よく「Mの人はSでもある」と言う言葉がありまして。
個人的にSの部分はあまり出したくないなぁとは考えているのです。人格疑われそうですし。
で、今回のifを書いてみるとなかなか筆が乗った訳です。多分自分のS性を存分に吐き出せたせいかもしれません。
その結果、過去最大のグロ度を誇るSSが完成したわけですが、許してくれるよね。
俺は許した。
これが
私の
S性。
【注意】
今回のSSには人体破壊(破裂)を伴う描写が含まれています。
当然キャラクターが死にます。相当にグロいなぁ、と思いますので見たくない人・苦手な人はこのSSを見なかったことにしてください。
【注意ここまで】
・三行でわかるあらすじ
色鬼”橙乱鬼(とうらんき)”の必殺技『色合せ』が炸裂!
直撃を受けた色使い五木・真畔(いつき・まくろ)は橙と乱色に染め上げられ、戦闘不能。
だが、その体内では恐るべき変化が起きようとしていた――!
「(な、何が起こったの?)」
状況が飲み込めないままの真畔。確か、橙乱鬼の色合わせを受けてからの意識がない。
そもそも、なぜか立てない。まるで意識だけが宙に浮いているような感覚に、動揺の色は隠せない。
そして、左右からうめくような音が聞こえ始める。まるで慟哭を思わせるかのような、おぞましいうめき声。
「な、何なの? これ……招待を見せなさい!」
真畔が辺りを見回すと、うめきの正体が一目して分かった。右からは橙色、左から藍色が、真畔を挟む水壁のように迫っていた。
「これってあいつの――」
次の瞬間、水壁は交差するように混じり合い、混沌とした色を周囲にまき散らしていく。真畔の姿は一度消え、そのまま沈んだかのように思えた――が、全身をまだらに染め上げられた状態で浮き上がってくる。
せき込みながらも目を拭う彼女の姿は、肌色のほとんど見られないまだらに染まった全裸だった。
「なんで裸なの!?」
その答えを受けるものは誰1人としていない。さらに押し寄せる色の波は真畔を容赦なく打ち付けては真畔の身体を橙と藍色で染めていく。
「色には色、どれだけうまくいくか」
そう思い、自分自身の色を出そうとした……が、あふれ出てきたのは紫ではなかった。複数の色が不完全に混じり合ったまだらな色が、手からボトボトとあふれ出すだけ。
「うそ……こんなの、私の色じゃない」
だが、変化はそれだけではなかった。流した色はすぐにとまり、真畔の手をパンパンに膨らまし始めた。
「ひっ!?」
止まって、止まってと願うも止まらない色は腕の中で幾度も循環し、手だけではなく、腕をも太い丸太のように膨らましていく。そして打ち付けていく色もまた、渦を巻いて真畔を取り囲み始めた。
もはやここまでくれば、何が起こるのかも察して余る。
「もしかして、私の色が、塗りつぶされるの?」
失望の混じった声が響いた瞬間、2色は覆い被さるように持ち上がり、槌のように両側から真畔を叩き潰す。
「ごほっ、助け、おぼれる。嫌だぁ!」
穴という穴から色が入り込み、身体を膨らませる。内臓を蹂躙し、色同士を混ぜ合い、侵食していく。
「ああああああああああっ!!!!」
そして、自分の数倍はあろう体積を持つ色は真畔の年相応の体内に飲み込まれ、体型を維持したまま消失した。
「……どこに消えたの。あの色は、どこに」
目の前がぐらぐらと極彩色をともなって歪む。まるで全てが崩れるかのような感覚と共に、真畔の意識は歪んで消え去った。
――
―
場所は変わり、帆布中央病院の手術室。ここでは今も残ったきらりと翠が橙乱鬼に戦いを繰り広げていた。
執拗に逃げる橙乱鬼に対し、追い続ける翠。鬼の方が戦い慣れているのか、翠たちには疲れの色が見える。
「そろそろ潮時かな?」
「(こいつ、時間を稼いで何をしようとしてるの?)」
