書きました。
この世界には「冒険者と呼ばれる」者たちがいる。未知の財宝、遺跡を見つけて一攫千金を狙い、実際に得たものも数多い。
緑髪の少年、ヘキサドリィは他者の結末を先読みする力を有していた。先に読み取り、未来を変えることができる力。『エンドブレイク』の力に導かれるように、彼は洞窟へと入っていき――。
「やっぱり合ってた! この宝箱には何が入ってるんだろう?」
無事お目当ての宝箱を見つけられた。そう、『宝箱を見つける』という結末を先に読み取り、手に入れれば自分のものとする。この力と数多の遺跡があるからこそ、この世界では冒険家が数多く存在し、仕事として成り立っているのだ。
「でも結構大きいな、よいしょ」
手に入れた宝箱には鍵がかかっていない。ドリィは15歳にしては小さく細い腕を使い、箱を開ける。何か入ってればよし、モンスターでも倒すだけの力はある。
「……あれ?」
だが、宝箱には何も入っていなかった。多少嫌な予感がするも気配はすぐに消え、ドリィは首を傾げるばかり。
「確かに見えたのは宝箱だったのになぁ。先に取られちゃったのかも」
もしや自分より先に箱の中身を得たものがいたのか。そう考えようにも財宝はおろか、手がかり1つすらないのでは探しようもない。
「まあいいか、なんだか疲れた……」
ドリィはうなだれつつも帰路につき、その日の探索を終えることにした。幸いドリィの入った洞窟は定住している街から近い位置にある。また見つかればそれでいいやと言う気持ちが、なおさら彼を帰路につかせた。
しかし、次の日の朝……。
「ううん……!?」
ドリィベッドから起き、目をこするとなんだか痛い。自分の手なのに、ゴツゴツしている。こんなものでこすったら目を痛めてしまう、そんな痛みに苛まれて眠気も吹き飛ぶ。そして、おもむろに自分の手を見た。何かが、おかしい。
「なに、これ…?」
ドリィは青ざめた。その手は人間の形を逸し、蹄となっていたのだ。しかも耳もなんだか違和感がある。
「うわぁ……」
姿見には緑の髪から生える耳も人間の耳ではなく、尖った獣の耳が生えた自分。これは間違いなく異常事態だ。
「どどどどうしよう。昨日の探索で何かにやられた? でも何か居たわけでもないし……」
色々考えてもドリィでは結論が出ない。かと言って病院にも行けない。こんな時は――。
「これは…何か変なものでも開けたですぅ?」
「うん、ちょっと宝箱を」
ドリィが駆け込んだのは親友であるメアリーの家だ。淡いピンクのシャツにスカートと少女じみた姿だが、男だ。いわゆる男の娘であり、ドリィとは冒険者としての付き合いも長い。加えて呪術師でもあるメアリーなら、何か知ってるかもしれないとドリィは踏んだのだ。
「とにかくこんな姿じゃ着替えもできないし、何か知らないかなって」
そんなドリィはパジャマ姿。手足がではさすがに着替えられない。
「うーん、こういうのは呪いの原因を壊すのが一番だけど…自分で解呪とかできないですぅ?」
ドリィは「あっ」と、今気づいた顔をして空に魔法陣を書く。今更だが、彼には治癒魔法の心得もある。簡単な呪いであれば解除の心得も習っている。
もしかしたら解除できるかもしれない。そんなことを願いつつ魔法陣を書く……が、途中で鼻がムズムズしだし始めた。
「は、ひ、へくしっ!」
思わずくしゃみをすると同時に、ドリィのパジャマははじけ飛んだ。
「ひゃあ!」
「な、あわわわ……」
服がなくなり慌てるドリィだが、問題なのはそこではない。
「毛、毛が、もこもこに」
そう、くしゃみと同時にドリィの全身から羊毛が吹き出し、服の代わりに覆ってしまったのだ。もっこもこの全身は呪いが解除したとはおもえなければ、肝心の手足も治ってなかった。
