌に載せたかのような痛みに思わず血を吐き戻し、牙を放した。
「あ、あぁ、な、何です? 何がおこってるのですシスターさん!?」
そのままの体制をキープしたままのきらりが困惑した口調で訪ねる。
「あ、悪魔が苦しんでるだけよ。もう少し我慢して、ゆっくりポーズを解きなさい」
口を押さえつつ返すシスター。まだ痛みが残るが、十分にエキスを注ぎ込めた。
そのもくろみ通り、ポーズを解いたきらりは異常な脱力感を感じ、力が抜けたかのように体勢を崩す。
「な、なんだか頭がくらくらするし、首がすごく痛い。シスターさん、これ……」
「まずは落ち着いて深呼吸、きっと初めての場所で緊張してるはず」
そっときらりの身体を受け止め、修道服の背にあるボタンを開放する。
マントのように展開した布地はきらりを包み、日光からその身を隠し、逃げ場を遮断する。
きらりは言われるがままに深呼吸し、シスターを見る。彼女の目はベール越しでもわかるぐらいに、らんらんと赤く光っていた。
「さぁ、貴女のお名前、聞かせてくれる?」
「……七瀬、きらり」
きらりの瞳も呼応するかのように赤くなり、自分の名前を紹介しはじめた。
「そう、七瀬きらり。素敵な名前ね」
シスターはにこりとほほえんだ。
この吸血鬼『アーネチカ』の持つ特殊能力は催眠術。
目や耳、動作を通して相手を信じ込ませ、思いのままに動かす。強力な使い手では自殺すらも可能にする、持つものに左右される特殊能力だ。
人間相手では対象の意思に左右される特殊能力だが、自分の配下なら確実に捉えることができる。
そう、アーネチカはこの催眠術で数多くの忠実な従属吸血鬼ーーいや、”コマ”を作り出してきた貴種吸血鬼だ。
「あなたは洗礼を受け、吸血鬼として生まれ変わったの」
「わたし……シスターさんは……」
そんなアーネチカは問いに答えず、そのままパンと手を叩く。するときらりは目を覚ましたように意識を目覚めさせる。
きらりが意識を取り戻してみると、きらりの身体はアーネチカのシスター服ーーいや、シスター服のようなマントによって覆い隠されていた。
「っ、あ、あれ。どうしたのです? なんか私、丸められてる」
催眠状態だったきらりが目を覚まし、シスターに尋ねる。彼女の瞳は以前のようにベール越しに優しげなものだ。
「具合が悪そうにしていたから、少し横にしていたの。もう大丈夫よね、きらり」
アーネチカの言葉にきらりの表情がこわばる。
「うんっ、ありがとうシスターさん!」
そんなきらりの表情にホッとするアーネチカだったが、内心では不安を抱えていた。
「(刷り込み後の初指示とはいえ、応答にブランク。やっぱりこの子何か持っているわ)」
そう考えたアーネチカはしばし考え、仰向けになっていたきらりの手を握る。
「立ちなさいきらり、新横浜まで少し歩きましょう。あと私のことは『アーネチカさん』と呼びなさい」
「はい、アーネチカさん!」
いつものような明朗な口調だが、全てはアーネチカによって書き加えられたもの。
本来乗るはずの電車とは正反対に、2人は駅を降りて歩いて行くのであった。
「番号!」
「……ねぇ、これやる意味あるの?」
「……あるに決まってるでしょ、今日は吸血鬼が沢山入ってくるかもしれないって話なんだから」
点呼を取っていたショートカットの少女が脱力し、応じなかった野暮ったいメガネ少女に声をかける。
そもそも点呼と言っても2人しかいないのだから意味が無い。
彼女たちは『新横アンデルセンズ』と名乗るヴァンパイアハンターのチームだ。
リーダーを名乗り、何かと指揮したがる『神梨友梨香(かんなし・ゆりか)』と突っ込み役の『藤野美弥(ふじの・みや)』。
もう一人『留利早矢香(るり・さやか)』がいるが、駐車場にいるためこの場には居ない。