色を放ち、壁際まで追い込む翠。真畔をつかみ、引きずる鬼の手に色をぶつけると真っ黒に変色し、手が風化した。
「真畔ちゃんたちを元に戻してもらうから!」
「遅い、何もかもな!」
きらりが怒りを込めて叫ぶも、橙乱鬼はしてやったりという顔で2人を見る。既に策は成ったのだ。
「遅くないもん! 絶対――」
「ぎゃああぁぁあああああ!!!」
きらりと翠が叫び声の主――真畔の方角を向く。これまでぴくりとも動かなかった真畔が胸や首を押さえ、まるで空気を求めるようにもがき苦しみ始めた。
「うご、ごぼっぉ、ぶ……」
そして、絶叫と共に真畔の口からヘドロのような色があふれはじめる。
「なに、これ……」
翠もきらりも、呆然とするしかなかった。染まる訳でもない、かといって追い込まれた色鬼が何か仕掛けたとも考えにくい。
それでも色は口からだけではなく、耳や下半身からも濁流のように吹き出し、別の穴に戻っていく。その度に真畔の身体がはち切れんばかりに膨れあがり、来ていたセーラー服が、そして下着が音を立ててちぎれていく。
「だずげで、いろにつぶざれる」
既に真畔の身体は2回りほど大きくなり、見る影もなくなっていた。健康的な体色も、赤々とした髪色も汚物そのものの色に代わり、瞳だけが唯一変色せずに助けを求めていた。
「どうしよう、い、色で……きゃっ!」
慌ててきらりが色を真畔に放つも、反発するかのように色が襲いかかる。
「うぅ、なにこの色。変な臭いがする」
まるで腐った肉や卵などをぶちまけ、かき混ぜたような刺激を伴う腐敗臭。それを親友に告げるのはあまりに残酷だときらりも思ったのか、口ごもってしまう。
「こいつの中は今、3つの色が中途半端に混ざり合ってる状態だ。本来生き物に1色しか持たない決まりを無理やり崩してやったのさ!」
「ふざけるな、ふざけるなぁ!」
「真畔ちゃんに何てことをするの!?」
翠が怒りのあまり色をひたすら撃ち込み、きらりは悲鳴のような声で訴える。
「ふざけてるにきまってんだろ! どうなるか見つつ恐れおののくがいいさ!」
橙乱鬼は笑っていた。人間が醜く壊れる様を見て、人間が怒り狂い、慟哭する様を見て歓喜の情が絶えなかった。そしてこれから起こることを考えると、さらに楽しくなることも知っていた。
「ま、真畔ちゃん、どうしたらいいの?」
「おおおおお、ぐ、うぶうううう」
まるで水風船のようにパンパンにふくれ、あちこち肥大化する真畔。壮絶な痛みと共に指はソーセージのように、腕は極太のハムのようなありさま。下着もはじけ飛んだだめ生まれながらの姿といえど、その身体は汚物色で見る影もなく、ぶよぶよとした表面には艶が表れ、よく見ると水のようなものが浮き始める。身体の中を食い荒らしていた”色”が真畔の皮膚まで食い尽くし、色を放出を防ぐ外膜へと変異させたのだろう。
「ごめんなざい、たすけて、なんでもずる、じます」
「何でもするのか? そんな身体でか? その前に何かあるだろう?」
「どう、らんぎざま、たずげでぐだぢぃ。なんでもやるがら、だずげでぇ!」
橙乱鬼に助けを求める真畔はただただ、懇願した。生きたくて助けを求めたくてやっているわけではない。肉体を暴れる3つの色が放つ生き地獄のごとき痛み。爪は弾け、血が煮えるような激痛に加え、変貌する身体への恐怖。肉体と精神の責めから悶絶死することすら許さない3つの生命力。その苦しみから逃れるために惨めにすがっているのだ。
そのような懇願に橙乱鬼はただただニヤついていた。真畔の腹が、腕が一段階膨れあがり、汚い悲鳴を上げると、彼女にただ一言、とどめを刺した。
「諦めろ、諦めて色になれ」
その言葉が引き金になったのかは分からない。しかし真畔の肉体は確かに臨界点に達し、ボギン! と身体の中で骨が折れるような音が鳴り響く
