#11 邂逅、多色の鬼

「城奈ちゃん、なんとかできそう?」
「大丈夫、これを引っこ抜いて…えいっ!」
地脈に打ち込まれた杭はそこまで深いものではなく、子供の手でもあっさりと抜けた。
城奈がその杭を壊すとあたりの空気が一瞬ぶれ、和らいでいく。
「これでよし、きらりちゃん。紫亜さんに連絡お願いなのね」
「わかった! 翠ちゃんと真琴ちゃんの助けにも行かないと」
「それが、なかなかつながらなくて」
「あー、それは確かに。こんなパニックじゃ電話使う人多そうなのね」
「とにかく色々してみる!」
「それはありがたいところだけど…先にこっちをなんとかするのね」
そう言う城奈の前には人を取り込んだアスレチック型のイロクイがのそのそとやってくる。2人には決め手となる攻撃方法はない以上、逃げるほかない。
「そうだね、とにかく森の中に逃げよう!」
そのまま森の中へと隠れるように逃げる2人。それを追うイロクイだが、その動きは徐々に鈍り、すぐに止まってしまった。

「ここまでくれば安心なのね?」
「うん、このあたりはイロクイも多いし……でも今日はおかしい」
「なんか色々突っ込みどころがある気がするけど、何かあるのね?」
「イロクイがいないの。[[rb:色禍 > しきか]]でどっかいっちゃったのか、それとも……」
「私だよ」

2人が身構えると、そこには三隅 藍みすみ らん――もと橙藍鬼とうらんきの姿があった。

「ここにいたイロクイは私が全部狩り尽くした。色が足りなかったからな」
「そんな! イロクイいなくなっちゃうよ」
「居なくなってもいいじゃないか。おまえたち人間にとっても好都合だろ?」
それを言い、城奈は『確かに』と言いかけた口をつむぐ。街の平和を考えると居ないほうがいいには変わりない、だが――。
「だめだよ、イロクイだって今は戦って追い返してばかりだけど、きっと仲良くできるはず。それに色神様だって、それをきっと望んでるのかも」
きらりの言葉に、橙藍鬼は失笑を漏らす。
「そうか、そうかもな。お前ほど純粋だと本音を言うのも馬鹿らしい。馬鹿らしいついでに――利用価値もある」

そういうや、橙藍鬼は素早く接近し、きらりの首元を掴んだ。
「きゃっ」
「きらりちゃん!」
「おっと、下手に動くと私の色で染めちまうかもしれない。それにお前の色じゃ逆に私を昂ぶらせてしまうだろう?」
「うぅぅ……」
橙藍鬼に言われ、構えを解く城奈
「そうそう。あとお前。さっき私の言葉に同調しかけたな?」
「た、たしかにそうかも知れないのーね……でもわかるはずがないのね!」
「お前の望みはかなわんよ。この街の人間はシロクイにするし、地脈から色が尽きたらこの街ともおさらばだ。それまで足掻いてな!」
「城奈ちゃん! 心配しないで待っててね!」

そう言い残し、2人は森の奥へと消え去った。
「……もっと、守れるだけの力があればよかったのに」
城奈はくやし涙を拭いつつ、真琴にメッセージを送る。数分後、メッセージを頼りに2人がやってきた頃には、きらりの姿はなかった。


「城奈ちゃんは悪くないよ」
真琴は泣きじゃくる城奈をなだめるが、状況は変わることなく、ただ彼女の鳴き声だけが響くばかりだった。
「……」
「翠ちゃんもどこに行くつもり?」
「助けに行く」
「助けに行くって、まだ壊さなきゃならない柱をなんとかしなきゃ」
「きらりのほうが大事だから」
そう言いにらみ返した翠に、真琴が怯む。その目はどこか『決死』といえる決意を持っているようにも見えたからだ。
「っ、城奈ちゃん、紫亜さんに連絡はしたんだよね?」
「……したのね、でも誰も出なくて、もしかしたら…」
城奈の言う通り、メッセージを送ったあと返信どころか既読すらついていない。
「そうだ、地図」
城奈は目をこすり、あたりを探す。確かきらりが零無の巻物を持っていたはず、あれがないと目的地すらわからない。
「これでしょ」
「そうそうそれなのね」
翠は巻物を一目すると、柱はあと2ヶ所残っている――が、それ以外の場所を見ていた。濁った色と白色が交じる1点。
「……きらりは中央病院の近くにいる。それだけわかればいいや」
そういい、勢いよく真琴に巻物を投げつけ、森から走り去る。
「翠ちゃん!」
走り去っていく翠を見送るしかなく、城奈はへたり込む。
「やっぱり、一緒に戦うなんて無理だったのかな」
「そんな弱音を吐かないでよ城奈ちゃん」
私まで不安になってしまうから、と真琴はつぶやく。さっきまでの威勢はすっかり冷めてしまい、迷いだけがその場に漂う。
そんな2人の目を覚ます家のように、着信音が響いた。
『健児確保、そちらに向かう』

「はっ、はぁっ……」
一方、翠は走り去った配位者の、息を切らして歩いていた。元から運動が苦手な体、もしかしたら追いつかれていたかもしれないが、2人は追いかけなかった。
「中央病院まで歩いて30分ぐらい。戦うことを考えると体力を温存しておかないと」
そうつぶやきつつ歩いていると、後ろから呼びかける声が聞こえる。城奈達が追ってきたのか、と思ったが声が低い。
「おぉ黒の嬢ちゃん。無事で良かった」
「社務所のおじさん……勝手に動いちゃだめじゃなかったの?」
「そうそう、俺等もどうなるかと思ってたが、ようやく許しが出てな」
「もしバラバラに動くようなら援護をしてくれって言われた訳さ」
バラバラになることも想定内ということか。翠はうなだれる。
「力になるの?」
「なに、現役の色使いほどではないが色は使えるぞ」
「それに老いぼれでも鍛えとるでな、力にはなる」
「ならいいや。ついてきて、行きながら話すから」

真琴と城奈。翠と社務所の使い。2つに別れた色使いたちはそれぞれ行動を取る。
それが吉と出るか今日と出るかは、まだ誰もわからない。

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