メディナさんが色使いを食品化するそうです

「ここは……」
紫亜が意識を取り戻したのは、冷たい床が一面に広がる場所。周りではざわざわと声が聞こえるが、どこから聞こえているかは定かではない。

「ようやく目を覚ましたようですの」
否、声の主はすぐに正体を露わにした。褐色の肌を持った、緑髪の少女は紫亜の目の前に姿を現すと、靴を鳴らす。

天井に明かりが灯り、そこから見えたのは……見覚えのある大人たちだった。
「ようこそメディナのお楽しみショーへ。紫亜さんは今日のメインディッシュ、もといメインですの」
「メイン……?それより藍はどうしたの?それにこれ、みんな帆布の偉い人じゃない!」

紫亜が驚くのも無理はない。彼女にとって面識のあるひとが何人も上段から見下ろしている。その顔に恐怖や驚きはなく、どこか好奇心と、そしてニヤついた下衆な笑みがチラホラと浮かんでいた。

「まぁまぁ落ち着いて。藍さんなら今から開けますから」

そういい、メディナが手と叩くと、床から布に覆われた大きな機械がせり上がってくる。メディナは背中を見せつつ、悠然と物体の前へと進む。

一方で、紫亜は落ち着こうと深呼吸するが、うまく行えない。だが、記憶はおぼろげに思い出してきた。帰宅途中に道を尋ねられた2人は、そのまま意識を失い、気づいたときにはここに居た――それだけだ。

それだけしか思い出せなかった。なにせ、後のことを思い出す前にメディナが大きな布を取り払ったからだ。
「はーい、感動のご対面ですの!」

取り払われた布の下には大きな機械があり、中には3つのカプセルが入っていた。その1つに、一糸まとわぬ藍が助けを求めんばかりにカプセルを叩いていた。

「藍を放して!」
「えー、だって今回の余興を説明する上で彼女はかかせませんの」
「お願い、なんでも言うことを聞くから……」
「そうかー、なんでも言うことを聞いちゃいますのー……ならポチッ」

メディナは指にはめた起動スイッチを押す。すると、カプセルが回転し始め、中にはいっていた藍が青ざめ、震え始めた。

「言う事聞いてもらったところで説明ですの。これは遠心分離機みたいな感じで、人から色を抜き出しちゃう機械ですの。原理はメディナにもよくわからないですけど――あっ、ほらほら見て紫亜ちゃん。藍ちゃん、もう人間じゃない顔色してる」

中に入っている藍の体表から、煙のように橙色が漏れ出したかと思うと、藍は必死に叩き壊そうとカプセルをノックする。やがてノックする体力も失ったのか、悶え苦しみ始め――そしてバシャッ、という音とともに液状の色が放出し、藍の全身は真っ白に白化した。

「あ、あぁぁ……なんてこと、っ、貴方はなんてことを!町の人々にこんな恐ろしいものを見せて、どうするつもりなの!?」

紫亜は唇を噛み締め、色をぶつけんばかりにメディナを睨みつける。
「メディナは何もしてませんの。ただちょっと有り余るお金とアイデアを出しただけですの。そしたら他の人がやってくれただけ。メディナは悪くない――」

その言葉を最後まで放つ前に、紫亜は紫色をメディナに放った。
色は勢い良くメディナに飛びかかり、汚そうとした。が、メディナは間一髪避け、素早く紫亜の顎を蹴り上げた。

「がっ、あっ……!」
「洋服が汚れてしまいますの。なら今回の趣旨をちゃーんと知ってもらいますの」

そういい、メディナはさらにスイッチを押す。2つの長方形型の冷蔵装置が現れ、蓋が開くと、中には扇情的なポーズを取った、藍と紫亜の型があった。

「なんで、私達の型が……」
「そんなもの、街のほうが用意したに決まってますの。メディナは『人を食品にして、健康にならない?』ていったら、それならとっておきの子がいるーって話でトントン拍子ですの。まぁこんな悪趣味なことまで考えてなかったですの」
「……」

紫亜は絶句した。まさか町の人が、色について知っていただけでなく、それを私利私欲のために使おうとしていたなんて。確証も何もない。だが、なぜこんなことになったのか。紫亜は考える余裕すら失っていた。

「というわけで藍ちゃんはしまちゃいましょうねー。カプセルと同化したら食べられなくなっちゃいますの」
「まって、やめ――」

再び遠心分離機のスイッチが入る。白化した藍の身体は見る間にどろどろに崩れ去っていき、橙色と追加で投入された液体が混ぜ合わされていく。しばらく撹拌され、スイッチを切って残ったのは、ドロドロのスムージー状になった薄橙色の液体だけだ。

そんな液体の入ったカプセルが勝手に浮かび上がり、冷蔵装置に流し込まれていく。どよめきの声は、恐ろしさというよりも好奇心が強く――より型に目を引いていた

「……」
「さーて、仕込みの方は勝手にやってくれることだし、紫亜ちゃんの番ですの」

「えっ」
ふわり、と体が浮くと紫亜の制服が見る間に解け始めた。下着姿から一糸まとわぬ姿になるまでさほど時間はかからず、何をするのか紫亜にも察しがついていた。
「やめて! 食べ物なんかにしないで!!」
「いやですの。ではではメディナ式の遠心分離といきますの」
そう言うやメディナは結界を張り、その中心に紫亜を浮かばせる。そして、メディナが指を振るとどうじに、横軸に沿って体が勢い良く回転し始めた。

「(いやああああああっ!!!?)」
「これはこれで面白いですけど、本番はこれから」

そのまま魔法をかけると、紫亜の体から勢い良く色が吹き出し始め、結界のあらゆる場所にまんべんなくはじけ飛んでいく。
しばらくすると紫亜の身体から色がなくなり、回転が止まると紫亜の体は色を失い、白化してしまった。

「後は仕上げのふふふーん、と」

メディナは結界の外に色を吐き捨てると、中に粉とどろどろの液体を流し込む。グラグラとする意識の中、まんべんなくかぶった紫亜はこれが何なのかすぐにわかった。

「(これって、ケーキ……??)」

その答えを見いだせないまま、紫亜の意識は閉ざされることとなる。ガタン、と結界内がゆれだし、全身も揺れだし始めたからだ。まるで同化を進めるかのように記事と白化したしあの体は混ぜ合わされ、ペタン、ペタンと音がなるまで叩きつけられていく。
身体であったものはどうかによって生地に変えられ、もはや元に戻らなくなっても――メディナにとっては些細な事だ。

「さて、これを調理器の中に入れればおしまいですの」

しばらくして、冷蔵装置と調理器の扉は開かれた。
そこに入っていたのは藍そっくりのアイスと、紫亜そっくりの形をしたケーキ。
そのポーズは、藍はスカートを見せつけるようにたくし上げ、紫亜は巫女装束をはだけたような、いろめかしい物だった。

ただ、2つのケーキで違う点があった。藍の方はまるで生きているかのような風貌だが、紫亜の方は如何にもケーキ生地がそのままポーズを取ったかのような――言うなれば人の形をしたシフォンケーキのようになっていた。

「なるほどこうなりますの」
「だから色を捨ててはいけないのですよ」
「うーん、まぁ良いですの。それでこれはどうしますの?」
「もちろん頂きますよ。ブルーベリーのソースをかけてね」

シェフによって切り分けられた紫亜だったものにブルーベリーソースがかけられ、藍の身体もくり抜かれ、穴ぼこだらけになっていく。

2人――もとい2つの食品はそう遠くないうちに全部食べつくされ、残れば廃棄されるだろう。それもまた、メディナにとって愉悦だった。

「うーん、おいしいですの!」

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