メディナはイベントを楽しむですの

『つらなりやまのせきらい』以来、全く作品を上げてませんでした。
Pixivのほうが使いやすかったり評価が付けられたりと、投稿しがいがあるからかもしれません。
そんなのはさておいて、この話は『彩の冷たい夢』の彩さんの記事(※)を元に作ったものです。
タイムアタックで書いたので、表記の時間と実時間はリンクしています。
※:http://katakutetumetaiyume.blog135.fc2.com/blog-entry-627.html
今回登場するメディナさんを含め、各人の紹介はPixivに載せています。が、こっちにも載せたほうがいいかなぁ?
コメントなどで意見がいただければ幸いです。
そんなこんなで本編どうぞ。


――午後9時。
大通りに面したビルの屋上から彼女は見下ろすように人々を見ていた。
「相変わらずごみごみして目障りったらないよねー♪」
薄緑の髪に褐色の肌。緑色のメイド服を纏う彼女は一見して従者のようにも見える。
しかし、人に従うには彼女はあまりに恐ろしすぎる。

彼女の名はラディナ・メディナ。
年はおろか素性さえも語らぬ少女、しかし1つだけ言えることがある。
メディナは不敵な笑みを浮かべて近づき、毛嫌いしている人間を無様な姿に変える魔法を得意としている魔女である。
その証拠に、彼女の足元には警備員らしき首――をかたどった石塊が転がっている。
最後まで抵抗し、警備員としての責務を全うしようとした、端正な顔立ちをした青年の首。
胴体はメディナの憂さ晴らしとして既に粉々に破壊された。
それすらもメディナは踏み飽きたのか、何も言わず足で蹴り動かす。
重力に従うかのように、石塊が高層ビルの屋上から落ちていく。
「そういえば今日は、随分面白そうなことをやってますねぇ、メディナも一枚かませて頂きますよ」
メディナはつぶやき、3枚のメッセージカードに魔法を込める。
なんてことのない、ただの待ち合わせ用のカードにメッセージが書き込まれる。
「午前0時までに3人ほど頂きますの♪ 今日の目標ってやつです」
直下から聞こえる衝撃音、人々の悲鳴と喧騒の中でメディナはカードを放ち、自らも消える。
まるですべてを楽しみにするかのような無邪気な笑顔を浮かべた彼女が書き込んだ内容は――。
『ゴミにも劣るクズ人間様へ
今日はイベントの日だって聞きましたの。
そんな日にあなたはメディナに選ばれました。
よって、今日の記念日にふさわしい姿に生まれ変わることを期待して待ってればいいのですよ。

ただし、午前0時までに来られなかったら残念。
あなたはメディナにすら選ばれなかった人間としてのうのうと一生を過ごすといいですよ。
会える時を楽しみにしてますの。あとこのカード、捨てても無駄ですよ?

