かけるうちにどんどん書いていこう、練習になる。
いつものように困ったときはメディナさんの出番です。
今回のキーワード:粘土化、肥満化、オブジェ化、像化(埴輪化)
盛りだくさんすぎる……。アンカーでもつけようかな
「あー、お正月も節分も終わって時期逃しちまったですの」
ソファーに寝転がりながら、ゴロゴロとしているパジャマ姿の褐色少女ことメディナは、とても暇を持て余していた。
お正月にはおせち、節分には恵方巻きや豆まきとするはずだったのが、すっかり忘れていたからだ。
「このままだとメディナの存在も忘れ去られてしまいますの。何かしないと……」
くすんだロングヘアを振りつつ、おもむろに窓を開けるメディナ。そこには、見知らぬ光景が広がっていた。
「……おかしいですの。景色が違いますの」
これまでは人目につかないよう、森のなかに居を構えていたメディナ。しかし、今は山の上にいるかのように、街と海を一望する立地になっているではないか。これはなにかが起こったに違いない。
「時空の偏移? まあどっちにしても追手を撒けそう、ということは……」
つまり、そういうことだ。メディナはパパっと着替えると、隠れ家を飛び出した。
◆真っ白少女と謎のオブジェ、そして埴輪
「なっ、ぬしはなにものじゃ!?」
「メディナですの。暇つぶしに遊ばせるのですの!」
やってきたのは木々をバックにする大きめの神社。ここから漂う力は、まるでむき出しの魔力が足を生やして歩いているかのよう。メディナにとってひときわ興味をそそられるものだ。
そして、話も途中で切り上げたメディナは早速、建物の近くにいた真っ白な角少女に向けて粘土を飛ばしだした。
「むぐっ!? これは……」
「魔力を吸い取る粘土ですの。まあ魔力以外にも色々と吸い取りますの」
メディなのはなった粘土は真っ白な少女を多い包み、押しつぶすようにもみくちゃにしだす。元々肉がないせいか、すでに人としての原型も逸していた。
「むぐぐ、い、色使い……」
「色使い?」
「色使いがまだいる。五体満足でいられるとは思わんことじゃ」
「それはそれは、おいしそうですの」
そういうや、メディナは顔に粘土を追加で押し当て、少女を黙らせた。一塊となった粘土は何も言うことなく、しかし色鬼の魔力をそのままに佇んでいた。
「うーん、このままだと御神体がないですの……よしっ」
メディナは粘土をねじり、熱を加えながらねじっていく。徐々に伸び、奇妙な形を保ちつつ固まっていくオブジェは、芸術作品のような趣すらある。最後に角を生やせば、真っ白で歪なオブジェの出来上がりだ。
「うーん、これは新しい御神体になりますの」
メディナが完成したオブジェに対し、満足そうにしていると、喧騒を聞きつけたのかさらに3人の少女が駆けつけてきた。
「ちょっとあなた、ここで何しているの!?」
「紫亜! 変に突っ込んだら危ないって」
「この人、なんだか怖い……」
3人からも先程の少女に近い魔力を感じる。しかし、そこまで強い力を感じない。3人で3分の1といったところか。
「怖いとは失礼ですの。メディナは暇をつぶしていただけですの。ところであなた達が角っ子の言っていた色使いですの?」
「角っ子……色神さまに何を」
2つ結びの少女、紫亜が木の薙刀を持ってにじり寄り、対して木刀を持った少女、真畔はオブジェを見やる
「まさか、その変なオブジェって!?」
「ご明察ですの、何か強そうだからちょっかいをかけたら、あっさりでしたの」
真畔はメディナの醜悪な態度に顔を歪ませ、さらににじり寄る。
「元に戻しなさい。さもないと――」
「さもないと、どうなりますの?」
「こうよ!」
真畔が素早く木刀を振り払うと、切っ先から紫色の魔力が飛び出した。
「おっと」
メディナは軽く避けつつも腕に紫の色が当たると、まるで重りがついたかのように動かなくなる。まるで腕が反抗しているかのようだ。