「まぁ休みだし? サッカーの試合もあるしで人も多いけど人不足よね」
「そこはまぁ、気合いでしのごう。小机の方向を見張るよ!」
『あいあいさー』とやる気無く向かう2人。ちなみに2人ともサバゲールックに自動小銃のモデルガンを担いでおり、場違い感は否めない。
それでもヴァンパイアハンターであるからこそ、視線は突き刺さるものの咎は受けないのだ。
「そう、その”色”というのがあなたの力なのね?」
「うん。ごめんなさい、アーネチカさんのお口が焼けちゃうなんて思ってなかった」
一方、道路沿いを歩きつつ少女とシスターは話を続けていた。
“色”、つまり聖水にも似た特殊な力を持つ生命エネルギーがきらりの身体を流れている。
そのため、アーネチカは血を吸った瞬間に焼けるような痛みを覚えた。と言う結論に至った。
血液を吸うという行為は対象の生命エネルギーを食すことにも等しい。
古来より『洗礼を受けた血は吸血鬼に打撃を与える』と言われているが、まさにその身で感じた。
そんな自分なりの結論を出した後、アーネチカは次の疑問を解消するべく口を開く。
「それにしても……きらり、太陽に当たって気持ち悪くない?」
きらりは頭に『?』を浮かべたような顔をし『全然』と答える。これは吸血鬼の弱点が無いことを示唆することになる。
「じゃぁ、のどの渇きは? 血は欲しくない?」
「血は……欲しい。何かくらくらする」
しかし従属吸血鬼としては従えている。太陽や流れる水、もしかするとニンニクにも強いのがきらりの吸血鬼としての特徴なのだろう。
「じゃぁ……私の血を飲んでみる?」
『えっ』と声を漏らし、きらりはこくこくと首を縦に振る。
「その代わり、試してみたいことがあるの、聞いてくれる?」
「何でも言ってくださいアーネチカさん!」
アーネチカのことばに有無を言わさず、きらりは快諾した。
「なら、裸になってくれない?」
快諾したきらりに放たれる、あまりに失礼で変態的な一言。
しかしきらりはアーネチカの言葉に対し『良いよ』とだけ返し、さらにその場で服を脱ぎ始めようとしたのだ。
「おっと、少し影に入りましょうか」
催眠の効果は上々だが、流石に道路沿いで少女の公開ストリップは危険だ。アーネチカは空きテナントの影にきらりを連れ込んだ。
「それじゃぁ、全部脱いじゃって」
「はーい」
きらりはアーネチカの言葉に従い、服のボタンを外し、ブラウスを、そしてスカートを脱ぎ始める。
何の違和感も無く、まるでそれが当たり前のように外で服を脱ぎ始める。その瞳は催眠効果によって赤く変色している以外はどこも変わりない。
しかし、まるで外での脱衣するのが当たり前かのように、パンツにも手をかけていく。
「ぱんつも?」
「そう、パンツも。隠しちゃだめ。太陽が当たるようにするの」
「これで良いの?」
その言葉にパンツも下ろし、彫りの深いすじが露わになる。未成長を示すかのような無毛に、なだらかな腹部。そして無乳。
いわゆる『健康優良児』だが、この容姿が催眠によって無防備に全裸を晒すという背徳感は、アーネチカの好むシチュエーションだ。
「うんうん、大きく伸びをしてー―気持ち悪くない?」
アーネチカに従い、身体を太陽に晒す。日がてっぺんから少し落ちてもまだ日差しは強く吸血鬼にはあまりに辛い天候。
だが、きらりはそんな天候をものともしなかった。
「大丈夫!」
「ならこのまま裸で歩いてもらうわ。私の口をやけどさせた罰よ」
「はーい」
そのまま何もなかったかのように物陰から飛び出し、歩き出す。
持っていたバッグや洋服、下着などは最初から無かったかのように、全てを無視して歩き始めた。
幼さの残る身体にくわえ、毛の生えていない秘部は、その手の愛好者を引きつけるような無防備さをありありと晒していた。
