謎の組織に捉えられた少年たちの運命

【前回までのあらすじ】
謎の狐少女『桶季遊姫(とうい・ゆき)』の手によってスウツを着せられ、おまけに性転換までされた色使いの少年ことサンと健児。
彼女は組織から賞金目当てで捕まえたバウンティーハンターだったが、そんなことは二の次と言わんばかりに2人の心をへし折る姦計を仕掛けていく。
最初こそ抵抗していたものの、次第に心を削られ、砕かれ、そして彼女無しで入られなくなっていく2人。
そして2人が諦めを示した時、依頼者は2人をメインステージへと誘うのであった……。

「……ここは?」
サンは手足や体に妙な違和感を覚えながら、意識を覚醒させる。健児と慰め合い、そのまま眠ってしまったのだろうか。しかし、ここは先程までの牢屋ではない。器材や白衣、ガスマスクをつけた人たちが慌ただしく動き、騒いでいる。

「もしかして、組織の人に連れられて……ケン君は?」
首を動かすと、ギチ、ギチと音を立てながら視界が動く。そうだ、確か『トウイ』という少女に妙なものを着せられ、女の子の身体にされていたはず。身体こそ元に戻っているものの、身体にラインに沿って覆うスウツは気持ち悪くもあり、妙な一体感を少年誌氏に与え続けている。起きた時に感じた違和感の正体は、これで間違いない。

「誰かお探しかな?少年」
「あなたは?」
黒の長髪にブラックフレームのメガネ。中性的な見た目はどこか男性とも女性とも付かない。もちろん美形というわけではないが……他の研究員と比べるとマスクもつけていないし、どこか不用心にも感じてしまう。

「私はドクター・イナバ、そう皆には呼ばせている。色使いの2人、ようこそ私の実験室へ」
「あの『トウリ』って人に僕らを襲わせたのは、あなたですか?」
「その通り。ただまぁ誤算がいろいろあってね。君たちが目覚めるまでに少々時間をかけてしまった。だけど身体は元通りのはずだ」
サンは身体を確かめようとするが、手足を拘束されているためか動かない。
「おい、姿見を用意しろ。さて、君達を招いたのは他でもない。我々の研究している霊体色素――君達で言うところの”色”のテストをしてもらいたくてね」
「テスト……そんなことのために無理やり連れてきたのです?」
「うふふ、ご明察。さすがは青葉教授のご子息……と、口滑っちゃった」
「父さんを、知ってるんですね」

サンは父の名前を出された瞬間、何故標的にされたのか察した。
サンの父こと『青葉・国彦(あおば・くにひこ) 』は芸術家として表舞台では名を馳せている人物だ。しかし、もう一つの顔として彼は色に関する研究を続け、色鬼やイロクイからの脅威にどう立ち向かうのかを研究していたと聞いている。
サンが色について詳しいのもまた、父の文献を見たり、幼なじみの城奈のために特訓を受けてきたからこそ身についたものだ。もちろん協力者がいることもなんとなく察していたが、まさかこのような形で合うことになろうとは。

「私は青葉教授のライバルというべき存在でね。研究テーマは一緒なんだ。ただ、彼みたいに対抗するとか、そんな野暮なことは考えていない」
「……」
「私は、人間全てが霊体色素の武力化に成功すれば、もっと美しい世界ができると考えているのだ。兵器はもちろんそれに伴う汚染もない、そして何より誰でも戦うことができる」
「……それって、全員が色使いになるってことです?」
「半分正解だ。私はね『量産できる色』を作っているのだよ。誰にでも移植でき、かつ副作用のない力をね」

イナバの考えは、最初こそ父の考えと近いように感じた。しかし、蓋を開けてみれば全ての人々に武器を与えるような話でもあった。それに、”色”を使っても人々は危害を被るというのはよく知っている。実現すれば、色に塗りつぶされた半死半生の人々が死体の代わりに転がる、さらに無残な戦場が広がるだろう。