「なるほど、これは中々面倒な魔力。でもですねぇ」
メディナは真畔の懐に飛び込み、粘土を胸にねじりつけた。
「速い!?」
「戦い方が甘々ですの。なので、こうしてやるですの」
メディナは粘土に自身の魔力を注ぎ込む。すると粘土は紫を帯びつつ、徐々に真畔の体を、セーラー服を侵食していく。
「ぐ、う、ぐぐ……」
「さっき受けて分かりましたの。この魔力は生命力も混ぜていますの。つまり――魔力が空になったらおしまいですの」
さらに粘土をねじりつけ、真畔の体に広がっていく。次第に色は薄くなっていき、真畔の息も上がっていく。
「真畔ちゃん!」
「おっと、お楽しみはこれからですの」
メガネを掛けた三つ編みの少女、藍が橙色の魔力を放つも、何かに遮られて防がれる。
「くそう、くそう」ともラスも、次第に意識が遠のき、顔は真っ白になっていく。色が尽きて行く証拠だ。
「それではサヨナラですの。後の2人はメディナにおまかせですの」
真畔は小生意気なメディナの声を聞いていたか。そこまではわからない。ただ、言い放ったタイミングで彼女の肌が粘土と化し、固まり、目も凹んで埴輪剣士のようになったのは確かだ。
「あ、あぁ……」
「さて、このマシンは何をするマシンでしょう? 答えは2人の体に聞いてみますの」
まるでひき肉製造機のようであり、プラスチックでできた粗末な外見はおもちゃのようでもあった。だが、でかい。ゆうに3m四方はあるマシンは不気味さを漂わせていた。
「藍、ここはいったん逃げて――」
「紫亜ちゃん、それが……きゃっ」
紫亜が藍の方を向いた直後、メディナが放った粘土が紫亜に巻き付いた。そして、すでに巻き付いて動けなくなっていた藍に磁石のようにくっつく。
「戦い方が甘いですの。ではでは、答え合わせですの」
メディナが2人を宙に浮かせ、マシンを起動させる。ハンドルが自動で動き、ドリル状のスクリューが微笑むかのように待ちわびる。
「いや、やだやだ、やああ!?」
「神さま、助けて――」
紫亜と藍は放り込まれ、さらに上からフタをするようにゴトゴトッと重たいものがフタをする。ハンドルの回転が鈍り、粘土と2人が混ぜ合わされていく。
そして、ぶちっ、ブリュリュ、ブググゥゥ……と空気が破裂する音を立てながら、青と橙がキレイに分かれて混じった粘土が出口からひねり出された。
「答えは粘土生成器ですの。中々面白い混ざり方をしていますの」
メディナは興味深そうにしつつ、出来上がった大量の粘土を真っ白な少女と同じように捻り上げ、オブジェを作っていく。最初に作ったものより一回り大きな形になったが、ひねりを入れたり手を埴輪のように大きく曲げたりし、おかしな形のまま固め上げた。
こうして2体のオブジェと1体の埴輪像は、神社に野ざらしとなった。
◆2人の少年と神社前の粘土像
「うーん、我ながら傑作ですの。さてあと何人のこって――」
「うわっ、何これ! 変なの!」
少年の声が、メディナの言葉を遮る。メディナはムッとしながら声の方を向くと、2人の少年が入口の前にいるではないか。
「ケン、人を指差すのは良くないって……」
「でも変だぜ? しかも神社で芸術展やるとか聞いてないし」
「そうですの。人を指差すのは失礼ですの」
メディナはワープして彼らの元へ寄ると、2人から驚きの声が漏れる。
「ご、ごめんなさい悪気があったわけじゃないです」
「あ、変な人だ。何か変なのを作ってるけど、芸術家か?」
おどおどとしている少年に、失礼な口調で質問をしていく少年。どちらからも先程の少女らと同じ魔力を感じる。恐らく彼らも色使いなのだろう。
「(ここはちょっと乗ってやるとしますの)」
しかし、メディナはあえて彼らの言葉に乗ることにした。なにせ面白そうだから。
「そうですの。メディナは前衛芸術を極めていますの。ここの神主さんから色々作ってくれって言われたので作っていましたの」
メディナの言葉に、2人は『へぇ』と声をそろえる。