「グギャあああああああああ!!!!」
「耐えるから苦しむんだ、助かると思ったか? こんなの助かるわけないに決まってるだろう。だけど安心しろ。骨の髄、脳の一片、魂の一匙に至るまでこの橙乱鬼様が残さず使ってやる」
真畔の手足が折れ、内側に潰れていく。まるで重力崩壊を起こした巨星がブラックホールになるかのように、ぐにゃぐにゃになった身体を揺らし、体内の色をかき混ぜながら内側に圧縮される真畔の身体。
「ごぼっ、た、す、じぇて、ずい、ぎらりぃ」
「まくろちゃん……」
そしてついに真畔の首が常人では向かない方向にねじ曲がり、首が頭を喰らうように膨れ、飲み込んだ。
目を見開いたまま、何か訴えるようにボコボコと泡を立てる真畔の姿は、身体が半透明になっているせいもあってよく見ることができた。
しかし、次第に色が波打ちシェイクされていくと、真畔だったモノの首はねじ切れ、骨が砕ける音と共に塊のようなものが後頭部から飛び出す。髪はちぎれ、醜く歪んだ顔は粉砕されてヘドロ色の液体をまき散らし、砕けた頭蓋骨と共にうずの中に消えていった。
粉々に砕ける音はすぐに収まり、大きな破片も汚らしい色の中に融けていく。ぐるぐると泡を立てながら回転を続ける球体は次第に一色にまとまり始め、ついには青紫色の大きな玉になってその場に鎮座した。
「そう、使ってやろうか、なぁ……六宮・翠ちゃんよ」
「ま、まくろ、ちゃん……うわああああぁん!」
あまりに残酷な末路を受け入れられず、泣きわめくきらりを尻目に橙乱鬼は青紫の珠を手にする。大きな色の塊は縮小し始め、橙乱鬼の手のひらに乗るサイズに変化した。
「手を出すなよ黒の色使い。こいつがここで炸裂したら凄まじいことになるぜ?」
「お前なんかの……」
「ん? やるのか? この病院は余裕で吹き飛ぶなぁ。あたしは多分生きているが、お前たちは無事じゃぁ済むまい」
「おまえ、なんかの……」
『お前なんかの言うことを信じるか』その言葉と共に翠は迷うことなく、殺意をもって橙乱鬼に色を打ち出した。
単なるハッタリ、逃げ出そうとする橙乱鬼を殺すための色。敵討ちの一撃。恐らくこれまでで一番”殺してやる”という念を込めた、禍々しい一撃だったに違いない。
しかし、そのような色を見ても橙乱鬼は表情を変えることはない。彼女はそのまま、真畔のなれの果てである珠を突き出した。
「バカな人間。これだから楽しいんだ」
珠に翠の色が注がれる。殺意と憎悪のこもった、正真正銘の”殺すための色”。
翠の色が注がれた瞬間、3色の均衡が崩れ、新たな力を求めて外に弾けようと激しく暴れ始める。
薄皮が破れた瞬間、翠の目には珠がひどく大きくなったように感じ、そして――。
破裂した色の珠は全てを破壊するかのように、病院一帯を漆黒に染め上げた。
色の珠は瞬く間に帆布中央病院の建物を飲み込み、全ての設備を衝撃で破壊し尽くした。木々はへし折れ、爆炎ならぬ爆色は一瞬で木々を黒く染め、粉々に砕け散った。
紫と黒が混じったようながれきは街にまで飛び散り、落ちた先の建物や椅子を侵食していく。大惨事を呼んだ一撃は街を飲み込まなかったのは不幸中の幸いだった。
まさに”色の反応爆弾”とでも言おうか。橙乱鬼は地獄への引き金を自分ではなく、色使いにわざわざ引かせたのだ。
真っ黒に染まり、人とがれきの区別すら付かなくなった帆布中央病院跡地。
がれきの一部がもこりと隆起し、何者かが姿を見せる。
「……ふふふ、あはは」
きらりだ。きらりは笑いながら、空を仰ぐ。その服は真っ黒に汚れ、顔も黒に染まっていた。
だが唯一違う点もあった。きらりの頭には色鬼の持つねじれ角が生えていた。
「死に損ないの身体、存分に使わせてもらうぜ」
その瞳は橙乱鬼そのもの。きらりの肉体を得た橙乱鬼は邪気を伴った笑いを浮かべる。