裸の少女が道を歩く姿は嫌でも目にとまる。それでも通報しないのは、きらりに対して向く視線にアーネチカが催眠をかけているためだ。
『害することなく、見続ける』。その命令は心が緩んだ男性運転手達にはてきめんだった。
だが確実に野卑な視線はきらりに注がれ、自然と感じ取ってしまう。
「なんだか妙な感じがする。むずむずーっと言うか」
「視線かしら? それほどきらりが注目されてるって証拠よ」
「そうかな? ならこうしてみてもいい!?」
そういうやきらりは大きく胸を反らし、なだらかな肢体を大きく投げ出すかのように伸びをする。
当然隠すものは何もないので、より視線も集まっていく。露出癖があるのかというのかと言えば違う、おそらく天然のものだ。
「そうそう、ヴァンパイアハンターが来ない限り好きなようにして良いのよ」
アーネチカはその様子に手応えを感じつつ、同時に警戒もしていた。
そう、警察ならともかくヴァンパイアハンターがやってくると非常にまずい。
アーネチカには殺傷力のある能力を備えていないうえ、きらりがお世辞にも戦いには使えそうにない従属吸血鬼。
そうなると、せいぜい心の弱いハンターを上手く催眠術にかけるしか無い。
神は信じないけど、こればかりは信じるしか無い。でなければ灰になってしまうのだから。
「おっそいなぁ、前は何やってんの?」
その頃、1トントラックの運転席では少女が渋滞にはまってイライラしていた。
乱れたポニーテールの少女、早矢香は高校生。家計の足しにと運送業のバイトを始めたのだが、何故か車にハマったあげくに免許まで取ってしまい、今では運送担当としてチームの裏役になってしまった。
ちなみにこのトラックはヴァンパイアハンターを統括する支部の備品である。冷蔵機能も付いており、拘束した吸血鬼を輸送することができる優れものだ。私用できないのが玉に瑕だが、いずれは同種のトラックを買いたいと考えている。
そんな夢を持つ早矢香だが、車が全く動かない状況には流石に弱る。周辺ではクラクションや怒号、スタジアム方向からの歓声が響き、大いに賑わっている。
このままでは燃料がもったいない。早矢香はエンジンを切り、携帯でリーダーの友梨香に連絡を入れる。
「チームリーダー友梨香よ。どうしたの?」
「ごめーん、渋滞にはまった」
「渋滞って、そんなに道が混んでるの?」
「全く動かない。どっかで事故っているか詰まってるんじゃ――」
電話をかけつつ身を乗り出し、先を確認した早矢香だが、目に入った光景に絶句する。
「どしたのよ、るりちゃん」
「女の子が裸で歩かされてる」
「は?」
「女の子が裸で歩かされてる」
「二度言わなくて良いから。十字架の位置、届く?」
「届かないねー、でもあからさまに怪しいから引きつけてくれない?」
「OK、高架橋で美弥を待たせとく」
用件を伝えて電話を切る早矢香。貴種吸血鬼の中には人間をペットや奴隷のように扱う奴も居ると聞くが、まさにあのような姿を言うのだろう。
クラクションを鳴らされた早矢香は『おっと』と声を上げ、すぐさまエンジンをかけ直した。
「どうしたの? 足が止まってるけど」
「あ、あぅ、その……ええと……こう言うのって、しても良いのかなって」
一方全裸で歩かされているきらりは足がおぼつかなくなる。ひんぱんに止まっては、どこか隠れようと視線をあちこちに移していた。
「(催眠の効きが悪くなってるのかしら。まさか色の力って奴のせい?)」
だとしたら、その色を打ち消す何かが欲しい。もちろん方法は解らないし、それを解くのに時間を費やすほどアーネチカは努力家でも無い。
『扱いづらいし面倒なら捨ててしまえ』でもその前に――アーネチカの思考に邪なものが走った。
「ねぇきらり。ちょっと言って欲しいことがあるの」