「それじゃぁまだまだ作るの?」
「まだまだ作りますの。リクエストも聞きますの」
「じゃぁ俺は恐竜がいい!」
その言葉に、メディナの脳裏で電球が灯る。次にすることを思いついたからだ。
「なるほど恐竜。ではでは、早速作ってみますの」
「作るって、材料は――」
健児が訪ねようとすると、先程藍と紫亜を変えたマシンが彼らの眼前に現れた。
「材料? 君ですの」
そういうやメディナは健児を宙に浮かせ、マシンの入り口へと運び込む。
「この中に粘土と君をぶち込んで、混ぜ合わせることで材料の出来上がりですの。今回は型も使いますの」
出口と思わしき場所には四角い箱が現れ、近くにいた少年――サンは思わず腰を抜かす。
「こ、これって……」
イロクイでも色鬼でもない。しかしあまりに不条理で無茶苦茶な存在。まさに『魔女』が目の前にいる。
「サン! たすけてくれ、サン!!」
「ふふふ、いい声で鳴きますの。でも駄目ですの」
ぽい、と粘土が撹拌されているマシンの中に健児を投げ込む。
「やめっ、うぷっ、が……」
粘土に飲み込まれ、瞬く間に緑色に変色していく粘土。それは出口から出ることなく、四角い型へと流し込まれていく。
「あ、あぁぁ……」
そして、粘土が全て流し込まれると、メディナは指を鳴らし、型を丸焼きにする。さも出来上がりが楽しみと言わんばかりの表情に、彼は戦慄した。
「逃げないと、おまわりさん、いや、六宮さんとかに伝えないと」
楽しげに火を見つめる魔女に、サンは一目散に逃げようとした。だが、いくら走っても神社の前から離れられない。まるで一定の次場所でループするかのように走っても、走っても、メディナから離れられない。
「さぁて、君は何になりたいですの?」
メディナはボロボロになった型を叩き、浮かせて取り外す。そこにはしっかり焼きあがり、表面もつやつやになった緑色のティラノサウルスが出来上がっていた。
「な、何にもなりたくない。人間でいたいです……」
「ふーん、でも駄目ですの。そして何にもなりたくないならメディナがいいものにして上げますの」
「そんな!」
ここで『仲間になる』といえば助かるかもしれない。そう思ったが、あとの色使いを裏切りたくない。そんな気持ちがサンを思いとどまらせた。
しかし、メディナにとって煮え切らないサンの言葉は歯がゆく感じ、健児と同じく宙に吊し上げた。
「まあどっちにしろ、モノになってもらいますの」
しばらくした後、緑色の恐竜像と、橙色の人面犬の像が揃って並べられた。像の表面にはそれぞれ『少年だったものの像 メディナ』とだけ書かれ、神社の入口に黙したまま、どこか悲しげに佇んでいた。
◆3人の少女と肥太る粘土
「これであとはー、まあ手当たり次第ですの」
メディナは満足げに結界を外す。すると白と黒の色が眼前に飛んできた。
「うわわっ」
先程受けた色に比べ、殺意がこもった色。受ければただではすまないと感じてメディナも尻餅をつく。
「やっぱり誰かいた!」
「何か変だなと思ったら……」
そのはるか先、翠ときらりは色合わせをして結界を張っていた主を蹴散らそうとしていた。サンが吊るされ、変なマシンに放り込まれる姿を見た以上、人であろうと許せなかった。ただそれだけで色をぶつけたのだ。
「ありゃりゃ、思ったより結界の範囲が広すぎましたの。ここは広いところに逃げますの!」
「にがしたらまた被害が出るかも。城奈お願い」
「任せるのね! これ以上街をメチャクチャにさせないのーね!」
城奈が赤い色で身体に印を書き込み、ジャンプする。すると3人は羽が生えたかのように空を飛び、メディナを追いかけ始めた。
「げげっ、これはめんどくさいですの。ええと近くの広い場所はと」
幸い広い場所はたくさんある。メディナは適当な空き地に身を潜め、3人を待つことにした。
「出てこないと物ごと吹き飛ばす」
「すーちゃんちょっと怖い……」
「そうなの、少し落ち着くのね」