身体に付着した色は元に戻り、涙の痕がも引いていく。残るのは邪悪な笑みだけ。
生気を1つも感じない死の土地で、鬼はただ一人笑った。
帆布市は、3日もしないうちに橙乱鬼の支配下になった。
イロクイとシロクイ。エサとなる肉人形たち。
そして、傷つけられても、染められてもすぐに元に戻る不死身の色鬼が暮らす、地獄がそこにあった。
状況が飲み込めないままの真畔。確か、橙乱鬼の色合わせを受けてからの意識がない。
そもそも、なぜか立てない。まるで意識だけが宙に浮いているような感覚に、動揺の色は隠せない。
そして、左右からうめくような音が聞こえ始める。まるで慟哭を思わせるかのような、おぞましいうめき声。
「な、何なの? これ……招待を見せなさい!」
真畔が辺りを見回すと、うめきの正体が一目して分かった。右からは橙色、左から藍色が、真畔を挟む水壁のように迫っていた。
「これってあいつの――」
次の瞬間、水壁は交差するように混じり合い、混沌とした色を周囲にまき散らしていく。真畔の姿は一度消え、そのまま沈んだかのように思えた――が、全身をまだらに染め上げられた状態で浮き上がってくる。
せき込みながらも目を拭う彼女の姿は、肌色のほとんど見られないまだらに染まった全裸だった。
「なんで裸なの!?」
その答えを受けるものは誰1人としていない。さらに押し寄せる色の波は真畔を容赦なく打ち付けては真畔の身体を橙と藍色で染めていく。
「色には色、どれだけうまくいくか」
そう思い、自分自身の色を出そうとした……が、あふれ出てきたのは紫ではなかった。複数の色が不完全に混じり合ったまだらな色が、手からボトボトとあふれ出すだけ。
「うそ……こんなの、私の色じゃない」
だが、変化はそれだけではなかった。流した色はすぐにとまり、真畔の手をパンパンに膨らまし始めた。
「ひっ!?」
止まって、止まってと願うも止まらない色は腕の中で幾度も循環し、手だけではなく、腕をも太い丸太のように膨らましていく。そして打ち付けていく色もまた、渦を巻いて真畔を取り囲み始めた。
もはやここまでくれば、何が起こるのかも察して余る。
「もしかして、私の色が、塗りつぶされるの?」
失望の混じった声が響いた瞬間、2色は覆い被さるように持ち上がり、槌のように両側から真畔を叩き潰す。
「ごほっ、助け、おぼれる。嫌だぁ!」
穴という穴から色が入り込み、身体を膨らませる。内臓を蹂躙し、色同士を混ぜ合い、侵食していく。
「ああああああああああっ!!!!」
そして、自分の数倍はあろう体積を持つ色は真畔の年相応の体内に飲み込まれ、体型を維持したまま消失した。
「……どこに消えたの。あの色は、どこに」
目の前がぐらぐらと極彩色をともなって歪む。まるで全てが崩れるかのような感覚と共に、真畔の意識は歪んで消え去った。
――
―
場所は変わり、帆布中央病院の手術室。ここでは今も残ったきらりと翠が橙乱鬼に戦いを繰り広げていた。
執拗に逃げる橙乱鬼に対し、追い続ける翠。鬼の方が戦い慣れているのか、翠たちには疲れの色が見える。
「そろそろ潮時かな?」
「(こいつ、時間を稼いで何をしようとしてるの?)」
色を放ち、壁際まで追い込む翠。真畔をつかみ、引きずる鬼の手に色をぶつけると真っ黒に変色し、手が風化した。
「真畔ちゃんたちを元に戻してもらうから!」
「遅い、何もかもな!」
きらりが怒りを込めて叫ぶも、橙乱鬼はしてやったりという顔で2人を見る。既に策は成ったのだ。
「遅くないもん! 絶対――」
「ぎゃああぁぁあああああ!!!」
きらりと翠が叫び声の主――真畔の方角を向く。これまでぴくりとも動かなかった真畔が胸や首を押さえ、まるで空気を求めるようにもがき苦しみ始めた。
