対決!キシメンジアVS魔法少女ちな

「それで空からUFOが飛んできて、それがうどんだったの!」
「なにそれ、おもしろい夢」
 なんてことのない、いつも通りの朝。新秋津知奈はクラスメイトのいずみと一緒に学校へ登校していた。
 知奈は友人を相手に夢の話をしていると……どこからか、悲鳴のような声が知奈の耳に入った。
「いずみちゃん、ごめん先に学校に行ってて」
「えっ、わかった。遅刻しないようにね」

 いずみに告げるや来た道を引き返し、路地裏に入る知奈。そこにいたのはどことなくぼんやりとした顔つきの、ポニーテールの女性だった。
「お待たせしました」
「ウィンディさん、ナイスタイミング!」
 ウィンディと呼ばれた女性がうなづくと、2人は光に包まれ、しばらくすると輝く光とともに、緑のツインテールを付けた魔法少女が路地裏から空に飛び出した。

 これこそが新秋津知奈のもう一つの姿。魔法少女マジカル知奈、ウィンドフォームである!
 風の聖霊ウィンディの力を借り、風の力を得た知奈は悲鳴を頼りに一気に現場へと飛んだ。

「いやーっ!」「たすけてーっ!」
「キシシシ、無駄だ無駄だ。おまえ達はこうしてやる」
 巨体はそういうや、黒タイツの戦闘員に連れてこられた一般人をローラーの中に押し込んでいく。
「おい、容器を準備しろ」「トラッ!」
 戦闘員がたらいを深くしたような容器を準備すると、スイッチを押し、身体についていたローラーを回し始める怪人。

「あがががが」「た、たすけ――」
 見る間に巻き込まれ、上半身はペラペラになり、代わりに下半身が見る間に膨れ上がっていく。そしてふくらみが臨界点に達した瞬間、断末魔とともにパァン!と褐色の液体が裂けた足から噴き出した。ただ、見る限り噴き出したのは血液でも体液でもない。むしろ香ばしささえ感じる。

「これがクリミナルゾーンの面々が言っていた『色』というものか。まぁいい、このままだと濃すぎる。一度ゆでて、こしてから薄めて使うんだ!」
「させませーん!」
 その言葉とともにやって来たのは、魔法少女知奈だった。空から急降下した彼女は、先制の一撃をローラー怪人に見舞う。

「なんて恐ろしいことをするのですか! ゆるしません!」
「許さなくて結構。トラス帝国のキシメンジア様が貴様を料理してやろう」
 そういうや怪人――キシメンジアが構える。知奈は構えを見て、駆けた。
「トラス帝国? 聞いたことのない名前ですね。まぁいいです! マジカルストラーイク!」
 風をまとった一撃がキシメンジアを襲う。だが、これはキシメンジアの想定通りだった。

「かかったな、ローラー始動!」
 一撃を受けながらキシメンジアはローラーを回転させ、知奈の手を巻き込みにかかった。
「なぁっ!? 止まってくださーい!」
「止めるものか、キシメンジアホールド!」
 手を引っ込める知奈に対し、キシメンジアは両腕で知奈を抱きしめ、全身をローラーに巻き込もうと力をこめ始めた。
「う、うぅぅぅぅ……」
 回る上下のローラーに懸命に抵抗する知奈。とはいえ知奈の力は魔法少女になってもキシメンジアに劣る。徐々に引き込まれていく。

「中々手ごわいな。ならこれはどうだ、打ち粉噴射!」
 口から打ち粉を噴射するキシメンジアに、知奈はなすすべなく直撃した。
「ごほっごほっ!」
 顔を真っ白にしながら抵抗する知奈だったが、力が緩んだことが命取りだった。
「今だ! ホールド全開」
 ローラーの回転数が上がると同時に抱きしめる力がさらに強まり、知奈の足が地を離れた。
「やああぁぁぁっ!!?」

 知奈の悲鳴とともに彼女の体はローラーに挟まり、一気に通され、ぺしゃんこにされていく。本来なら起こりえないはずだが、これも怪人の力なのだろう。一気にローラーに通された知奈の体は、反物のようにペラペラになってしまった。

「キシシシ、あとはこっちの思うがままよ」
 伸びきった知奈をたたみ、再度ローラーにかけていくキシメンジア。あえて顔を外側に織り込んでいき、徐々に輪郭が伸びきる様を見せつけるように折りたたんでは伸ばしていく。
「(このままじゃ――助けて、だれかー!)」
「おっと、活きのいい生地だな。早く切ってゆででしまおう」
「(切る!? ゆでる!?!?)」
 声を出そうとしても届かない。かすかに動くことができるものの、却ってキシメンジアを楽しませる。
 そしてキシメンジアが取り出したのは、巨大な包丁。麺を切るために用いる中華包丁だ。
「(ひぃぃ! やだやだやだ!! あっ)」
 トン、と間髪入れずに落とされた金属の板は、麺生地となった知奈の体を2等分にする。
「(やめて、戻れなくなっちゃいます。やめて……)」
 そのまま黙々と切り続けるキシメンジア。暴れようにも切られた体はピクリとも動かない。
 キシメンジアは慎重に、麺の大きさが均等になるように生地を切り終えた。