親愛なるラディナ・メディナより』
被害者1を見る(チョコ包み? 失禁多少あり)
被害者2を見る(チョコ像化)
被害者3を見る(口移しからの……?)
結果


被害者1『南方・鈴音(みなかた・すずね)』

「ちょっと遅くなっちゃった、早く帰らないと」
街灯が明滅する人通りのない道を、厚手のブレザーにスカート姿の少女が駆けていく。
塾帰りだった彼女――南方鈴音はとりわけ目立つような少女ではない。
身長もクラスの成績も平凡、運動も大したことのない、ゲームで言えば『モブA』とか言われそうなそんな少女だ。
「あれ、何この紙」
ふと目に止まった電柱に貼り付けられたメッセージカード。
普段なら興味をもつはずもないそれに、鈴音は立ち止まり、まじまじと見る。
「今日はイベント、メディナに選ばれた……? いたずらか何かかな」
「ところがどっこい、イタズラじゃないんですよ」
「ふえっ!?」
突如後ろから現れた少女に後退りする鈴音。
「そう驚かなくてもいいですよ、あなたが1人目ってことですから」
「1人目……もしかして貴女がメディナ?」
「はいそうです、メディナ・ラディナですよ」
「そう、私は――」
紹介しようとした瞬間、メディナの背後が揺らめく。
かと思うと、金属の横断幕と言わんばかりの物体がうっすら見えてくる。
「や、紹介しなくてもいいですよ。あとまだ2人いるのに時間かけられないですから」
そうなんだ、と返しつつも鈴音の心境は不安でいっぱいだった。何しろ目の前の少女は自分よりお姉さん。
素性も知らなければ語り口も妙に怪しい。そして場違いなメイド服。そして妙な物体。
いかにも『変質者』という風貌のメディナに不審を抱かないわけがなく、鈴音はこっそりとカバンに忍ばせていた防犯ブザーの摘みを引こうと手を動かす。
「それじゃぁさっさと1人目1人目と」
メディナはその予兆を感じていたわけでもなく、ただ言葉とともにアルミ箔を大きくしたような物体も鈴音の背後に回らせ、そのまま一巻きする。
「んん”っ!?」
巻きつかれた勢いで手元が狂い、バッグとともに防犯ブザーを落とす鈴音。
「おやおや、これで異端審問のクソ共でも呼ぼうって魂胆でしたか」
「んっんんっ……」
違うとばかりに首を振る鈴音だったが、却ってそれはメディナの心象を悪くし、2重3重ときつく巻かれていく。
最初は顔がうっすら張り付いていたものの、多重層となった金属箔はそれすら見えなくなるほどにまで鈴音を包み込んでしまった。
「ここまで言われるとメディナも路線変更したくなりますけど、そんな案もないのでこのまま進めますよ。
まぁせいぜい注目を浴びることですね」
そういうと、メディナは手刀に魔力を込めて下腹部に一撃を加える。
「(ひっ!?)」
裂かれたかのような衝撃に驚く鈴音だったが、裂けたのは自分の体ではなく巻かれていた金属箔。
これが裂けることで彼女のスカートから下――黒ソックスと革靴、そして覗き込めば白のパンツが見えることとなる。
「(に、逃げれる!?)」
「はい残念、本当にゴミですのね人間って!」
はし、と金属箔を掴むと、メディナは二の句もなく魔力を流し始める。
「(あああああああっ!!)」
ショックに体が硬直し、棒立ちになる鈴音、その意識がうっすらと消え失せていく。
自分の姿こそ見えないが、どこか甘い香りすら漂う。
これはチョコの香り。しかし自分の姿は見えない。見えないまま、意識だけが消えていき……。
「(や、ぁ……なに、なんな、の……?)」
下腹部と細い脚を残し、動くことすらもままならなくなった鈴音。
恐怖か、それとも窒息か。唯一生身だった足が震え――黄色い滴りがじょわぁと音を立てて漏れだす。
「うわ、こいつ漏らしやがったです!?」
メディナは数歩下がって敬遠すると、それに合わせるように鈴音の足も崩れ、棒のように不自然な形で倒れていく。
「まったく最後の最後までとんでもない人間ですの。でもマイルールは守りますの」
恐る恐る足で蹴り転がすと、金属箔が煙のように溶けていく。
すると、金属片で覆われていた部分は――何もない。
正確には人間だった面影を逸したかのようにのっぺりとチョコがコーティングされているだけだった。
スカートやブレザーはおろか、顔すら見当たらない。
おそらくこのまま全身を包んでしまえば、只の奇妙なオブジェクトにしか見えなかっただろう。
しかし、あえて今のメディナは人間味を残し――鈴音を奇妙なチョコオブジェにしてしまった。生きてるか死んでいるかもこれではわからない。
傷こそついていないが、倒れこんだ後ろでは、失禁した痕跡がまだ湯気をたてている。
それをメディナは渋々魔力で動かし、電柱に立てかける。
まるでメッセージカードと対にするかのように『1体目』が出来上がった。
「思った以上に時間がかかってしまったですね。間に合うかどうか微妙ですよ」
鈴音のバッグからスマートフォンを拝借し、時間を確認すると、メディナは金属箔と同じく、煙のように消え去る。
その場に残るのは、散乱したバッグとメッセージカード。
そして、鈴音――いや、人間の足が生えたのっぺりとしたチョコオブジェだけが残っていた。