呪いがひどくなったわけではないが、治ったわけでもない。むしろ、このままでは――。
「これは……」
「もう、やるしかないですぅね」
2人は宝箱のあった洞窟へと急いた。この洞窟はもともと山賊が占拠していたが、いつの間にかいなくなっていた場所。他に原因があるとすれば…。
「あった、宝箱!」
そう、宝箱しかない。ドリィは宝箱のあった部屋にメアリーを連れ、再び戻ってきた。その傍ら、メアリーは壁に掘られた文面が目に留まる。
「これ、何ですぅ?」
メアリーが見つけたのは、山賊のものだろう日記だった。どうやらこの洞窟には怪しい仕掛けが多く、この山賊も体がどんどん獣化していく呪いにかかっていたようだ。
「最後は宝箱や武器を壊したら収まったってあるですぅ」
「てことは、やっぱり宝箱を壊せば元に戻るかも?」
メアリーは首を縦に振る。可能性としては非常に高い。そんな宝箱が、目の前にある。
「もしかしたら何か出るかも。一応構えておいたほうがいいかも」
メアリーは杖を構え、ドリィは破壊魔法のスペルを唱える。だが、目に強烈な痛みを覚えて言葉が止まる。
「うぅ、目が……」
「あわわ、しっかりするですぅ!」
ドリィの瞳は羊のように縦長になり、もはや羊獣人と言って遜色ない。このままでは知性まで奪われ、モンスターになりかねない。
「う、うん。壊せば、元に……」
言葉もおぼつかなくなりつつある。早く、早くと自分に発破をかけ、そして……魔法が完成した。
「コレ、デ!」
ドリィはしゃがれた声で呪文を唱え終えると、宝箱はカタカタと音を立て、内側から爆ぜるように壊れた。同時にドリィの体から妙な気配も消えていった。
「どうですぅ?」
「少し、ムズムズは収まったかも。頭の痛みも、しゃがれ声も……ない」
ドリィの不安げの顔に、明るさが戻る。大分進行しているとは言え、呪いのもとが壊れた以上徐々に戻るかもしれない。
「ありがとう! あとは戻るまでちゃんと解呪すれば大丈夫そう」
呪いの原因が消え、2人の顔も明るくなり、互いに抱き合う。が、そんな2人を影が覆った。
「あれ、なんだろう、上から――」
メアリーが上を向こうとしたまさにその時、白い塊が2人を呑み込んだ。
後日、ある冒険者が洞窟でとんでもないものを見つけ、街の話題をさらった。
洞窟に佇む獣人の少年と、女装した少年の蝋像は、つららが垂れて見栄えが悪いながらも、そのリアルな外見に惹かれるものも少なくなかった。
冒険者は不気味ながらも倒錯的なこの像を好事家に売り払い、財宝と大差ないお金を手に入れた。この冒険家こそ、ドリィが結末を視たという人物だとは、ドリィ当人しかわからないだろう。
そして、そのドリィといえば――。
「動けない、視られてる……」
「うぅぅ、はずかしいですぅ……」
好事家の手によってそのままの姿でミュージアムへ運ばれ、飾られることとなった。幸い、ドリィもメアリーも意識は残っている。しばらくして蝋が緩めば戻れるかもしれない。
だが、それまでは題名をつけられ、オブジェとして衆目を集め続けるだろう。
『略奪と歓喜の瞬間』という名の蝋像として。
コメント
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いろいろとてんこ盛りですばらしいですー。(*´ω`)
男の娘まで登場するとは予想外でした。
最後の結末も自分には驚きだったです。
楽しませていただきました。(=゚ω゚)ノ
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返信遅れて申し訳なく! ありがとうございました!
油断したところを最後にどかんというのは結構スキなのです。
男の子は書くよ、どんどん書く