満足のいく靴屋のうわさ

 誰もが満足する靴屋がある。そんな噂を聞き、城奈はいつものメンバーを引き連れて街に繰り出していた。
「本当にこの先にあるの?」
「本当なのね、たぶん」
「多分って、本当なのかよ?」
「まぁ、翠ちゃんと城奈2人で行かせるのも危ないし、ね?」
「サンはいっつもそうだな!」
「やれやれ、まぁハズレだったらその時ってことで」
 無理やり連れてこられた健児はやや怒り気味に。それを抑えつつ向かう少年――サンは、どこかワクワクしている様子。一方で翠はどこか『どうでもよさげ』な雰囲気を出していた。
「(きらりが用事で居ないしなぁ)」
「翠ちゃん、ここなのね!」
 城奈が指さしたのは、路地裏の扉。看板には『Lover’s』と書かれている。
「なんかエッチな店っぽいけど」
「ふふーん、城奈もそう思ったけど、こういうお店こそ隠れた名店だったりするのね」
「なるほど……とにかく入ろうか」
 翠と城奈は男子2人を差し置いて店の中へ。
「おいおい待てよ! ったく…サンもいくぞ」
 サンも健児に腕を引っ張られつつ、店の中に入っていく。

 店の中に入ってみると、目に入るのはピンクの壁紙。そして様々な靴が陳列されていた。女性ものもあれば男性物もある。ラインナップはバラバラなようだ。
「怪しい店…ってわけじゃないっぽい」
「いや、ちょっと怪しくね? 本当に人いるのか?」
「怪しくないのね! すいませーん、靴を見たいのですけどー!」
 まぁまぁとなだめるサンに対し、健児はどこか怪しげ。城奈は頬を膨らませ、お店の人を呼ぶ。
 すると、カツン、カツンと音が響いてくる。その音に、4人は耳をそば立てる。
「ほら、居たのね」
「なーんだ。でもなんだ? この音」
「ヒールの音じゃない?」
「ですね」
 4人がそれぞれ話していると、人影が現れる。背の高い、黒いボディコン姿の女性だ。
「はいはい、お待たせしました。お店のうわさを聞いてやってきた子かしら?」
「はい、おすすめの靴を4足欲しいですの」
『えぇ、とっておきのがあるわ』という言葉とともに引き出しから4つの箱を取り出す。
 中に入っていたのは、白いハイヒールだった。

「これが貴方の。そしてこっちが貴方の…と。どうかしら?」
 翠が箱を開けると、よくわからない顔をしつつ、ハイヒールを取り出す。
「わぁ、これはいいものなのね!」
「すげぇ、さっそく履いてみようぜ」
「ですです。試着してもいいですか?」
「(そうなのかな?)」
 どう見てもおかしい、そんな気もするのだが言いだしにくい。少なくとも3人は肯定的に受け止めているのだから。なおさらいいにくい。

 そんな翠の不安を押しのけるように、健児とサンがハイヒールに足を通す。するとハイヒールがググ…と音を立ててぴったりのサイズにかわり、サンの履いているハイヒールはオレンジに。健児の履いているハイヒールは濃いダークグリーンに変化する
「ふふ、履き心地はどう?」
 女性はくすくす笑いながら、カツン、と軽くハイヒールを鳴らす。その音に4人の身体がピクリと反応し、目の色が変わる。
「なんだか動きにくい、ような?」
「僕はなんというか、恥ずかしいような…」
「ふふ、動きにくいのはそういう作りだから。恥ずかしいのはじきに慣れるわ。ほら、似合ってるわよ」
 そういい、2人をエスコートするように立たせる女性。ぎこちなく2人が姿写しの前に立つと、じわ、とハイヒールが足を覆い、太ももの上を覆っていく。長ズボンのサンはわかりにくいが、ハーフパンツの健児はダークグリーンのラバーで足が完全に覆われていた。
「それなら、まぁ…」
「うぅぅ、足が…これも靴の効果なのか?」
 健児の足が内股になり、続いてサンの足も内股に矯正されていく。

「2人だけずるいのね! 翠ちゃん私たちも履くのね」
「う、うん……」
 本当にこれでいいのだろうか。翠は一瞬悩んだが、周りの雰囲気と耳から脳に通るカツン、カツンという音に遮られ、足を通していく。
 2人とも足にぴったりはまり、城奈のハイヒールは真っ赤に染まり、翠のハイヒールは真っ黒に染まり…崩れてしまった。
「ん?」
「あら、不良品かしら?」
 不思議そうな顔をする翠と女性。その横で城奈も不思議そうに見ているが、特に変わった様子はない。
 もう一個箱を取り出し、履かせてみてもすぐに崩れてしまい、翠の疑問はますます深まっていく。
「おかしいわねぇ、ちょっと待ってて。いま別の靴を取ってくるから」
 そういい女性が店の奥へと入っていく。翠は1人待たされる形となったが、同時に頭がさえてきた。
 そして改めて店を見回してみると、周りにある商品は全部ハイヒールだった。