なだめる2人だが、翠は偶然にも彼らがメディナの毒牙にかかる瞬間を見てしまった。それだけに怒りは強かった。
「そうそう、落ち着かないと足元をすくわれるのね。こんな風に」
そこにはメディナに腕を捕まえられたきらりと城奈の姿があった。
「きらり、城奈……!」
「おーっと、下手に色をぶつけると巻き添えですの」
「ごめんすーちゃん。いつの間にかこの人が後ろに……」
「イロクイでもないし色鬼でもない。何なのかさっぱりなのね」
「メディナはメディナですの。そしてメディナはこうしたいのですの」
そういい、メディナは2人を宙に浮かせて機械の中へと投げ込んだ。機械はしばらくすると鈍い音を立てつつ薄いオレンジの粘土をひねり出し、地面にボトボトと落としていく。
「うーん、色がなんだか薄いですの」
「……」
地面に落っこちた粘土はピクリとも動かない。しかし、薄いオレンジ色の粘土は、紛れもなく城奈ときらりが混ざったもの。見れば見るほどにメディナへの怒りがわき、黒い力が湧いていく。そして、メディナが棒切れで粘土を突付こうとしたその時、怒りは頂点に達した。
「壊れろ!」
放った黒の色はマシンに直撃し、黒いヒビが入る。そのまま侵食していく色はあっという間に全体にまで及び、巨大な粘土生成器はバラバラに砕けた。
「おおぅ、マシンがぶっ壊されちまったですの。なんて力ですのこいつ」
「許せない、絶対に、許さない!」
黒の色をあちこちに振りまいていく翠。それを避けるメディナだが、周囲は色の影響で土管や木が風化したりバラバラに砕けたりと、凄まじい状況を催していた。
「(……)」
そんな時、粘土がうごめく様子をメディナが捉えた。意識を取り戻し、元の形へと戻ろうとしているのだ。
「粘土にされても元に戻ろうとするとか、中々強いですの」
本来粘土にした対象が元の姿に戻るはずがない。唯一、きらりの持つ白の色だからこそ成せる技といえよう。
「でも、そんなことも計算のうちですの」
メディナは粘土から翠に視線を移した。その瞬間、目の前に黒い色が飛んでくる。
「くっ……めんどっちぃですの!」
メディナの腕に黒の色が当たると、瞬く間にひび割れ、腕がバラバラに砕けそうになる。メディナは魔力で無理やり腕をつなぎとめると、勢い良く翠の下半身に飛び込んだ。
「っ!?」
1回りほど違う相手に突進され、倒れ込む翠。そしてメディナももんどり打って一緒に地面に伏す。
「ふふふ、魔力は強くても力はおこちゃまですの」
「はなせ、離せ! はなし、て」
ジタバタともがく翠。だが、メディナはがっしりと翠の首を自らの手で押さえ込む。下手に動けば締め上げ、へし折りもできる。だが、メディナはそんな無粋なことなどしない。
「断るですの。はい、あーん」
もう片方の手で翠の口を無理やりこじ開けると、ブツブツと呪詛を唱えだす。
「あがっ、あががっ」
嫌な予感がしてさらにもがく翠だが、何が起きようとしているのか気づいた頃には、すでに手遅れだった。
きらりと城奈が混じった粘土が、目のように赤い光をともしながら、ずり寄ってきていた。
「(カラダガ、イウコトキカナイノ、ノネ)」
「あが、あがが……(やだ、やめて。目を覚まして)」
意思があっても抵抗できず、一方は意思そのものを操られ――粘土スライムは開かれた翠の口に入り込み始めた。
「んぐ、おげっ、ぐぅーっ!!?」
「はーい入って入って。しっかり飲み込むですの。まあ吐いても入り込みますの。そういう風なゴーレムですの」
どんどん入り込み、吐こうとしてもスライムが自ら入り込む為、吐くことすら許されない。口を無理やり開かされているため、スライム本体を噛み切ることもできず、白目をむきながら翠は侵入物を飲み込まされ続けた。
「まだまだおかわりはありますの。プレーンですの!」
メディナの側から生成された粘土が、翠の口の中へと入り込んでいく。先程のスライムとは段違いの量は、翠のお腹を膨らませ、ぐにぐにと蠢かせていく。だが、まだこれでも序の口、本当の変化はここからだった。