「協力できません、帰して下さい」
「そうは言っても君達は囚われの身だ。そして――このスウツのまま帰れるかね?」
研究員の持ってきた姿見に、サンの姿が映しだされる。顔以外をオレンジのスウツに包まれ、手足には壁に貼り付けられるよう拘束具がセットされている。身体こそ細身の少年に戻っていはいるものの、体全体――陰部に至るまでフィットしている姿は妙な恥ずかしさを感じさせる。

「帰れます! だから外して下さい!」
「まぁ協力されないことは端から知っていたさ。おい、スイッチ入れろ」
研究員がイナバに言われるがままスイッチを入れる。するとスウツがゴムを引き延ばすような音とともにめくれ上がり始める。
「う、くぅっ!?」
まるで体中を締めあげられるような痛みと解放感とともに身体からスウツが剥がされていく。それと同時に手足、そして背中へとスウツが張り付き、拘束具と密着した。
「スウツが動いて、背中が、痛い! 止めて、ください……!」
まるで自分の背中から新しい手足が生えてきたかのような感覚が走り、苦痛を訴えるサン。それでもイナバは止めることなかった。しばらくするとサンの身体が慣れ始めたのか痛みが消えていった。

「君らを捕まえた少女はこのスウツを体の一部にしたと言っていた。だとしたら、組み替えることでこういう使い方もできるということだ。数つは血管と同等の役割を持ち、そして――」
さらにスイッチを押すと、サンの背中から液体状の物体が流れ込み始める。
「君の体に擬似色素を容易に流し込むことができる」
「うぅあぁぁあ!!? 力が、無くなって……」
サンの体に流れ込むと同時に熱さと気だるさが走り、力が抜けていく。流れこむ一方で別のスウツケーブルからは何かが流出し、透明なパイプには彼の力とも言える”オレンジ色”が液体として溜まっていく。

失われていく色とともに、周囲が真っ白に変化していき、意識が遠のいていく。サンの体もまた色が消失し、白化をおこしつつあった。
「(色が消えて、白化して――)」
しかし、消えいく意識はすぐに元の色を取り戻し始める。
「(あれ、なんで、元に戻っていく!?)」
色のついた風景を取り戻したかとおもいきや、再び色が失われていく。
色を奪われ、戻され、そしてまた奪われる。常軌を逸した行為にサンは戸惑い、身体を揺すって抵抗する。

「この擬似色素は元来持っている霊体色素を分離させていく力がある。いわば油を流し込んで水を追い出すようなものだ。もっとも最終的には擬似色素だけになってしまうけどね」
「色が、変えられる……?」
「そうとも言えるな。色が失われる前に見せておこう。君がこうして最小限の苦痛を以て実験に臨むことができた功労者だ」
モニターのスイッチを入れると、そこにはサンと同じようにチューブ状になったスウツによって拘束された健児の姿。しかし、その全身は銀色に変化し、眼や鼻といった部分が有耶無耶になっている、もはや人の形をした『何か』と化していた。
それでも乱暴なショートカットにさんよりやや筋肉のついた細い体つきは間違いなく健児そのものだった。
健児の目元が動き、微かに反応を見せる。生きてはいるが、果たしてこの状態を『生きている』と言って良いのだろうか……。

「ケン君!?」
「ひどく暴れたが、賞金稼ぎの名前を出した瞬間おとなしくなってな。確かトウリだかトウイだか。会わせてくれというものだから、耐えたら彼女に会わせると都度都度言い続けた。かなり苦痛を伴うものだったけどまぁデータも獲れたよ」
変わり果てた健児の姿に驚き、そしてイナバの発言に怒りの表情を見せる。
「よくも、よくも……」
「そうは言っても随分と消耗しているみたいで。健児君と比べると君は体力がないようだな」
その言葉を示すように、戻る風景に一部、黒く金属質な風景が混じっていく。人が、白い机や床の色が変わり、イナバの顔すら徐々に色が変わっていく。
「親友の仲よきかなといったところかな。では姿を改めて見せつつ仕上げにはいろうか」