「さぁ、あとはゆでるのみだ。した準備も整っているな」
 トラス戦闘員は御意とばかりにぐらぐらの湯を張った鍋を準備しおえており、あとは入れるのみとなっていた。
「麺が固まらないようにバラシて入れるのがコツだ。いくぞぉ」
 湯気がもうもうと立ち上る鍋に、知奈だった麺生地が放り込まれていく。
「(ぎゃあああああっ!!!?? ああ、あぁぁぁぁっ!!?)」
 湯の中で踊る麺。熱さは感じない物の、次第に感覚を失い、意識が遠ざかっていく知奈。
 無意識のうちに思い出すのは、友人であるいずみちゃんとの思いで、父親は母親との思い出――それが次第に抜け落ちていく。
「(記憶が、思い出が消えていく、なんで、やだ、やだぁ!!)」
「ほうほう、これが”色”というものか。これを使ってスープを作ってみるかな」
 グラグラとゆだった鍋の水の色は、薄い緑色に変色していた。それは知奈の色でもあり、ウィンディの持つ風の聖霊の色でもあった。
 それを一度、二度とすくい取って、器に入れていく。そして赤みそベースのスープを加えていく。

「そろそろ出来上がりか、いい硬さだ」
 仕上げとばかりに麺を容器に入れ、白髪ねぎとチャーシューを盛りつけたら、キシメンジア特製の『マジカルちな麺の赤みそきしめん』の完成だ。
「(……)」すっかりゆで上げられた知奈だった麺生地は、すでに意識すらなく、その存在すら無いに等しい。ただただそこにあるのは、5杯分のきしめんだった。

「さて、俺たちだけで食うのも悪くないが、誰かにも特別に食わせてやるとするか。戦闘員!」
「トラー! ちょうど隠れていた一般人がいました!」
 そういい連れてきたのは、いずみだった。いずみは知奈の言うことを聞いて学校に向かっていたが、途中戦闘員に見つかってしまい、調度用の一般人として捕まっていたのだ。

「わ、私をどうするつもりですか?」
「2つの選択肢がある。おまえはこのまま調度品として固められ、トラス帝国の財源となる。それが1つ目だ」
 ひっ、と顔がこわばるいずみ。
「もう一つはこのきしめんを食べることだ。さっき作ったばかり食べて感想が欲しいのだ。それが2つめ」
 どちらを選ぶか、迫るキシメンジアに恐怖するいずみ。もちろん調度品にはなりたくないが、得体のしれないきしめんを食べるのは、怖さ以外の何物でもない。
 しかし、調度品になれば二度と両親や友人に会うことはできない。別れた知奈にさえも――。

「わかりました。食べます」
「うむうむ、毒は入れてないが隠し味が入っているからな」

 隠し味とは何なのだろうか。半信半疑ながら渡された箸を持ち、人間の形をしているような椅子に座り、麺をすする。
「……おいしい。かみ応えがある麺に…ミント? さわやかな味がする」
「うむうむ、おまえは舌が良いようだな」
 黙々と食べていくいずみ。こってりとした赤みその中に爽快感を感じつつ、いずみは食べ進めていく。

「(これで帰してくれればいいんだけど……)」
 このきしめんの元が何なのか、あまり考えたくはない。少なくとも人間ではないと思いたいいずみだが――真相が語られることはなかった。

「ごちそうさまでした。これで帰してくれますよね?」
「うむ、結構結構。戦闘員、この少女を適当なところまで送り届けろ」
 戦闘員は一瞬『本当に送り届けるのか?』という反応を見せたが、上機嫌のキシメンジアを怒らせるのが怖かったのか、素直に信じることにした。

「幸い麺を半分残しておいて正解だったな。あの隠し味を再現するには魔力を持った人間が必要だな。キシシシ、いいだろう。また作ってやるとするか」

 上機嫌のキシメンジアは、一時退却する。長いすれば他の魔法少女に目を付けられ、倒されかねないからだ。

 一方で戦闘員によって学校の近くまで送り届けられたいずみは、顔を青くしながら草むらで先ほど食べたきしめんを吐こうとしていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
 いずみは気づいていたのだ。あのきしめんはおそらく、誰かが作り替えられたいたものだと。そして、それを拒むことなく食べてしまった罪悪感も相まって、居てもたってもいられなかった。

 しかし、指を入れてもスープ一滴すら出てこない。
「どうして、なんで?」
 まるで身についてしまったかのように出てこない。それともすぐに消化してしまったのだろうか。分からないまま、いずみは1人おう吐する。
 彼女の救いはただ1つ。きしめんに変えられた人間――すなわち食べたきしめんが友人のなれの果てだと最後まで気付かなかったことだ。

「食禍が命じる。貴殿を上級怪人に昇級し、量産怪人の生産を認めようぞ!」
 キシメンジアは食の四天王『食禍(しょくか)』に功績が認められ、量産怪人が作られることになった。
 ラーメンジア、ソバジア、ウドンジア――さまざまな怪人が今後地球に降下し、人々を食べ物に変えていくことだろう。
「そなたも究極のきしめんを作るべく、精進するがいいぞ?」
「ハハーッ!」
 そしてキシメンジアは、究極のきしめんを作るべく、地球に降りては魔法少女を襲う。パワーアップした身体はより強い魔法少女をきしめんに変え、スープに変え、究極のきしめん作りを推し進めるだろう。

 トラス帝国、それはあらゆる芸術を通貨とする異空間民族。
 彼らの目的は、地球の芸術化なのか。それとも――真相は、闇の中である。

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