#12 色を成さない色

時は少し戻り、きらり一行が柱の破壊に向かった頃、紫亜とサン、そして零無は暴走する朱音――もとい健児と向かい合っていた。
紫亜に組み付いた健児の力は鍛えている紫亜を持ってしても辛い。気を抜けば弾き飛ばされてしまうだろう。

「紫亜、できるだけこいつを早く無力化できんか?」
「私一人の力ではちょっと…きゃっ!」
突き飛ばされ、1,2歩と下がる紫亜に殴りかかる健児。「ええいっ!」
紫亜は体をそらし、健児の腕を掴んで床に投げ落とす。
「こやつ、色が弱い。長引かせると身体が追いつかなくなって死ぬぞ」
「まさかそれを知っててここに?」
「じゃろうな。わしが色を吸い取れば余計に命が縮まりかねない。橙の、いざとなったら大人らを呼んで数で叩くぞ」
「えっ、すぐにではなく?」
「すぐにはだめ! 下手に色神様の姿を見せたら、威厳に関わるわ」
「ッ!」
床に叩き落とした健児が飛び起き、紫亜の脛を蹴る。
「いったぁ!」
「うるさい、うるさいうるさいうるさい!! みんな俺のことなんてどうだっていいんだ!」

その言葉とともに手を広げ、透明な気弾を放つ健児、着弾すると壁がきしみ、畳に穴が開く。
「見ろ! 俺だって力はつかえる、俺は強いんだ!」
「バカモノ! それは力じゃない、お前の命そのものだ、早死するぞ!」
「黙れクソガキ! 何が色神だ。俺よりチビだしひょろひょろじゃねぇか!」
「ち、ちび……言ってくれる」
言い返され、青筋を立てる零無。確かに健児と比べると若干零無のほうが低い。
「それに死ぬんだったら最後に暴れたって文句ないだろう? 俺は誰からも見てもらえないしな」
「……」
言わんとしてることはわかる。だからこそ話すことを[[rb:躊躇 > ちゅうちょ]]してしまう。
「ほら見ろ、みんな黙り込んで――」
「健児くん」
健児の言葉をさえぎり、サンが言葉を放つ。
「なんだ?」
いらだつ健児の表情は、呪印のひび割れも伴っていっそう恐ろしく見えた。だが、それでも続ける。
「君がどんな境遇にあったかはわからない。さっき会ったばかりだし、現にこんな状態で話せるわけがない」
その言葉に、健児はあっけにとられた表情を見せる。
「だから、教えてほしいんだ。健児くんのことを」

健児はその言葉に少し安堵した表情を見せたが、すぐに額の呪印に手を当て、苦しみ始める。
「なら、ならな……俺を、止めてくれ。こいつのせいで、ムカついてムカついて。あああああぁぁぁ!!」
そういいがむしゃらに気弾を打ち始める健児。このままでは話を聞く前に健児の命が持たない。
「紫亜さん、健児くんを止められますか?」
サンの嘆願たんがんに、紫亜は、やれやれと言った表情を見せる
「そう言われちゃ、頑張るしかないわね!」
そういい、紫亜は両手に青の色を浮かび上がらせる。
「ちょっと痛いわよ、全力で来なさい!」


一ノ瀬 健児には多くの兄弟がいた。
兄弟というのは出来が良ければ褒められ、悪ければ疎まれる――健児はいい方ではなかったが、誰よりも親の愛情を欲していた。
だが、親からも、教師からも悪ガキのレッテルを貼られ、愛とは遠い場所にあった彼に待っていたものは、あの失踪事件だった。
街のもたらす呪いを知らず、ただただ恐るべき存在である橙藍鬼に使役される日々。

『見ろ、誰もお前のことを見やしない。お前は俺に仕え続けてこそ愛されるんだよ』

それが間違いと知っていても、身も心もぼろぼろになっても、街の人は誰も見向きすらしなかった。

「色を使ってもまだこんなに力が出るなんて……」
「紫亜、できるだけ組み付け。奴に命を吐かせるな!」
「もちろん!」
「ウウウウアァァァァ!!!」
「健児くん、気をしっかり持って!」