被害者2『北野上・渚(きたのがみ・なぎさ)』

「えぇ、はい。それでは23時に。かしこまりました」
お決まりの定例区を告げ、電話を切る女性。年齢はおおよそ20代中盤か。
北野上・渚は男だらけの職場で一線として働くキャリアウーマン。
豊満な胸に柔らかな顔立ち、しかしその手腕の冷酷さは男を寄せ付けないことで有名だった。
そんな彼女が連絡用の携帯をしまい、メモ帳を確認すると奇妙なカードが挟まっているのに気づく。
「何かしらこのカード。ゴミにも劣るクズ人間様へ……なにこれ気味が悪い」
丸めてバッグの中にしまい、要件を書き終えると――別のページにまた差し込んだ覚えのないカードが挟まっている。
「なんなのこれ、さっき捨てたはずなのに」
おかしい。そう思いバッグの中を確認するも、先ほど丸めて捨てたカードが入ってない。
「……奇妙な話ね、この手の嫌がらせは初めて」
取り出し、目を通すが極めて無礼な言い回しに失笑すらも漏れてくる。程度の低いクレーマーのいたずらだろうと考えた渚は『ゴミにも劣るクズ』の部分に二重線を引き、そのままバッグの中にしまう。
『そろそろ飽きてきたです。今日はいそがしいのですよー?』
えっ、と声を立てる渚。地の底か、天より響く声は渚の耳に届く。
「どこなの? と言うか、あなたがこの馬鹿げたメッセージカードを送ったの?」
「ご明察ですの。でも丸めたり書き直しても無駄だって言ってますの」
バッグからふわりとメッセージカードが浮かび上がると、『人間様へ』と訂正されたカードの横に『←バーカ』という文字が浮かぶ。
「どこにいるの、警察呼ぶわよ!」
「呼べませんよぉ、何から何までメディナの思うがままですの。不可抗力と思って宣言通り身も心もチョコレートになるですの」
その言葉とともに足元から徐々に、甘い香りとともに濃褐色が浮かび上がる
「くっ、110番」
急いで警察へ緊急連絡するも、相手にされないと考えたか同僚に連絡をいれる。
「もしもし山口くん、いまどこにいるの!?」
「目の前に居ますですよぉ、無駄な抵抗ってやつじゃないかです」
電話口に聞こえてきたのはさっきから響く声。
「ちぃっ!」
別の同僚に電話するも同じ。
徐々に携帯を持っていない腕や両足、豊満な胸部と色が侵食していく。
「ど、どういうことなの。どこに電話してもかからないじゃない!」
『んっんー、じゃぁじゃぁ、貴女がさっき電話した人にかけたらどうです?』
既に首元にまで褐色が及び、携帯を持つ腕すらままに動かせない。最後の望みをかけて、かろうじて動かせる指でリダイヤルを押す。
「(お願い、かかって……!)」
願いが通じるか、数回コールが鳴り、電話口から聞こえてきたのは――先ほど聞いた中年男性の声。
「もしもし桜田です」
「もしもし、先ほどお電話した北野上です。大変申し訳ありません、すぐ警察を――」
「北野上さん? や、さきほどって――さっきまで電話切ってましたけど」
その瞬間、彼女の顔がまだ表情を表せるなら、未知の怪物にでもあったかのような表情を見せただろう。
唖然呆然。まさに狐につままれたような顔のまま、携帯を取り落とした渚の全身は濃褐色に覆われ――。
「もしもし、もしもーし!」
「ハイ一丁上がりですの」
その言葉とともに、メディナは携帯を引き縫っくように取り上げ、通話を切った。
「(私はチョコ、チョコなのよ、ぎっしりつまったおいしいチョコ、うふふ、あはははは)」
最後は心すら壊れたか、感情の変化すら出せぬまま北野上・渚は肉体を失った。
そして、その全身――そして心までチョコレートと化したのだった。
「遠隔催眠って使わないものだと思ったけど、役に立つものですの。ん、ちょっとビターミルクですの」
チョコ像になった渚に脚立をかけ、舐めながら顔を修正するメディナ。
そう、人間である渚は気づかなかっただろうが、これは全てメディナの猿芝居であった。
『はい、じゃぁもう一度確認しますですよ? 貴女は23時に近くにある橋に来る。いいですね?』
「えぇ」
『そして、そこでメディナの、この声を聞いて、身も心もチョコレートになるですの。いいです?』
「はい」
『じゃぁ確認ですの。それで、いつ頃に行けばいいですの?』
「それでは23時に」
『それじゃぁお願いね、身も心も生まれ変わらせてあげますですの』
「かしこまりました」
メディナは取り上げたスマートフォンで渚の会話を魔力的にジャックし、遠隔催眠をかけた。
電話番号は知らなくても良かった。何故ならあのメッセージカードを受け取った人物の素性から個人情報、現在位置まで、全てメディナの手中に収めることが出来る――。
そのような魔法をわざわざかけておいたのだ。電話をかけるなど大差ない。
ちなみにスマートフォンにはロックがかかっていなかった。これはメディナではなく鈴音のミスだ。
「んふぅ、いい感じに仕上がりましたの……あ、もう23時。あと1人、ですの!」
メディナは一陣の風となって消え、その場にはキャリアウーマンのチョコレート像と、胸元に挟まったメッセージカードだけが残る。
その表情は不安に驚愕も不安もなく、以前のような冷酷さを感じさせない悦楽を浮かべていた。