姿見に再び映しだされたサンの姿は、擬似色素によって胴体からまだらに侵食する銀。白くなった部分に染みこむように何度も、何度も色が戻っては奪われ、そして新たな色を植え付けられる。

「(城奈、ケン君、みんな、ごめん。もう、ダメです……)」
真っ白ではなく、真っ黒に。目に見える全てが金属質になり、感情も、思考も、そして知識すら全て吸い取られるように消失していった――。

「なんとか動けるまでにはなったか。どこまで使い物になるかはともかく、もうしばらく実験台になりそうだ。なぁ?」
「――――」
イナバの前にスウツを身にまとった2人の金属質の少年が立ち、目の位置につけているバイザーには『ハイ、オネガイシマス』と電光表示が流れる。
「うむうむ、霊体色素の武装転換についてもやっておかないといけないものな。おっと」
イナバがふざけるようにサンだった銀色少年のバイザーをあげると、サンの顔が現れる。虹彩がなく、銀色に染まった目玉が現れる。サンは目玉といえる器官をしきりに動かし、何かしらの意思を伝えようとしているが、言葉を発することができない。

2人の肉体は髪に至るまで全身が銀色に染まっており、見るものによっては不気味さすら感じる金属質の人間体と化していた。
さらに2人の知識は色とともに吸収され、発声方法すら喪失していた。半ば洗脳のような形で肉体を動かせるまでに至ったが、それ以外については外部からの操作。意思疎通については目玉だったモノの動きをバイザーを通し、文字情報に変換する必要があった。

「――(イタズラハ ヤメロ)」
「はっはっは、反応テストさ」
顔をしかめる健児だった金属体に対し、笑いながらバイザーを戻すドクター・イナバ。
色を奪われても生きているのは、2人の体の中に擬似色素――つまり人為的に作られた”銀色”が新たな色として、生命力として機能しているからだろう。外見や知識は逸したものの、貴重な肉体が失われることはなかった。

「君達はさしずめ擬似色素を持った色使い……偽色使いだな」
「――(ハイ ニセイロツkキ デス)」
「誤字があるようだがそうだ。そしてもう少し色使いがほしい」
「――(ドウスレバ イイデスカ ?)」
「街まで送ろう。そして君の知ってる人を1人連れて来てくれ。抵抗するなら”色”を使っても構わない」
「――(ワカリマシタ)」
「お前は今後フェイクワン」
「――(ハイ コンゴ フェイクワント オボエマス)」
「お前はフェイクツーだ」
「――(オレハ フェイクツー)」

「そうだ。最後に色の使い方は――」
言い終わる前に健児――もといフェイクツーは手のスウツを解き、ホースのように変形させてイナバに向ける。

「おぉっと! まだ打つな! 打つんじゃないぞ!」
「――(ワカッタ)」
「まったく、知識の再インストールで元の性格まで戻ってしまったか。だが、私に危害を加えたら『トウイ』には合わせないぞ」
「――(ワカッタ トウイサマニ アウ アイタイ トウイサマ)」
「…………」
イナバは手元のスイッチを入れると、フェイクツーが陸に打ち上げられた魚のように激しく悶えだす。電気ショックを与えて強制する。古典的な方法だが、何らかの電気信号で動いているだろう偽色使い(仮)にとって効果は確実だろう。
「では、研究員についていくように。他の装備については着用するように」

2人を載せた車は見知らぬ土地から帆布市へと戻っていく。久々の帰還、だが2人の姿はあまりに変わり果てていた。
2人は研究員からコートと記憶操作用の特殊ライト。そして連絡用の特殊マイクを装着され、公園に放たれる。辺りは既に真っ暗で、時計の針は2時を指していた。

「――(ドウスル)」
「――(データサーチ シテマス タイショウ キメマシタ)」
「――(データ ジュシン ヨツヤ・シロナ)」

2人は無言で頷き、走りだす。
この後城奈がどのような目に合うかは定かではない。ただ、偽色使いとなった少年たちはドクター・イナバの走狗として動き続けるだろう。

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