この流れに乗るしかないでしょう。
モルゲッソヨ像の簡単なSSです。
モルゲッソヨってなんぞ? という話ですが。
これです。
「早速だが、この箱に上ってこのかぶり物をつけて欲しい」
この男は正気なのか? そう思ったものの、高いバイト代を受け取った以上は無碍にできない。何より生活にも困っていたのだ。
男の持っているかぶり物はのっぺりとした、頂点がなめらかなサークルを描いた奇妙な円柱のような物体。
「怪しいモノじゃないよね?」
「まぁ大丈夫さ、ともあれ上ってつけてくれ」
男に言われるがまま、台に上ってかぶり物を手にする。なめらかな触感と金属の冷たさがなんとも不気味だがーー私は躊躇することなくかぶった。
「素晴らしい、そのまましばらく姿勢をキープしていてくれ」
シャッターを切る音が続き、緊張からか身体が強ばってしまう。そのこわばりはどんどん強くなりーー少し疲れさえ感じるようになった。
「(ちょっとぐらい動いても良いかな?)」
そう思って身体を動かそうとしたモノの、動かない。指一本、動かない。
「(ちょっと、ねえ、これどういうこと!?)」
「うーんいい絵が取れた。そのついでにもう一つ頼まれて欲しいのだが、良いかな?」
良くない、と言おうとするも声が出せない。
「今の君の身体は金属の像になっている。あのかぶり物にはそういう呪いがかけられていたのだよ。まぁ多少怪しんだかもしれないが、それでもかぶってくれたことには感謝するよ」
私は怒りと困惑で気絶しそうになったが、指一本動かせないのと、気絶したらそのまま元に戻れなくなりそうな恐怖から、じっとにらむ――睨んでいる感情をとり続けた。
このかぶり物をつけている以上は、どんな感情をあらわにしても見せることができない。それがなんとも憎らしい。
「その他の見事だが、ある催し物に出展してもらいたい。バイト代はさらにはずもう。元にも戻す、たぶんね――と言ってもしゃべれるわけもないか。早くその邪魔な服を片付けて、美しい裸体を拝むとしよう」
そう男が言うや、しゃく、しゃくと布を切る音が耳に入り始める。
「(やめて!この服高かったんだから! それに全裸なんて聞いてない!!)」
服が布地に替わる頃には金属を覆っていた布地は外れ、乳白色の金属肌が外気に晒される。さらに何枚か写真を撮る音に、泣きそうになりながらもその顔はかぶり物に覆われ、見せることすら叶わない。
「(もう、いやだ、早く帰りたい……)」
そんな願いも聞き届けられることなく、男によって招かれた搬送業者によって梱包される女性。
「慎重に運んでくれよ、芸術品なのだから」
みずみずしい裸体が金属に覆われている姿は、業者の男性の目を奪いそうになりつつも、トラックに運ばれていく。
一体どこに連れて行かれるのか解らないまま、女性の心は次第に硬化し、モノのように何も考えなくなっていった。
まるで最初から自分が芸術品であったかのように……。
その後、かぶり物をした女性像は衆目を集めながらも、奇怪なコンセプトから奇異の目で見られることとなった。
そうじて『よく解らない』と評価をつけられた裸体像は、ある富豪の目にとまり、そのまま買われることとなった。
もはや元にもどれる機会はないだろう。だが美しさをそのまま保ちながら、よく解らない像として彼女は富豪の目を楽しませる芸術品として、新たな人生を送るだろう。
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