被害者3『七咲・真子(ななさき・まこ)』

――午後11時、大通り交差点のはずれ。
「さて、あと1人がまだですの」
実はまだ1人、メッセージカードを見ていない人物がいる。
ちゃんと配ったものの、こういうことはよくある。
よくあるとはいえ――このままではどうしようもない。
慌てながらメディナが走っていると――目の前に人の姿。
「きゃあ!」
「ひゃぁっ!?」
正面衝突、いくらメディナとはいえ少女の体を持つ彼女だ。ぶつかれば痛い。
同じように鼻をさすっているのは、赤い服とズボンを身につけた少女――というより、中性的で少年にも見える。
胸もさっきの渚と比べて全くない。
「あたた、大丈夫ですか?」
「あうぅ、無事ですけど……あれ」
『見つけた』という顔になるメディナ。
眼の前にいる人間のズボン横には、メディナの飛ばしたメッセージカードが引っ付いている。これでは見えないはずだ。
「ごめんなさい、とりあえず近くに事務所があるのでそこで休みましょうか」
「ううん、大丈夫ですの。それより、ズボンに何かついてますの」
首を小さく振り、確認させる。それと同時にメディナの脳内に目の前の少女じみた子――七咲・真子の詳細が刻み込まれる。
「(ううん、これも何かのアレってやつです。もう時間もないですの!)」
「そうそう、今日はイベントごとがあって、その……」
「ふえ?」
何やらもじもじしだす真子に、メディナも手が止まる。
「なんですの? メディナはちょっと忙しいですの……あ、言っちゃった。まぁいいですの」
「とと、実は今日はあるイベントでお菓子を2人で食べ合うって企画がありまして」
「ふむふむ」
座ってよく話を聞いてみると、どうやらこんな感じだ。
今日のイベントというのは、お菓子を2人で食べ合う日で、あるお菓子会社が企画したものらしい。
そして、真子だけが恥ずかしさのあまりやり損ねて、今に至る――という訳だ。
「本当にこんなこと頼むのも恐縮というかなんというか……」
「うーん、まぁもうそろそろ時間ですの、メディナで良ければいいですの」
「ほんとですか!?」
身を乗り出す真子にちょっと引くメディナ。こういうタイプは少々苦手だ。
「ほ、ほんとうですの。さぁどこでもいいからお菓子を出すですの」
「……はい」
お菓子の袋を取り出し、その中から細い棒状のお菓子を取り出す。
「これを互いの口に含んで……食べ合う。いや途中まででいいですけど」
「……これを企画した人間は相当なエロエロ野郎ですの、顔を見てみたいですの」
真子の含んだお菓子の反対側をメディナが口を含む。少々顔もあかくなる。
「ん、んん……」
真子が徐々に食べていく。ボーイッシュな顔立ちをしたその顔が迫ってくる。
「ちょ、ちょっと急ぎすぎですの!」
メディナも同じく食べる。食べるが……同時に口内で舌が怪しい動きを見せる。
「ええと、もうこのぐらいで……」
「ん、んーっ!」
メディナが『ダメだ』と言わんばかりに催促し、食べ進める。真子の顔は徐々に赤らみが現れ始める。
「(どうしようこのままだとキス、いやでも女の子同士だし別にこういうのもいやいやそういうのもどうかなって)」
「ん、もういいですの」
えっ、という顔とともに、メディナがにっこり微笑む。
接触まであと3cm、その間合いでお菓子が褐色に染まり――真子の口内にチョコの濁流が流れこむ。
「ん、んんんーーーーっ!!!!?!?!?」
「もうくっついたから離れませんの、でも大丈夫ですの、人間をやめていつまでもそのキュートさのまま居続けるのですの」
驚いたかのような顔つきが突然困惑する。ボーイッシュな彼女ではあったが、実は可愛い物に憧れを抱いている一面もあった。――それをメディナはしっかり記憶していたのだ。
真子に流れこむ褐色濁流は見る間に内臓を埋め尽くし、喉元や口内にまでせり上がる。
乾くこと無くチョコはとどまり、しかし血や肉を内部だけキレイに犯してチョコに変えていき――真子の人間性が失われていく。
「じゃあ仕上げですの。はーい可愛いポーズするの」
そして、メディナの眼が微かに光ると、真子はそのボーイッシュな顔つきから想像できないような上目遣いを見せる。
それを見計らったかのように息を吹き込むと、くぐもった音とともに真子の目からチョコが吹き出し、そのまま動かなくなる。彼女の全身に魔力を含んだチョコが行き渡り、今の彼女は老いることも動くこともない、人間の形をした精巧な液体チョコを入れた容器へと生まれ変わったのだ。
「まぁまぁの味ですの、さてこれで全部。明日が楽しみですの」
身を乗り出し、真子の目から垂れたチョコを大切なモノを奪うかのように丁寧に舐めとっていく。
口づけ、わざと息を吹き込んで可愛らしいポーズを取らせた真子からチョコの涙を流しては舐めをしばらく楽しんでいたが、次第に飽きたのか野ざらしにすることにした。
「あとはこれをこうして……ミッションクリアーですの」
無い胸の谷間を強調させるかのような上目遣い。その胸元に付けられたメッセージカード。
そこには『七咲・真子だったもの 制作:メディナ・ラディナ』と記されている。反抗した鈴音は別の文言を書いたが、渚の胸元に挟まった文言にも同じことが記されているはずだ。
「たまにはこうするのも悪く無いですの。あー、楽しめたーですの♪」
その言葉とともに、メディナの姿が大通りより消える。
あとに残されたのは大勢の人と、遊びではめられた、液体チョコが詰まった人間だったもの。
その目からはつうと、チョコレートの涙が流れ落ちた。