「うご、ごぼっぉ、ぶ……」
そして、絶叫と共に真畔の口からヘドロのような色があふれはじめる。
「なに、これ……」
翠もきらりも、呆然とするしかなかった。染まる訳でもない、かといって追い込まれた色鬼が何か仕掛けたとも考えにくい。
それでも色は口からだけではなく、耳や下半身からも濁流のように吹き出し、別の穴に戻っていく。その度に真畔の身体がはち切れんばかりに膨れあがり、来ていたセーラー服が、そして下着が音を立ててちぎれていく。
「だずげで、いろにつぶざれる」
既に真畔の身体は2回りほど大きくなり、見る影もなくなっていた。健康的な体色も、赤々とした髪色も汚物そのものの色に代わり、瞳だけが唯一変色せずに助けを求めていた。
「どうしよう、い、色で……きゃっ!」
慌ててきらりが色を真畔に放つも、反発するかのように色が襲いかかる。
「うぅ、なにこの色。変な臭いがする」
まるで腐った肉や卵などをぶちまけ、かき混ぜたような刺激を伴う腐敗臭。それを親友に告げるのはあまりに残酷だときらりも思ったのか、口ごもってしまう。
「こいつの中は今、3つの色が中途半端に混ざり合ってる状態だ。本来生き物に1色しか持たない決まりを無理やり崩してやったのさ!」
「ふざけるな、ふざけるなぁ!」
「真畔ちゃんに何てことをするの!?」
翠が怒りのあまり色をひたすら撃ち込み、きらりは悲鳴のような声で訴える。
「ふざけてるにきまってんだろ! どうなるか見つつ恐れおののくがいいさ!」
橙乱鬼は笑っていた。人間が醜く壊れる様を見て、人間が怒り狂い、慟哭する様を見て歓喜の情が絶えなかった。そしてこれから起こることを考えると、さらに楽しくなることも知っていた。
「ま、真畔ちゃん、どうしたらいいの?」
「おおおおお、ぐ、うぶうううう」
まるで水風船のようにパンパンにふくれ、あちこち肥大化する真畔。壮絶な痛みと共に指はソーセージのように、腕は極太のハムのようなありさま。下着もはじけ飛んだだめ生まれながらの姿といえど、その身体は汚物色で見る影もなく、ぶよぶよとした表面には艶が表れ、よく見ると水のようなものが浮き始める。身体の中を食い荒らしていた”色”が真畔の皮膚まで食い尽くし、色を放出を防ぐ外膜へと変異させたのだろう。
「ごめんなざい、たすけて、なんでもずる、じます」
「何でもするのか? そんな身体でか? その前に何かあるだろう?」
「どう、らんぎざま、たずげでぐだぢぃ。なんでもやるがら、だずげでぇ!」
橙乱鬼に助けを求める真畔はただただ、懇願した。生きたくて助けを求めたくてやっているわけではない。肉体を暴れる3つの色が放つ生き地獄のごとき痛み。爪は弾け、血が煮えるような激痛に加え、変貌する身体への恐怖。肉体と精神の責めから悶絶死することすら許さない3つの生命力。その苦しみから逃れるために惨めにすがっているのだ。
そのような懇願に橙乱鬼はただただニヤついていた。真畔の腹が、腕が一段階膨れあがり、汚い悲鳴を上げると、彼女にただ一言、とどめを刺した。
「諦めろ、諦めて色になれ」
その言葉が引き金になったのかは分からない。しかし真畔の肉体は確かに臨界点に達し、ボギン! と身体の中で骨が折れるような音が鳴り響く
「グギャあああああああああ!!!!」
「耐えるから苦しむんだ、助かると思ったか? こんなの助かるわけないに決まってるだろう。だけど安心しろ。骨の髄、脳の一片、魂の一匙に至るまでこの橙乱鬼様が残さず使ってやる」
真畔の手足が折れ、内側に潰れていく。まるで重力崩壊を起こした巨星がブラックホールになるかのように、ぐにゃぐにゃになった身体を揺らし、体内の色をかき混ぜながら内側に圧縮される真畔の身体。
「ごぼっ、た、す、じぇて、ずい、ぎらりぃ」
