#17 邪悪な色は夢で交わる

私は夢を見る。しかもひたすら嫌な夢だ。
あの時、失敗しなければ、邪魔が入らなければ、私は――。

ザザッ

『美奈子ちゃんじゃ無理』

ザザッ

『オマエ、オイシソウ』

ザザッ

『やっぱ四谷さんと仲良くしたほうが良いよね』

許せない。
許せない。
許せない。

毎夜続くこの夢は、私の過去。
学校にいけなくなった私を苛み、追い詰める夢。
もう取り戻せない、やり直しが効かない。
このまま一生この汚点を引きずっていくしかない。

『そうだ、オマエはもう許されない』
「――誰?」
『オマエを救うもの、オマエを引き上げるもの、そしてオマエの身体を奪うもの』
「何の用? あなたも私を馬鹿にしにきたの?」
憔悴した心で黒いシミに問いかける。黒いシミは瞬く間に広がっていき、大きな闇に変わっていく。まるで、私の全てを覆うかのように。

『ワタシはオマエの体が欲しい。オマエは救われたい。取引だ』
「まるで悪魔みたいなことを言うのね。何者なのあなた?」
『ワタシは色鬼。この世界の人間より優れた存在。だが、そのためには肉が必要だ』
「ワタシの身体がほしいってことね、もしかしてこの夢もあなたが見せたものなの?」
『その通り、オマエを絶望させ、明け渡すのに最適なココロにするために、過去を引き出した』
「……ふぅん、それで、身体が手に入ったら誰にも負けないの?」
『その通り、ワタシは力がある。だがモロイ。肉を得て、全てが完璧になる』
「その力で、何をしたいの?」
『コノ街を支配し、ヒトを意のままにする。1人失敗したが、ワタシはしくじらない』
「……それで私が報われるなら、いいわ。この体を渡してあげる」
『そうか! 取引は成立だ!!』

闇が私を包み込むと、色鬼と名乗っていた闇の記憶が入り込んでくる。人が無様に変質し、家畜同然に扱う記憶。力を持つものに追われた記憶、そしてリベンジのためにさまよい続けた記憶。
力も体の奥底から湧いてくる。それと引き換えに、意識が薄れていく――。
『これで私は完璧だ! ナマエを改めねばな!』
「そうね……『あなたに名前をつけないといけないわね』」

私は、目をカッと開き、これまでの記憶を思い出す。
理不尽に頓挫し、虐げられ、無視され、そして弱者に堕ちる屈辱が、心を支配する。
「私はね、また上り詰めないといけない。ううん、そもそも堕ちたことすら感じてはいけない。また元の世界に戻って、今度こそすべてを治める」
『そのために、ワタシを利用するつもりか! 人間のくせに!』
「そうよ、あなたに教えてあげる。この世界で最も栄えていて、愚かで、そして恐ろしい存在の持つ力をね!」

私を包んでいた闇が全て取り込まれた。意識ははっきりしていて、力もあふれてくる。常人なら不快に感じるこの黒いオーラも、心地よく感じる。まるで元からあった力のよう。
「これがあなたの力なのね」
『クソッ、人間め。なぜ出られない!』
色鬼は私の体から出ようともがいている。でも、その様子もイメージで何となく分かる。分かるから、掴んで、離さない。
『……ッ!』
「そして今から私の力。感謝するわ、これで私は復讐することができる。そうそう、あなたに名前をつけないと」
そういい、私は少し考えた後、口を開く。
「あなたの名前は『ナシ』よ。何もない存在。今のあなたに悪くないでしょ? むしろ出涸らしってつけないだけ感謝してほしいわね」
『グググ……』
私の中にいる色鬼が歯噛みしている。ひどく無様な姿に笑いすら出そうになる。
「それじゃあ早速使いましょうか、この夢から醒めてね」

私――時任 美奈子ときとう みなこはベッドから出て、悠然と親のもとへ向かった。
かたや驚き、かたや無関心な両親に指を突きつけ『従え』と唱える。
親の額に黒い文様が刻まれ、従順な人形となった両親をかしずかせて美奈子は椅子に座った。

「さて、この力を使って何をしようかしら?」

コメント

タイトルとURLをコピーしました