◆結果

翌朝、3体の奇妙なオブジェは怪事件として周囲を賑わせることとなった。
特にインターネットでは3人の実名が飛びかい、とりわけ大きな変貌を遂げなかった真子と渚に関してはカルト的なファンが祭り上げるほどだった。
回収された3体は警察の管轄下におかれ、溶解しないよう特殊な冷蔵室に保管されているが……元に戻せる見込みは少ない。
2体目に回収された渚に酷似したチョコ像は、その構造そのものがチョコレートそのもの。
3体目である真子は外見こそ人間そのものだが、内臓は全て消失。
しかし血管は残っているようで1時間あたり500ミリリットルの液体チョコが自然と精製され、逐次処理しないと開いた口や目からだらだらとチョコを垂れ流し続ける奇妙なオブジェとなっている。
まるで魔法としかいいようのない2体。しかし、これが神がかりでも何でもなく、人為的なものと確証を得たのは、最初に回収された鈴音に付属されていたメッセージカードだった。
『この子は随分と手を焼いたので一段と酷くしましたの。
もしかすると生き返るかもしれないですし、人間が手を加えて殺しちゃうかもしれないですの。
でもメディナは手を出しませんの。楯突いたことを後悔しつつ、異端審問の連中に助けてもらうといいですの』
さまざまな解析の結果、鈴音は生きていた。
文面からは人間に対する時代はずれの憎悪が感じ取られ、悪意をもってこのような残虐な加工を施したとしか考えられた。
鈴音は多少呼吸が出来る状態だが身動きが取れず、常温でとかそうとしたところ激しく暴れだしたので手を加えられない。
『チョコと皮膚が一体となり、溶解すると体まで解けるのではないか』という見解もあるが、現代の科学ではそれを実証するすべはない。
結果、まだ3体は警察が保管しており、この先どのように処理されるかは未定のままだ。
この状況をメディナはどこかでほくそ笑んでいるのかもしれない。
それを知るすべは、誰にもわからない。

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