「まくろちゃん……」
そしてついに真畔の首が常人では向かない方向にねじ曲がり、首が頭を喰らうように膨れ、飲み込んだ。
目を見開いたまま、何か訴えるようにボコボコと泡を立てる真畔の姿は、身体が半透明になっているせいもあってよく見ることができた。
しかし、次第に色が波打ちシェイクされていくと、真畔だったモノの首はねじ切れ、骨が砕ける音と共に塊のようなものが後頭部から飛び出す。髪はちぎれ、醜く歪んだ顔は粉砕されてヘドロ色の液体をまき散らし、砕けた頭蓋骨と共にうずの中に消えていった。
粉々に砕ける音はすぐに収まり、大きな破片も汚らしい色の中に融けていく。ぐるぐると泡を立てながら回転を続ける球体は次第に一色にまとまり始め、ついには青紫色の大きな玉になってその場に鎮座した。
「そう、使ってやろうか、なぁ……六宮・翠ちゃんよ」
「ま、まくろ、ちゃん……うわああああぁん!」
あまりに残酷な末路を受け入れられず、泣きわめくきらりを尻目に橙乱鬼は青紫の珠を手にする。大きな色の塊は縮小し始め、橙乱鬼の手のひらに乗るサイズに変化した。
「手を出すなよ黒の色使い。こいつがここで炸裂したら凄まじいことになるぜ?」
「お前なんかの……」
「ん? やるのか? この病院は余裕で吹き飛ぶなぁ。あたしは多分生きているが、お前たちは無事じゃぁ済むまい」
「おまえ、なんかの……」
『お前なんかの言うことを信じるか』その言葉と共に翠は迷うことなく、殺意をもって橙乱鬼に色を打ち出した。
単なるハッタリ、逃げ出そうとする橙乱鬼を殺すための色。敵討ちの一撃。恐らくこれまでで一番”殺してやる”という念を込めた、禍々しい一撃だったに違いない。
しかし、そのような色を見ても橙乱鬼は表情を変えることはない。彼女はそのまま、真畔のなれの果てである珠を突き出した。
「バカな人間。これだから楽しいんだ」
珠に翠の色が注がれる。殺意と憎悪のこもった、正真正銘の”殺すための色”。
翠の色が注がれた瞬間、3色の均衡が崩れ、新たな力を求めて外に弾けようと激しく暴れ始める。
薄皮が破れた瞬間、翠の目には珠がひどく大きくなったように感じ、そして――。
破裂した色の珠は全てを破壊するかのように、病院一帯を漆黒に染め上げた。
色の珠は瞬く間に帆布中央病院の建物を飲み込み、全ての設備を衝撃で破壊し尽くした。木々はへし折れ、爆炎ならぬ爆色は一瞬で木々を黒く染め、粉々に砕け散った。
紫と黒が混じったようながれきは街にまで飛び散り、落ちた先の建物や椅子を侵食していく。大惨事を呼んだ一撃は街を飲み込まなかったのは不幸中の幸いだった。
まさに”色の反応爆弾”とでも言おうか。橙乱鬼は地獄への引き金を自分ではなく、色使いにわざわざ引かせたのだ。
真っ黒に染まり、人とがれきの区別すら付かなくなった帆布中央病院跡地。
がれきの一部がもこりと隆起し、何者かが姿を見せる。
「……ふふふ、あはは」
きらりだ。きらりは笑いながら、空を仰ぐ。その服は真っ黒に汚れ、顔も黒に染まっていた。
だが唯一違う点もあった。きらりの頭には色鬼の持つねじれ角が生えていた。
「死に損ないの身体、存分に使わせてもらうぜ」
その瞳は橙乱鬼そのもの。きらりの肉体を得た橙乱鬼は邪気を伴った笑いを浮かべる。
身体に付着した色は元に戻り、涙の痕がも引いていく。残るのは邪悪な笑みだけ。
生気を1つも感じない死の土地で、鬼はただ一人笑った。
帆布市は、3日もしないうちに橙乱鬼の支配下になった。
イロクイとシロクイ。エサとなる肉人形たち。
そして、傷つけられても、染められてもすぐに元に戻る不死身の色鬼が暮らす、地獄がそこにあった。
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