アーネチカの目が赤く光る。
「『きらりは裸を見せるだけじゃ飽きてきました。誰かきらりのエッチな身体をめちゃくちゃに犯してください』繰り返しなさい」
「……きらりは裸を見せるだけじゃ飽きてきました。誰かきらりのエッチな身体をめちゃくちゃに犯してください」
きらりの赤い瞳のまま、同じ言葉を繰り返す。恥ずかしさはあるが、それすらも催眠によって打ち消されている。
「いい子、そしてそのときは、こうするの」
きらりの指を割れ目に当て、前後に動かす。
「んあうぅうっ!?」
「これは『えっちしたいです』って合図。こうやってずっとこすり続けてなさい」
さらに催眠をかけつつ、探求をかけてきらりの手に自らの手を添え、指を動かしていく。未知の快感に指はアーネチカの手を離れた後も動かし続け、次第に秘部から愛液がしたたり落ちていく。
「こうやって、こうやって……」
身体の変調にきらりの赤い瞳も不安げにゆがむ。ゆがみながらも勝手に指が動き、快楽を引き起こされる。
股を開かせ、きらりの身体は扇情的なポーズを取らされていく。
「そう、そしたら良いものをくれる。とってもいいものが」
「とってもいいもの……」
いやらしいポーズを行いつつも、きらりは目の前のアーネチカをぼんやりとみつめる。
アーネチカはきらりを後ろに向かせ、背中に手を添える。
そろそろ彼女に人間としてのとどめを刺したい。だからこの一押しで人間としての尊厳を壊し尽くすつもりだ。
「そう、これから私があなたの背中を押す。そしたらあなたはわたしが教えたことを全部やる」
「ぜんぶ……めちゃくちゃに犯して、こうやって、こすりつけて……」
「そう、恥ずかしがらず、何も見なくて良い。深呼吸して、今までの自分とさよならしなさい」
満足げに聞き流しつつ、アーネチカはきらりの背に両手を添える。
そして、破滅への一押しがきらりの背を押し――。
「そこの2人、ちょとまち」
押しかけた時だった。突如2人の間に入ってきたのは迷彩服のヘルメット姿の、野暮ったい印象のメガネ少女だった。
「あ、あなたいつの間に!?」
「エロなこと吹き込んでる辺りかなぁ、影の薄さには定評があるからね」
そう告げ、十字架をそれぞれに突きつける。十字架は瞬く間に赤黒く染まっていく。
「両方クロ、かぁ」一目すると、メガネ少女――美弥は自動小銃に手を伸ばす。
「無防備な子!」
アーネチカの瞳が赤く輝く!
「銃の中に何があるか解ってるのよ。さぁその銃を自分に向けて撃ちなさい!」
その瞳をもって美弥を催眠にかけようとするアーネチカ。凍結弾は人間に撃っても効果がある、このようなところで邪魔される訳には行かない。
だが、美弥にアーネチカの催眠が効いている様子は無い。
「こういう催眠術ってさ、流されないことが大切なんだよね。人間を奴隷にしたくて焦ってるでしょ」
美弥は挑発とも取れる言葉を一つかけ、きらりにも視線を向ける。貴種と従属が1体ずつ。1人で戦うには分が悪い。
「でもあたしを奴隷にしたいのならご勝手にだけど、おばさん」
「おば……!」
ならばやることは1つ、美弥はアーネチカを挑発したあと、背を向けて逃げた。
「待ちなさい! きらり、走ってあの子を抑えなさい!」
「はい、アーネチカさん」
全裸姿のままダッシュをかけるきらり。遊びで鍛えているだけあってなかなかの早さ。
対して美弥はそこまで早くない。フィールドワークはしているものの、瞬発力なんてものは皆無だ。
「つかまえた! きらりのエッチなからだめちゃむぐっ」
「おおっとはしたない」
あわててきらりの口と鼻を押さえる。突然の酸欠に驚いたきらりは言葉を止める。
そして、見開いたまま美弥は従属吸血鬼の少女を道の先に突き飛ばす。
「今!」
「OK、食らいなさい!」
