不可思議な怪物と零無

『もう』。それは巷で噂されている程度にしか認知されていない、謎の妖怪である。その正体が何者か、あるいはどのような物かすら不明。都市伝説とすら言われるほど、だが確かに『もう』は実在する。
 なぜなら、『もう』の噂をした先には、アヘ顔ダブルピースをした石像が転がっているのだから……。

「うわぁ、怖い」
「流石に私らが狙われることはないだろうけど、用心しないと」
「まったくなのね。イロクイ以外にも色んなのがこの街にやってきてるから大変なのね」

 翠ときらり、そして城奈は布津野神社の境内でスマホを囲むようにしてみていた。刺激の強い画像――もとい犠牲者らしきアヘ顔ダブルピース像もちらほらあるが、イロクイとの戦いに慣れているせいか物ともしない。

「何をしょうもないことを。それに主ら童じゃろ、そんなものをまじまじと見るな」
 そんな様子を見かねて、零無が口を挟む。背丈は3人と変わらないが、生きてきた年は遥かに長い。なにより頭に生えた角は、彼女が人間ではなく、色鬼――異形のものであると証明している。

「そう言ってて、零無が『もう』とあったらどうするの?」
「あったらどうするかって? それは相手によるな。イロクイであれば吸い尽くすし、人間であろうと害を加えるなら食うのみよ」
「妖怪とかだったら?」
「妖怪も……まぁ食えるじゃろう。色は生命力、味は少々まずいじゃろうからな」

 そうこうと話しているうちに、巫女装束姿の紫亜がやってきた。
「3人共、そろそろ帰りましょう」
「そういうわけじゃ。日も暮れてるぞ。帰った帰った」
 ぶーぶーと文句を言われつつも、3人は神社から帰っていく。零無と紫亜は、そんな3人の背を見送る。
「ところで、どんな話をしてたのですか?」
「『もう』とかいうアヘ顔ピースの石像にする何かの話じゃ。まぁくだらんつくり話じゃろう」

 そんな他愛のない話をしていた紫亜と零無。初戦はネットの噂話、起こることはないだろうと高をくくっていた。そんな夕方だった。

 そして時は過ぎ、真夜中。獣たちも寝静まり、時々猫の鳴き声が聞こえるそんな時間だった。
 零無はいつも大広間の祭壇の前で寝ている、霊体故に睡眠という概念は必要ないが、人間と共存するという意味では零無もまた同じように眠りについているのだ。

 そんな零無が深い眠りにつこうとしたその時。がさ、という音が外から響いた。

「……なんじゃ?」
 眠りから冷めた零無は、障子を開け、外を覗き見る。外からは何も気配を感じない。
「獣か? まぁいい、寝直すとしよう」
 そうつぶやき、後ろを振り返った。その時だった。

「誰じゃ、むぐぅぅっ!」
 不可視の何かが目の前をよぎり、回り込むと零無の口をふさいだ。手を振り回し、抵抗しようにも手も金縛りにあっているのか、全く動かない。

 零無には大きな弱点がある。状態変化や精神攻撃に弱いことだ。
「む、うぅぅっ、うぅぅぅぅ!!!」
 故に、金縛りにあったとしても身動き一つ取ることができない。零無の全身がこわばっていき、大声が出せないことを確認するかのように、口のふさがりが解けていく。だが、それは開放を意味するのではなく、次のステップへ進むための余興に過ぎなかった。

「う、うぅぅ……な、なんじゃ……体が勝手に」
 体が勝手に動き出し、自分で帯を外し、着物をはだけていく。
「こんな、こんなやつに服を脱がされるなんて」
 服をなすがままに脱がされていく零無。自分の意志ではないのに、脱がされていく。これほどの屈辱は早々なかった。
「これでもういいじゃろう、解放してくれ。今なら危害は加えんぞ」
 しかし、本当の屈辱はこれからだった。不可視の存在の目の前に生まれたままの姿でたった零無の両手は、上に挙げられ、ピースサインを取らされた。

「なぁぁぁっ! 手が、身体が勝手に!?」
 細い体は中腰のポーズを取り、股を突きつけるようなポーズを取ってしまう。抵抗したくても指一本動かせない、無様なポーズを取るしかなかった。

「ひっ、やめ、やめてくれ、んあっ、あっあっあっv」

 ポーズを取るのと並行して、身体も徐々に固まっていく。指先から足の先、細い太もも、二の腕と灰色の石に変わっていく。

「あああああっ、嫌ああ、体が、石に……!」
 変わるごとに湧き上がってくる強烈な快感に流されていく零無。痛みこそ受けたことはあれ、このような快感を受けた経験はない。そのため対処のしようがなく、ただただもがこうにも、やはり指一本動かない。
「いくっ、いってしまう。いやじゃやなのに、ふああああっv」
 もはや時のままに流されるしかない。胸元まで石になった身体は、舌を出し、快楽に溺れた姿を待ちわびるかのようにゆっくりと固まり始めていく。

「あああああっ、いくうううううvvv」

 白目を剥き、絶頂に浸る零無。その瞬間、零無の足先から角の先まで、灰色の石と化した。
 こうしてアヘ顔ダブルピースをした色鬼の石像が1体、神社の縁側に出来上がった。

そして翌朝。
「色神様ー朝ですよ――色神様!? あわわわ」


 その狂乱とした姿をまっさきに見つけたのは、言うまでもなく紫亜と藍だった。
 彼女がもとに戻るには、噂を知っていたために卒倒した藍を起こすという一幕もあったため、治るまで多少時間がかかったという。

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