あの瞬間。サンという奴が話しかけた瞬間『こいつなら話せる』と思った。話せなくても最後に吐くだけ吐いて死んでしまえばざまあみろぐらいの気持ちはあった。
だが、埋め込まれた額の変なのが邪魔をする。苛立たせ、戦わせ、話すのを邪魔する。
話したい、だが、話すための力がない。

「チカラ……もっと、力がほしい……!」
「サン君! 合図したら色を健児くんの呪印に叩き込んで!」
「わかりました!」

俺は力を持っているのに、これは力じゃない。
これは命、命が力――。

健児の心に荒ぶる闘争心にゆらぎが出始めた瞬間、健児の身体が宙を浮いた。
「たぁぁぁっ!!」
紫亜の背負い投げによって受け身無しで叩きつけられた健二の身体に激痛が走る。そして、身体を動かそうにもだるさが走り、指一本動かせなくなる。
「今よ!」
「効きますように……いきます!」
言葉とともに、サンは自らの橙色――命を呼び覚ます色を呪印に打ち込んだ。

サンの色は反発するように体に入るのを拒むが、徐々に入り込んでいく。それとともに呪印が弱まり、そして――身体から呪いのシミが消えていく。

「う、うぐぐ……お、あれ、ムカつきがなくなってる」
サンが手をのけた先にあった健児の顔からは、呪印が消えていた。
「よかった、うまくいったみたい」
サンはホッとした表情を見せ、話を切り出す。
「それじゃぁ、健児くんの話を――」
「それなんだけどさ、ちょっといいか?」
健児はそういい、数歩離れて手を掲げる。
「どうした? もう呪印がないから命を弾にすることもできんぞ?」
「うるせえ、試し――!」
健児が力を入れると心臓が高鳴り、手のひらから緑の水流があふれ出た。


「こ、これって…色!?」
「そんなバカな、たしかにやつの色は色使いのそれではなかったぞ」
紫亜と零無があれこれ話しているのを尻目に、サンが驚いた表情を見せる。
「そう、これだ。なんだろうな、お前に力をもらった瞬間こいつが使えるって気持ちになったんだ」
「それが『色』だよ。生命力を武器にする力――本当はあまり使わないほうがいいんだけどね」
「そうか? 使えたほうが便利な気がするけどな」
その言葉に零無が待ったをかける。
「使えたとしても、ぬしは色使いとして目覚めたばかり。それに身体も呪印でボロボロだろう。おとなしく寝ておけ」
「ばっか、寝てられるか――いててて」
「仕方ないわね…色神様」
「わかった」
零無が姿を消すと、紫亜は胸元に隠していた竹笛を鳴らす。すると何事かとばかりに大人たちがこぞって神殿にやってきた。
「巫女様、これはまた派手にやられましたな」
一番最初に声をかけたひげの男性が神殿の様子を見て驚く。何かの戦いが起きたあとという荒れようでは無理もない。
「ごめんなさい刑部ぎょうぶさん。ついでだけど、この子の看病もお願いできるかしら?」
「ふむ、見たことない子ですな」
「新しい色使いだから丁重にね。それと……」
そういい、紫亜がひげの男こと刑部に耳打ちする。
「わかりました、すぐに現場に行かせましょう」
そう刑部が言い、視線を向ける。すると3人4人とその場から去っていく。

「あとは向こうの状況――あまり良くないわね」
スマホを見ると、きらりがさらわれたという一文が飛び込んでくる。なぜきらりをさらったのかはわからないが、1人減るだけでも大変だし、何より翠のことを思うと気持ちも良くはない。
「私達も早く向かわないと。サン君準備いい?」
そういいつつメッセージを入力する紫亜。周囲では大人たちが神殿の片付けをしたりと大忙しだ。
「大丈夫です、それじゃぁ健児くん、またね」
「あぁ、がんばれよ」
身体が動かない健児をそのまま神社の大人たちに任せ、外に出るサン、早く合流しないと状況が悪くなる一方だ。

『健児確保、そちらに向かう』
そのメッセージを入れ、紫亜とサンは真琴達のもとへ向かった。

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