「(身体が、重い、つぶれる……)」
飲み込んだ粘土が身についていくように、どんどんと身体が膨れていく。シャツが伸びていき、スカートがちぎれ、下着さえもどんどん伸び切っていく。
「もっ、やあ“、あああっ!!」
「はーい仕上げ仕上げ。いやぁもがく姿ってのはたのしーですの!」
さらに翠の口を拡げるメディナ。その口は先程より2回り大きく開くようになり、身体はメディナの首絞めがなくても動けなくなっていた。そして、メディナの手には、円柱型の粘土の塊。長さはゆうに20センチ。太さは10センチもあろう人間にの口には入らないだろう代物。
「そーれっ!」
「んんんんぐううううっ!!?」
それをメディナは翠の口にねじり込む。そして、翠の身体はその円柱を瞬く間に飲み込み、自らの肉に変えていく。半分まで飲み込みんで『パツン!』と布地が弾ける音が鳴っても、メディナは最後まで押し込み続けた。
こうして粘土をたらふく押し込まれた翠の姿は、たっぷり肥えた人間とは思えない姿となっていた。肉のついた顔や腹、手足。10~20倍近くにまで増えただろう体重は、起きようにも自重を支えきれるわけもなく、ジタバタするばかりだ。
「うぷ、うげ……ぶ、ぅ」
「ぷ、あははは! すっかりひどいすがたになっちまって! いやぁ傑作ですの」
「あ、あぁ……」
「こんなデブデブな姿じゃ魔法も打てそうにないですの。それに少しずつ変色していますの」
翠の手足の先から、少しずつ黒い色に変わっていく。
「あー……なに、ごれ」
「魔力を吸い取る粘土を材料にしたのですから、当然色を吸い取りますの」
どんどん体表が黒く変色し、黒い塊になっていく翠。スライムとは違う、まだ人の形を残しているだけに不気味ささえ感じる人肉塊は、もはや自分の体というよりも粘土の塊と称した方が良いほど。
意思を持った粘土の塊は、自らの力を抑え込めず、見る間に染まっていく。
「ここからどうなるかはメディナもわかりませんの。まあなんとかするですの」
そう言い残し、去っていくメディナ。憎らしい顔も、視界が真っ黒になるに連れて見えなくなっていく。
「ま、て……ぅ、ぐ、ぉ」
再び吐きそうになる翠だが、様子がおかしい。まるで中から、膨らむように――。
グボンッ! という音を立てて、膨れ上がったお腹が破裂し、再び形成する。段々腹になった真っ黒な塊は、さらに膨れ上がり、その場で粘土を増殖させていく。
「たすけ、だれ、がぁ……」
3人分の命を含んだ塊は動けず、そして何もできず、ただ膨れ上がりつつ、ひたすら助けを呼ぶだけの存在として空き地に野ざらしにされるだけだった。
黒粘土の塊は少しずつ増え、処理されない限りこの街を飲み込んでしまうだろう……。
◆すっきり
「ふー、やりたい放題しましたの。魔力も吐き出したし町の人々を粘土に変えるのはまた今度にしますの」
満足そうな笑みを浮かべたメディナは額の汗を拭き、隠れ家へと戻っていく。この街に元々いた色使いと色鬼はメディナの手によって無残な姿に変えられ、もはや守るものは誰1人としていない。
恐らくメディナが手をくださずとも、別の侵略者に寄ってこの街は滅びる運命となる。彼らがこの街を守っていたのだから。
そして、翌日。
「さて、魔力もいい感じに溜まっているし、今日は街を丸ごと粘土に変えてやりますの」
そういいドアを開けると、そこはまた別の町だった。
「――あれ?」
「すーちゃん、おまたせ!」
「待った待った。あとはサンが来ればバッチリだけど」
「よっ、待ったか?」
「あんたは待ってないし」
そして、メディナに寄ってめちゃくちゃにされた街も、何事もなくもとに戻っていた。何故戻ったのか。それを知るものは誰1人としていない。
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