連絡を受けて物陰に隠れていた友梨香が小銃を構えたまま飛び出し、3点バーストで発砲。
放たれた弾丸はきらりの足から胸にかけて流れるように当たり、きらりの身体にへばりついた。
「エッ、あ、ぁ……」
へばりついた弾丸はそれぞれ白く凍っていき、厚さを増しながらきらりの身体を覆っていく
困惑の表情を見せるきらりだったが、急速に覆っていく氷は表情の変化すらも封じ込め、氷の中に閉ざしてしまう。
そう、ほんの10秒も経たないうちに、きらりは全裸のまま氷の中に封印されてしまったのだ。
「フン、使いにくい子だったけどまた催眠をかけて作ればいい話。ここは――」
もちろんそのような状況を見て、アーネチカは次の手を既に考えていた。
『逃げよう』。ヴァンパイアハンターが2人、うち1人は催眠が効かないのでは勝ち目が無い。
慌てて物陰に隠れようとしたアーネチカだが、その背中に容赦なく魔力弾が刺さった。
「これでチャラにしたげる」
銃弾の主はトラックに乗った早矢香だ。興奮によってきらり以外の催眠が解け、渋滞が解消されたためようやく追いついたのだ。
「か、下等な人間が、く、ぅ……」
アーネチカは悔しげな顔をベール越しにみせ、氷の中に閉じ込められる。
早矢香はそんなアーネチカを手早くトラックに積み込み、先に待つ仲間の元へと車を走らせた。
「ミッションコンプリート! 流石わたしね」
「という訳でも無いけどさ。とりあえず2人確保って大きいかな」
十字架のシールを氷に貼り付ける。これで自力で脱出することは無くなった。
「まぁあたしの場合ラッキーヒットだけどね。このまま高速使って横浜まで運んでくよ」
早矢香がトラックのエンジンをかけ、出発する。このままトラックは横浜の倉庫へと運ばれていく予定だ。
横浜にはヴァンパイアハンターが運営している教会があり、凍結や封印を施したヴァンパイアは管理されている施設に保管するようになっている。
この近辺には日本に定住している吸血鬼だけでは無く、外国からの”招かれざる客”も多い。
そのため教会も多く、その地下には封印された吸血鬼が多数眠っているという。
その1体になるとはつゆ知らず、きらりもまた全裸氷像として運ばれていく――はずだった。
「寒い、いたいよ……このままじゃすーちゃんとも会えなくなっちゃう」
きらりの意識がぼんやりと戻る。冷たさや痛みが身体を包み込み、植え付けられた催眠もすっかり解けてしまった。
ただ冷たさだけがきらりの身体を苛み続け、呼応するかのように彼女の身体を白光が包み込んでいく。
「やだ、そんなの、やだぁー!!」
そして、白い光は叫びとともにトラック中にあふれ、真っ白に覆い尽くした。
きらりを覆っていた氷は瞬時に内側から溶け、ヒビから水があふれ、真っ二つに割れた。
そしてアーネチカを閉じ込めていた氷の檻も外から溶けていき、消失する。それでも光は止まず、アーネチカの身体から白煙が上がり出す。
「ひいぃ! いたいいたい熱い、止めなさい、止めて!」
口に含んだだけでも火傷を負うほどの生命エネルギー、聖なる力といって差し支えない光を受けた闇の者が無事で居られるはずもない。
「アアァァァーーーッ!!!」
アーネチカの身体は徐々に白い光に飲み込まれ、後に残ったのは灰とシスター服だけだった。
その絶叫に感づいたのか、トラックは急停車。しばらくしてリアドアが開かれた。
「何だ、拘束がはずれ……えっ」
トラックの背面扉をあげると、そこには裸のまま寒さに震え、体操座りしているきらりの姿があった。
無塗装だった内部は真っ白なペンキをぶちまけたように染まっていて、冷蔵室の中にアーネチカの姿はない。
代わりに灰が外に散るとシスター服だけが残り、さらに早矢香の困惑させた。
「……ええと、大丈夫じゃなさそうだね、君」
