きらりの遊び場

しろくろりめいく設定のお話。

七瀬きらりは幼くして両親を亡くした。何が原因かは知らされていないが、薄々と知ることもなかった。
きらりは親戚のもとに引き取られ、色淵が丘で何事もなく過ごした。幸いにして彼女が親を失ったという情報と、傷の治りが異様に早いという情報は知られることとなる。

「ねえねえ、今日はどんな遊びするの?」
「そうだねぇ、緑地に遊びに行ってみようか」

きらりが色使いとして自覚し始めたのは、小学2年の頃。真琴が興味本位できらりを鎮守の森に連れて行ったことが始まりだった。
当時も鎮守の森にはイロクイが生息しており、認められたもの以外は近寄ることすら禁じられていた。
柵をくぐって森に入った2人はイロクイに襲われ、色を吸われることとなった。草が生い茂った足は藍達の手で無事直ったが、その時もきらりだけ被害が少なく、治りが早かった。
『自分には不思議な力がある』と自覚しつつも、その事件をきっかけに色の会得について、紫亜や藍とともに学ぶこととなる。

ただ、当時神社の人らも知らなかった事実がある。
帆布中央公園にはイロクイが少なからず存在し、きらりがそれを知っていたことだ。

「一人できたことはないけど、確かここにも……いたいた、確か色をこうやって吸わせると」

緑地に侵入したきらりはまず、木に白の色を流し込む。木は見る間に動きを取り戻し、枝を、葉をきらりに巻き付かせ始める。

「わ、身体が持ち上げられてる」

持ち上げられながら、木の幹に埋め込まれていく幼い両足。イロクイは自らを青々と茂らせるようにきらりの色を吸い取り、自身のの色を流し込む。

「うぅ、吸い取られて、なんだかむずむずする……」

ショートヘアの髪が伸び、緑の葉に代わると、両手や両足が木に代わっていく。変化は非常に早く、見る間に人間の姿を逸していく。

「(あっ、うああぁっ、木に変わっちゃう……!)」

すでに声も出せず、心の中で叫ぶままに、きらりの前身は太い枝と葉に代わり、木と一体化する。
太すぎる枝も木の色と同一化するように細くなっていき、太めの枝になって変化が止まった。

「…………」

人間だった名残は枝にかかった服だけになり、それ以外は樹木の枝そのものとなったきらり。本来であればこうしてイロクイに食われ、人間としての生を終えるものだ。
だが、ここから常人とは違った。1時間もした頃だろうか。木はミシミシとうなりを上げ始める。

『クルシイ、クルシイ』

木が急速に老い始め、葉っぱや枝が落ち始める。きらりの色をまんべんなく吸収した樹木は、その寿命すらも早回しにしてしまったのだろう。
きらりだった枝も葉っぱがついたまま地面に落下し、供給が断ち切られた樹木は後ろに倒れ、朽ち果てた。

「……んん」

そこから10分もしないうちにきらりの身体は元の体格を取り戻し、葉っぱだった髪は元の長さに戻り、枝だった全身も元通りになった。

「ふぅ、ちょっとだけびっくりした。でもこれをやると服が脱げるのが面倒くさいかも」

生まれたままの姿になってしまったきらりは、あわてて着替え始める。人がめったに来ないところとはいえ、外で裸になったことは幼稚園以来だ。

「えっと、あの木の影なら大丈夫そうかな」

きらりも先ほどの行為から学んでいる――いや、正確にはこのような行為を過去何度か行っていた。
植物に色を流し込み、イロクイにして色を吸わせる行為。あまりに無謀でかつ残酷な行為だが、当時のきらりは特段気にすることもなかった。
それはともかくとして、色を意図的に流し込まなければ動き出さないことを知っていたきらりは、気を付けながら服を着なおす。
ただ、この時は色の制御に関していまいち得意ではなかったきらりは――。

「は、へ、へっくし!」

くしゃみの勢いと共に色を吹き出してしまった。口から噴き出た白の飛沫は木を覆っていたツタにかかり、しばらくするとそのツタはうごめき始めた。

「あー……まぁ、いいか」

きらりは帰る時間がちょっとだけ心配になったが、体力は十分回復していた。つまり、逃げずにまた『遊ぶ』つもりだった。

両腕、両足をツタに浸食されたきらりは当然ながら手足ともにツタと同化し、樹木と化して動けなくなる。下手に動けばバランスが崩れ、身体が壊れてしまう怖さもあったからだ。

「んんっ、口に入ろうとしてる……っ!?」

ツタの繁殖力はとどまることなく全身を覆うと、口の中はもちろん、下腹部の割れ目を伝って体内にまで潜り込み、侵食していく。

「んんーーーーっ、んんんーーーっ!!!」

むずがゆさが全身を襲い、もがこうにもわさわさとした手足は重たく、動かない。
内臓すらも侵食していく感覚は常人には発狂しかねない感覚だろう。だが、それすらも無視し、ツタは浸食をやめない。

「!!?!?」

途中、下腹部を這っていたツタが進行を止め、バツッ!という音とともに再び侵攻する。
その衝撃、痛みとともに、きらりの身体は前のめりに倒れ、意識を失った。

その後、身体の内部までツタに浸食されきったきらりが元に戻るまでいくら時間がかかったかわからない。
しかし、次に目を覚ましたころには、疲れと痛みこそあったものの身体は元通りだった。

「いたた……ちょっと乱暴すぎるよぉ。それに早く帰らないと」
惨状よりも帰りが遅くなることを心配したきらりは慌てて着替えなおし、緑地を抜け出す。
かくして、きらりの一人遊びはこうして終わる。もちろん毎日ではないが、たびたび人目を盗んではこのように遊んでいた。

そうこうしていたある日、紫亜は神社の神殿に1人呼ばれた。紫亜は土地神の信託を授かる巫女として、土地神――もとい色神『零無(れいむ)』と意思疎通ができる能力を有していた。

「紫亜、神社のものに中央公園の緑地を封鎖するよう言ってくれ」
「はい? 確かにあそこは弱いイロクイが少数居ますが……」
「最近イロクイが強さを増し、土地を争い始めた。一般人が巻き込まれるのはまずい」
「わかりました。神主さんたちにも伝えます」

紫亜は疑問を抱くこともなく、零無の言葉を大人たちに伝える。

「白の色使いが思わぬことをしてくれたが、まぁいい。勢力争いが増えれば良質なイロクイがその分増えるし生まれる。土壌を肥やしてくれたことには感謝するが、そろそろ止めねばな」

零無は紫亜の後姿を見て、そうつぶやく。零無にとってすれば制御が効かなくても自分の計画を優先できればよかったのだろう。
こうして制御がいまいち効かない――というより制御をわざと緩めつつ行っていたきらりのいけない遊びが公になり、やめるようになったのは2年ほど先の話だった。

きらり「――という感じで遊んでたんだけど」
翠「それは話さないほうがいい、まじで」
きらり「えっ」
翠「マジで」

コメント

タイトルとURLをコピーしました