「……ん、んん? 城奈、何履いてるの?」
 翠は目を疑った。城奈が吐いているのは、彼女の足を、腕を徐々に侵食していくラバー状の物体だった。
「何を言ってるのね? 素敵な靴なのね」
「エロケンもサンも、やっぱりおかしい。というか、そっちの方がおかしいのだけど」
「おかしくないだろ!」
「そうですよ。翠さんももうすぐちゃんと合う靴が来ますよ」
 そういう3人の目は、明らかに何者かに操られているかのように、狂気を帯びていた。
「……ちょっとトイレ探してくる」
「待つのねすいちゃ――ふあぁっ!?」
 城奈が止めようとしたが、とたんに嬌声を上げる。体を覆っていたラバー上に物体が、ぴっちりと締め上げたからだ。
「全くだらしないなぁ四谷は」
「そうですよ。『店長さん』が呼んでいます」
 その眼はぎらぎらと狂気を帯び、赤く染まり、一枚ずつ服を脱ぎ始めた。

 3人が異常事態になっている中、翠は1人店の奥へと入っていた。
「スタッフルーム、ここに秘密があるはず……」
 翠は意を決して開けてみると、そこには皮状の物体が多数吊り上げられ、作業に没頭している女性の姿があった。
「ふふふ、これで完成。きっとあの黒の色を持った子にも、合うはずだわぁ」
 もっとも、女性がおこなっているのは靴づくりではない。ラバー状の皮を咀嚼しては吐き出し、真っ白をになった物体を手でこねて成型していた。
「イロクイ……なるほど、なんとなく察した」
「あら、もうバレたのね。意外とここも悪くなかったのに」
 女性は声色を変えず、淡々と語る
「でも、このハイヒールはいいものよ。足を美しくするだけじゃなく、身も心も美しくしてくれる。たとえあなたみたいな子でも……ね」
 女性――いや、イロクイの声を聴くと、頭が痛み、目の前がぼやけだす。
「(催眠術? とにかく聞き続けると、まずい……)」
「さぁ、出来上がったわ、私の魔力を込めたとっておきの一足。履いてみましょう? 耳をふさいでいるのね、なら私が履かせてあげる」
 イロクイが近寄ってくる様子に、じりじりと後ろに下がっていく翠。しかし、何者かにふさがれる。
「残念、行き止まり。私のハイヒールを付けた子はね、私の意のままになるの」
 翠の進路を防いでいたのは、健児とサン、そして城奈の姿。3人とも服を脱ぎ捨てていて、その下には裸体ではなく、ハイヒールと同じ色のラバーで覆われていた。

「(これはもうだめかも……)」
 前も後ろもふさがれ、逃げ場もない。起死回生に一撃入れるかどうかも微妙。翠のテンションは見る間に落ちていく。そして、翠の足に特製のハイヒールが納められた。
「ふふ、ぴったり。あなたぐらいの体格なら足のサイズを割り出すのも容易だわ」
 ハイヒールは見る間に真っ黒に染まり、そのまま崩れずに勢いよく足を、胴を侵食していく。
「ふふ、生命力が強いのね。だったら……」
 そういい、イロクイは翠の唇に口づけをし、生命力――色を吸い取っていく。
「んぐっ、んんんーっ!?」
「ん、んん……ちょっと痛いけど、ちょうどいい味に仕上がってくれてるわぁ。それじゃぁ……いただきまぁす」
 イロクイが一気にすすると、翠の意識は真っ白に染まり、身体から力が抜けていく。それと同時に黒く光沢に覆われていた外見は、ペラペラの皮に変わってしまった。

「ふふ、ついつい食べ過ぎてしまったわぁ、染め上げて奴隷にするのを忘れるぐらいおいしかったわ」
 そういい、ペラペラになった翠の皮を拾い上げ、口を大きく開く。そしてイロクイは大きく伸びた翠の口の中に足を、全身を入れていく。
 本来であればサイズ差の違う2人だが、大きく伸びた翠の体はイロクイを飲み込み、翠の体格にフィットするようにぴっちりと収まっていく。
「あぁ、これよこれ。吸い取った黒の色としっくりくるわぁ。ふふ、つい致したくなっちゃう」
 そういい、イロクイは翠の服を脱ぎ始めると黒いラバー時の下にある淫靡なスリットをこすり、ほじくり始める。その姿に感化されてか、サンと城奈、健児も互いに身体を重ねてまぐ合い始める。
「いずれこの町全部を私の靴で染め上げて、そして色鬼すらも…うふふ、うふふふ、ふあぁぁぁっ!!」

 昂りを解き放つように絶頂する、翠の皮をかぶったイロクイ。
 彼女がこの先どう動くかは、まだ誰にもわからない。だが、今回得られた色使いと、その皮は、彼女の大切な戦力として保管されることだろう。

 ここは満足のいく靴屋『Lover’s』
 入ったものは皆催眠術によってハイヒールを着用し、身も心も染め上げられたのち、彼女の奴隷として帰っていく。
 そうして徐々に町は彼女の色に染まっていくのだ。

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