「っく、冷たかったし、さむかった」
泣きべそをかくきらりを近くにあったシスター服で包む早矢香。念のため十字架を当てて見ると、洗礼を受けた者に現れる白の十字架に変色した。
「まぁ何だかは解らないけど、無事ってのは良いことだよ」
細かく考えても仕方ない。早矢香は助手席にきらりを載せ、駐車したコンビニで温かい飲み物を買いに行った。
「ぐす、きらりのお洋服とバッグ、どっか行っちゃった」
泣きべそをかくきらりにミルクティーを与えつつ、早矢香はひたすらなだめ続ける。
「それならまぁ大丈夫。連絡入れておいたから」
「で、どこに向かうつもりだったのかな」
『新横浜』と告げるきらり。そういえばここがどこだか解らない。
「何時までに行けば良いとかってある?」
「早いほうがいい」
総きらりがつぶやくと、早矢香はニッと励ますような笑みを見せる。
「OK、飛ばしていこう!」
エンジンとギアを入れ、トラックはうなりを上げて勢いよく走り出す。
「どのぐらいで着くの!?」
「ざっと30分、いいや20分か。とにかく任せときなさい!」
トラックは高速に入り、さらにスピードを上げて新横浜まで進んでいく。その間もきらりは気が気で仕方が無かった。
翠は退屈していないだろうか、どこか迷ってないだろうか。そんな不安を晴らしに、トラックは風を切って高速道路を突き進んだ。
こうして15分後、早矢香ときらりを乗せたトラックは、新横浜駅で待っていたヴァンパイアハンター2人と落ち合った。
本当なら家に帰るはずの2人だったが、早矢香から荷物探しを頼まれてこの時間まで探し回っていたようだ
「はい、荷物。あとさっきメール届いてたから確認しておき」
美弥が頭をかきつつ、服と荷物をトラックに放り込む。
「ありがとう! あっ、すーちゃんからだ」
『連絡無くてごめん 今から電車に乗る 翠』
たった二言だが、それだけで十分だった。着替えながら返事をうつと、きらりも助手席から降りた。
「それで、この子は吸血鬼じゃ無くなってたと?」
イライラしている友梨香と、きらりをいぶかしげに見る美弥。
貴種吸血鬼は取り逃がし、全裸少女吸血鬼は何故か吸血鬼では無かったのだから、リーダーである友梨香はどう始末を付けようか頭を抱えるしか無かった。
「まぁ輸送中の事故もちょっとあるしね。任せたよ、リ―ダー」
「こんな時だけリーダー呼びするんじゃないよ、バカるりー!」
涙目になる友梨香はリーダーにはなりたいものの、責任は取りたくないタイプだ。
とはいえ、仲間のせいで責任を押しつけられることは日常茶飯事なタイプでもあった。
「教会の洗礼名簿にも名前は無かったから、魔法使いのたぐい――なのかぁ」
「魔法使い? きらりは色使いですよ」
「まぁ、貴種吸血鬼のエキスをうたれて戻ったのだから似たような者か。ケガも無いようだし……傷も無い、結果オーライかな」
『失敬』と言い首筋を見るが、傷も目立った痕跡が無く少しへこんでいる程度だ。
いずれにしても犠牲者が居なかったことはヴァンパイアハンターにとっては喜ばしいことに違いない。
「じゃぁな、変な大人についてっちゃダメだからな」
「はーい、ありがとうです!」
見送る3人に手を振り、きらりは構内に走り出す。
しばらくすれば翠もやってくる。そうしたら一緒に目的地――ラーメン博物館に向かえば良い。
何だか色々あったけど、それすらもぼんやりとしか覚えていない。
だがそれで良い、そうでなければ心の底でアーネチカの言葉は延々ときらり幼い心をむしばみ続けていただろう。
記憶すらもきれいに塗り直す”白の色”。それこそが彼女の持つ本当の力なのだろう。

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