色使いとカンヅメジアif~翠ちゃんの保存用パン~

「うぅぅ、これはまずい……」
六宮翠は今、危機にひんしていた。『イロクイらしきものが出た』というからいの一番に向かったものの、そこに居たのはイロクイとは違った、電子レンジに手足を生やしたような奇っ怪な怪人だった。

「少女が1人で突っ込んでくるなんてなんていい日なの! 早速加工して保存食にしなきゃ」
スピードもパワーも劣る、黒の色も試してみたが通用しない。まさに万事休すといったところだ。

「いや、まだなんとかなるはず。なんとか……」
必死に逃げ回る翠だが、電子レンジ怪人は遊ぶかのようにゆっくりと追い詰めていく。
「ふふふ、このカンヅメジア、缶詰を作って早うん十年。ようやく報われたこの体で少女をいたぶるのは楽しいったらないねぇ!」
「うわ趣味悪い」
「そうこう行ってられるのも今のうち。もう逃げ場はないよぉ?」
逃げに逃げた翠だったが、誘導されていたのか広い場所ではなく路地裏に誘導されていた。

「まぁ、まずはその厄介な『色』というものを抜いて下ごしらえしなきゃ」
「ぐぬぬ……」


色使いの腕から射出された透明のケーブルが翠の体に刺さり、色を抜かれていく。黒い色が透明のチューブを通し、カンヅメジアの貯蔵タンクに流れ込んでいく。
「何もかも知ってるぞ、白化させた色使いはかなりの美味しさと生命力にあふれると」
「ぐ、うあぁぁ……」
色を抜かれ、手足から真っ白に変わっていき、あっという間に顔まで真っ白になる翠。まさに抵抗する間もなく、その瞳からも光が消えていき、瞳すらも真っ白になった。
「さて、このままじゃ少し大きいから……よいしょ!」
カンヅメジアは手袋をはめ、用意したテーブルに白化した翠を乗せるやいなや、その体をぐにゃりと2つに折りたたんだ。
「まず2つ、そして4つ」
「(や、やめて、体が縮んでく……!)」
そして4つに折りたたむと、圧力をかけて揉み込んでいく。すると少女の体が潰され、球状の生地上に変わってった。
「これに特製イースト菌をまぜて、たっぷりバターを混ぜて、おいて……じゃん! 缶詰」
取り出した缶詰に翠だった丸くて白い物体を入れ、体の電子レンジのような機構へと収めた。
「そしてカンヅメジア特性、カンヅメファクトリーの出番。この中は時空が歪んでいて発酵がすぐ進むの」
その言葉通り、特性イースト菌を混ぜられた翠の体は、みるみるうちに発酵し、大きく膨れ始めた。
「(うぅぅ、体は膨れ上がるし、意識はぼんやりして……パン、私は、パン……?)」
その問答に蓋をされるように、温度が増していく。十分に発酵したとみなされ、焼き上げられつつあるのだ。
「(私はパン、美味しいパン。こんがり焼き上げられて缶詰にされる保存用のパン……)」
特性イースト菌とバターの影響もあり、もはや人間ではなく、保存用のパンとして意識を塗りつぶされた翠。その結末に終止符が打たれるように、缶に蓋がなされた。

「これで完成!あとはラベルを付けて……よし」
印字されたラベルには『翠ちゃんの保存用パン』というタイトルと翠のデフォルメ化した顔と原材料などが記載されており、消費期限も6年後と長く設定されていた。
そのラベルを貼り付ければ、もはやこれは元人間と思うものはいないだろう、怪しいパン缶詰の完成である。

「さぁて、次は誰を保存食にしようかなぁ?」
ニンマリとした顔で、カンヅメジアは次の獲物を探しに路地裏から消えた。

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